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昭和・パルプ・ノンフィクション②

タダシは中学3年生に、タツナリは1年生になっていた。
相変わらず祖母のキヨに頭上がらずであったが2人共そこそこの悪さをして育っていた。
特にタツナリは小柄なタダシと比べ身体が大きく 力も強く 肝も据わっており、不良仲間からも一目置かれる存在だった。しかしいつも兄を立て、タダシに意見したりする事は1度もなかった。故に2人の間には兄弟喧嘩というイベントが存在しなかった。

やがてタダシが高校を受験する季節を迎えた。彼に「高校くらいは出ておけ」と言ってキヨは毎日早朝から夕暮れまで畑で土に塗れた。
しかし遊びに夢中で全く机に向かわぬタダシが合格できる高校は近くに1つも無かった。
溜め息を吐くキヨの元に、ある日1通の手紙が届く。
封筒裏に書かれた差出人の名前を見たキヨは激しく気持ちが昂り封を切らず捨ててしまおうと考えた。
しかしその手紙は、自分ではなくタダシ宛に書かれたものだった。
キヨは1度丸めてゴミ箱に放り入れた封筒を拾い上げて皺を伸ばした。そしてその日の夕食を終えた後、それをタダシに手渡した。

差出人はタダシとタツナリの母親「ミヨコ」だった。タダシは横目で1度キヨとタツナリを見て、全く動揺していないフリで「ご馳走様」と席を立った。
廊下へ出ると走って急な階段を駆け上がり自分の部屋へ入った。心臓の音が聞こえる。箪笥から盗んだ5円でアイスキャンディーを買ったあの日よりももっと。

手紙には「タダシとタツナリをそこへ置いて行った事にはやむを得ない事情があった」という内容。それから「やっと2人を引き取れるだけのお金を貯めることができた」との旨が綴られていた。
ミヨコはタダシがその手紙を読んでいる部屋からずっと離れたT県で暮らしているらしい。タダシは其処の高校へ入学すればいいと。弟のタツナリも高校へ上がる時に此方へくればいい。そして3人で暮らそうと…

激しい心音に変わってドンドンと階段を登る音が聞こえる。
キヨから手紙の差出人が誰であるのかを聞いたタツナリだった。
ガラッ!と強い音で部屋の引き戸が開いた。其れ等の物音とは対象的な無表情のタツナリは静かに兄に訊いた。「…お袋、何て?」
「T県におるらしい… 一緒に暮さんかって… 」
「行くな!兄貴!そいつは俺等を捨てたんじゃろうがッ!!」
初めてタツナリが兄へ向かって怒りという感情をブツケた瞬間だった。その怒りは母親に抱いているものだ。しかし兄がその憎き母へ想いを募らせている事にも気付いていた。
タツナリはすぐに部屋を出て行った。引き戸は開いたままだった。
俯いたまま返事をしなかったタダシもずっと弟を可愛がってきた。あの日のアイスキャンディーも決して自分の為ではなかった。2人の間には確かに強い絆があった。

それでも

タダシの答えは既に決まっていた。

P.S.
そう。俺が記事を書くのはお金が無い時。
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