食べ物で争ったことがない子ども

「欲のない子だねぇ」と困り顔をする祖母の表情を覚えている。

ここから話すのは、物心がついた幼稚園から小学生までの間の記憶。

幼い私に何かほしいものを買ってあげたい祖母。
気持ちは嬉しいし、祖母は基本的に、ほしいものを与えることで愛情を表現する人なのだと認識してきた。

兄妹だけで祖母の家に泊まりに行くと、かなり祖母は甘やかしてくれた。
寝たい時間に寝て、起きたい時間に起きさせてくれて、基本的に外食(というか祖母は料理が得意ではない)で、それも好きなところに連れてってくれて、兄がゲームセンター好きだから、ゲームセンターで使うお金もかなり与えてくれた。

私は子どもながらに遠慮していた。
本能的に「いいことではない」と察していた。

だから、兄みたいにははしゃげなかった。
兄は家(父と母のいる実家)にいる時と正反対で、かなり祖母に甘えていた。

私はものを買い与えられすぎたり、ゲームセンターでお金を使いすぎると、のちのち母に怒られるだろうと思っていた。
怒られるのは祖母だった(こんなに子どもを甘やかさないで!って)けど、その光景を見るのも私は嫌だった。

そして、甘やかされることと愛情の違いも気づいていた。
かといって別に祖母を責めたいとかではなく、孫っていうのはそういうものなんだと思わせてくれたし、可愛がってくれていると捉えてきたし、甘やかしてくれる血縁者がいるのは私にとってよかったと思っている。

でも、母が祖母を嫌がる理由も分かっていた。
私がもし祖母の家にずっと住んでいたら、耐えられなかったと思う。
そんなことは、誰にも言えないけど。

一方、家に帰ると常に空気はピリついていた。
子どもを思い通りにしたいのは祖母と一緒だった。

祖母と過ごす時間の中、子どもらしくはしゃいでいた兄は、家に帰ると笑顔がなくなって、しゅんとおとなしくなる。

私は経済的に恵まれている家で育った。

自慢じゃないか!とかそういうのは今、省かせてほしい。

誕生日やクリスマスなど、イベントごとが近づくと、両親はおもちゃ屋さんに連れていってくれる。
私もそれは習慣的に学習していて、そろそろクリスマスだから…とか、ほしいものを考えたりしていた。

新品のおもちゃしか買ってもらったことがないなんて、今考えると本当に恵まれていたと思う。

でも私は、ほしいものがなかった。
おもちゃ屋さんに行くまで、CMやチラシからほしいものを熟考していたけど、これ!っていうのは特にない。

実際、おもちゃ屋さんに着いても、ほしいものが分からず悩む。

私の選ぶ基準は「比較的に安くて女の子らしいもの」だった。

親には金額の制限なんて伝えられたことはなかったと思う。
別に女の子らしいものしか買ってはいけないとも言われたことはないと思う。

でも私は勝手にそう思っていた。

せっかく子どもにおもちゃをプレゼントしたいというのに、何も選ばないのも親に申し訳ないもので、値札とおもちゃをよく見て、妥当だと思うものを選んできた。

私が覚えているのは、お湯に髪を浸すと髪色が変わるリカちゃん人形とか。
リカちゃん人形シリーズの美容室屋さんとか。
簡単なネイルができるおもちゃとか。
あとは、ミルキーピンク色のゲームボーイアドバンスとか。

それなりに高かったかもしれない。
でもなるべく万超えしないようにとか、小分けにプレゼントしてもらおうとか勝手に考えていた。

兄は、スーパーファミコン、64、プレイステーション1・2、ゲームキューブ、ゲームボーイ、ゲームボーイカラー、全部持っていた。
ポケモンは赤、緑、青、ピカチュウ版、金・銀、クリスタル、全部あった。
遊戯王もベイブレードもガンプラもなんでもあった。

男の子はゲームを持っていないと輪に入れないという男社会に理解のある親で、よく兄の部屋には男子が10人くらい集まっていた。
兄の人徳もあるが、そんなにゲームを揃えている家もあまりなかったのだと思う。

お金があるとあるだけ使ってしまう兄と、お金を溜め込む妹の私。
同じ環境に育ってもこうも違うのか。

例えば、家族で外食をする日は、私はなるべく安いものを選んでいた。
父は席に座ると、好きなものを食べなさいと言ってくれた。
でも、私はなんだか親に申し訳なくて、なるべく安いものを選んでいた。
母がこっちも美味しそうだよ?と私が選ぼうとしてるものより高いものを勧めてくると悩んだ。
遠慮して、自分が思う安めなものを頼む時もあれば、母がせっかく勧めてくれたものを、甘えて頼むこともあった。

回転寿司屋さんにもよく連れていってもらった。
100円寿司には一度も連れていってもらったことがない。
かといって、回らないお寿司屋さんにも連れていってもらったことはないけど、その中間的な回転寿司屋さんにはよく連れていってもらった。

そこでも私は値段を気にしていた。
ウニや貝なんて頼むわけがなかった。
勝手に、一番安いお皿からしか選ばないと決めていた。
いくらくらいはひと皿頼ませてもらったかもしれない。
そこでも父は変わらず、好きなものを頼みなさいと言ってくれていた。
家族4人で総計5000円ちょっと。
一番安いお皿は120円くらい。
これは高いのか安いのか分からない。

兄との食にまつわる共通点がある。

1.人の食べ物を勝手に取らないこと。
話し合いをしたわけでもない。
人の食べ物は許可なく勝手に食べちゃダメだよねという、暗黙の了解があった。
特に親から言われた記憶もないし、兄妹間で争った記憶もない。
とにかく、勝手に食べられたとか、勝手に食べてしまったとかはなかった。

2.大皿に乗せられた食べ物は、限りなく細かく、四等分して食べること。
うちは四人家族だ。
だから、例えば大皿にカットされた果物がたくさん乗っていたら、目で数えて四等分する。
これも、兄妹間で話し合ったとかはないし、親に言われたこともない。
いちごは一人いくつ、キウイは一人いくつ…と計算しながら食べるのが暗黙の了解だった。
母は今も「あんたらは数えて食べてたよね〜お母さんが食べるのほとんどなかった(笑)」と言うけど、ちょっと違う。
私たちは父の分も母の分も均等に残していた。
でも、見兼ねた母が、「食べていいよ」と言ってくれていたのだ。
それは父もそうだったと思う。
「これは、お父さんのだから」とか言って遠慮した時もあれば、じゃあ…と甘えて食べさせてもらったこともあった。

とにかく、食べ物で争ったことが一度もないのだ。
これは私の感覚では、少し変わっていると思う。
大事なプリンをきょうだいに食べられた!とか、食べ物戦争に負けた!とか聞くけれど、うちではそういうことが一切なかったのだ。

みんな、そういうネガティブなエピソードだけ言うもので、本当は仲良く食べている家も多かったのか?
私はそこまで人の家を知らない。

私の親へのプレゼントも少し変わっていたと思う。

母の日か、母の誕生日か覚えていないけれど、私は何故かミントンのエプロンを母にプレゼントしたいと思っていた。
改めていうが、これは小学校低学年の頃の話である。

ミントンの有名なカップ&ソーサー。

母は洋食器が好きだ。
ミントンの紅茶もフォションの紅茶も飲んできたし、もちろん食器もお客様用に揃えてある。

ちょくちょくデパートへ母とふたりで出かけることのあった私は、母にデパートへ行かせるよう促した。
どんな口車で促したかは覚えていないけど、母がデパートに行きたくなるように、行く用事を思い出させるように話したことは覚えている。

私は母と買い物へ行く時に、ふらっと母から離れることが多い子どもだった。
そろそろ母が会計するかなと思う頃に母のもとへ戻る。
そんな私を母は止めることがなかった(これも不思議なのだが、私には都合がよかった)。
今思えば、自閉というより、愛着がしっかり築かれていなかった気がする。

だから、母をデパートへ向かわせた時、母から離れてエプロン売り場をうろついた。
たしか、初めからエプロンだとは考えていなくて、売り場を見てエプロンがいいと決めたのだと思う。

デパートが大きな紙袋に商品を入れるのは知っていたから、それが入るくらいのかばんをあらかじめ持っていった。

私が選んだミントンのエプロンは、先に載せた画像のような柄のミントンらしいミントンのエプロンだった。
5000円はしたのを覚えている。

何事もなかったかのようにサッとプレゼントを決めて、母のもとへ戻った。
当時、携帯なんてものはうちの家族は持っていなかったし、そういう時代だった。

母は何も聞いてこなかった。
私は家に着いて、エプロンの入っている紙袋を自分の部屋に隠した。

プレゼントして、母が少し驚いていたのは覚えている。
これはあんまり普段使うことはできないね、と喜んでいた気がする。
使っているところをあんまり見た記憶がない。

こないだ、母の誕生日があった。
私はウエッジウッドのマグカップと珈琲と紅茶をプレゼントした。

これひとつ
ドリップコーヒー5パック
これはデパートで扱っていなくて
Amazonで買った
紅茶3フレーバーの詰め合わせ20包

母は洋食器や珈琲、紅茶が好きなのに、お客様用に飾っておいて使っていないし、珈琲や紅茶も安いものしか飲んでいない。
だから、たいして高いものは買えないけど、これをプレゼントした。

ウエッジウッドのあの有名な柄もいいけど
この水色一色も最高に上品で素敵だ

物凄く喜んでいた。
コーヒーは5パックしか入ってないけど、2~3日で飲みきってしまったらしい(あわよくば、私も飲みたかったw)。
紅茶は父と一緒に飲んで、父もおいしいと喜んでいたらしい。
実際、こないだ実家に一度行った時、飼い犬までウエッジウッドの紅茶の香りに引き寄せられていて面白かった。

私が、せっかくあるのに使わないのはもったいないよと言ったからかは分からないけど、母は今までお客様用にと使っていなかった洋食器を使い始めた。
独り言か誰かに伝えたいのかわからない雰囲気で「使わないのはもったいないわ〜」とせかせか使い始めていた。
本当に使わないのはもったいないから、よかった。
もし、母にプレゼントしたマグカップが割れたりしても、私はまた母にウエッジウッドのマグカップをプレゼントしようと決めている(母には言ってない。その方がかっこよくない?笑)。
そうでもしないと母は使わない。

※ちなみに、この3セットで5000円くらいだから、ウエッジウッドは親世代へのプレゼントにオススメ。
初めは買う気なかったけど、一応お店を覗いてみたら買える値段でびっくりした!

そこで、あのミントンのエプロンの行方を聞いた。
あのエプロンってまだあるの?と。
そしたら、もうボロボロになるまで使ってしまって、穴も空いて、捨てちゃったよと言う。
私が覚えていないだけで使っていたらしい。
捨てちゃったのかぁ…とちょっと落ち込んだのは正直な気持ちだけど、ボロボロになるまで使ってくれたんだと思うと、嬉しかった。

そんな感じで、私は自分にお金を使うのは苦手だけど、家族へのプレゼントとか、友達と遊ぶ時とかは、お金のことを考えずに使ってきた。

なんだか、私はそういう気質の人間なのだ。

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