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「ESGをめぐる株主提案」の動向

近年、日本では気候変動対策関連の株主提案が継続し、可決には至らずとも企業は対応を迫られている。

J-POWERでは2022年以降の提案における要求を受け、2024年5月に稼働中の石炭火力発電所15基中5基を2030年までに休廃止することを発表した。

3メガバンクでも方針開示等の対応がみられるが、提案の要求水準はより高くなっている。2024年度の提案では取締役の気候変動に関するコンピテンシーの開示等が盛り込まれた。国内銀行は「公正な移行」が不十分と指摘されており、石炭に加えてLNGに関するプロジェクトへの融資を問題視する向きも強まっている。

製鉄業界も「標的」になっている。JFEスチールや神戸製鋼は豪NGOのACCR等とのエンゲージメントを経て、役員報酬のインセンティブに気候変動要素を取り入れること等の方針を示した。日本製鉄も今期は株主提案を受けている。製鉄のような多排出産業の早急な脱炭素転換は難しく、政府支援による後押しが必要となるため厳しい決断となる。

脱炭素は、欧州等では肉や卵生産における多量のCO2排出にも批判の矛先が向かっている。日本企業にとっても早晩課題になるであろう。代替タンパク質への移行等の対策が今後求められる可能性もある。

この様な環境課題に対する株主提案に対して運用会社はどの様に対応しているのか。

6/11の記事に書いたように、これらの議案が単に「社会的・政治的な主張」であると判断できれば、運用会社は反対票を投じる可能性が高い。


一方、情報開示の充実を促す提案に対しては原則賛成となるため、NGO側は、以前のように一気に自分達の主張をするのではなく、まずは開示を促すことで、徐々にエンゲージメントを進展させようとしている。

これらの提案は、他の株主から見た場合、重要度が低いものもあるが、無害なものであれば、開示の充実に反対する理由は投資家としてはないわけだ。

米国でもESGに関する株主提案は勢いを取り戻しているようだ。2023年は反ESGの流れを受けて可決率は低調だったが、2024年は提案数・可決率ともに上昇している。

また、企業と提案者が事前のエンゲージメントを行い、妥結が得られるような内容の提案も増加しているようだ。

開示に関しては株主提案などという手法をとらなくても通常の対話の中で双方が納得した上で開示していくのが当然であり、株主提案という形をとるのは一種のショーのよう感じる。

ただ、これらの動きを通じて、企業が株主との対話を真剣に行う様になれば、それはそれでよいとの見方もある。

カルパースによるExxon Mobilの取締役選任に対する反対提案も注目された。Exxonの起こした気候変動関連提案の提出者に対する訴訟が、株主権の制限にあたるとしたことが背景だった。
この議案ではロビー団体や世論がExxonを支持し、5月29日の株主総会で9割前後の支持率で取締役全員が再選された。しかし、カルパースは議案の提出者に対する訴訟は行き過ぎと考えたようだ。

株主提案の内容は気候変動に関するものの他に、AI、賃金格差といった社会に関するものにも広がっている。

特に、米国では大統領選挙を控えており、株主提案も政治的な影響を大きく受けている。例えば、生成AI関連では、選挙における偽情報の拡散が懸念されて、SNSを手がける企業に対して倫理的なAIの導入を求める声が上がっている。

ISSの調査では、2024年に提出されたガバナンスや役員報酬に関する提案の支持率は、過去5年間で最高水準に達しており、ESGに対する株主提案は一定の支持を受けている様である。

トランプ政権が実現した場合、SEC委員長の交代が行われる可能性がある。支持率が一定以下の株主提案を再度提案することが禁止される等、株主提案が制限される可能性がある

一方、カリフォルニア州等の民主党が強い地域を中心に、州レベルでの提案については継続することが見込まれる。

ESGに関する株主提案は、グローバルな流れを見ることが重要であり、海外でのトレンドには気を配りたい。

また、日本ではESGに関する株主提案への賛成比率が、他の株主提案に対する企業側の対応にどのように影響してくるのかも注目される。

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