見出し画像

株の売り時をどう見つける?

良い銘柄の見つけ方の話をするのが先だとは思いますが、「株が上がった後、どの様に売ったらよいか分からない」、「買い銘柄の推奨はあるが、売りの推奨は少ないので、買った後持っているといつの間にか下がってしまった」、など売りに関する質問をされる方があまりにも多いように感じます。どうも、買い銘柄は探せるが、いつ売ったらよいか分からないと、売りに苦手意識を持っている人が多いようです。
 
相場の格言でも「買いは技術 売りは芸術」と言われ、始めるよりやめる方が難しいとされています。

投資を考える時、企業業の業績見通しや財務情報、株価水準などを調べれば、買いの判断はしやすいが、売りのタイミングをみつけるのは難しく、スキル・経験・直感が必要でアートに近い。特に相場のピークで売るのは、合理的ではなく如何に違和感を持ち、感覚的に売りの判断をすることが必要というわけです。
 
「売り」と言っても、持っている銘柄を売るのと、何も持っていないのに「空売り(信用取引などを利用して借りてきて売ること)」とは意味合いが異なります。今回は既に保有しいる銘柄を売る時の話をしたいと思います。
 
私の場合、ロングオンリー(株式を買って保有している通常のファンド)での経験は30年ですが、ロングショート(株式の買いと、空売りを組み合わせたファンド)の経験は7年程度しかありません。10年未満の経験だと、偶然の要素も多く、まだまだ勉強中の部分が多いので、空売りについて、今回はコメントしません。
 
保有している銘柄を売る方法ですが、私の場合、買いと売りは一体です。つまり、買いたい銘柄を探すプロセスと売りたい銘柄を売るプロセスは完全に一致しています。
 
私は、ファンダメンタルズ(業績や財務状況など)に基づいて投資するので、テクニカルで売買するわけではありません。
 
テクニカルで売買する人に対して一言だけコメントするとすると、テクニカルを中心とする場合、ファンダメンタルズは見ない方が良いです。テクニカル中心の人が中途半端にファンダメンタルズを見るとダメですね。どんな運用でもそうですが、途中でスタイルを変えて良いことはありません。

ファンダメンタルズ中心の人もあまりテクニカルは見ない方が良いですが、テクニカルはテクニカルで奥が深いので、ファンダメンタルズ中心の人が片手間でテクニカルを見るのは難しく、片手間で見る程度のテクニカルであれば、あくまで参考に過ぎないので、それほど害はないかもしれません。
 
さて、ファンダメンタルズでの売りですが、これは買いの理由を明確にして、その理由がなくなった場合には売るという事を徹底させる事です。もちろん、その場合、売った後にまだ株が上がるという事があります。でもそれは気にしない。儲け損なうよりも損をすることを避けるのが基本です。「頭と尻尾はくれてやれ」と言いますが、欲張り過ぎない事が確実に利益を確保していくコツと言えるでしょう。

そして多くの場合、買いは既に上がりだしてから気付いて、買い始めている人が多いのですが、売りは既に保有しているので、下がりだしてから気付くという事はなく、いつ売ろうか常に考えているので、欲が大きくなり、苦手意識が出るという事もあるのだと思います。投資は1つ1つの案件でベストを尽くすのではなく、全体として利益を出すことが重要です。売った株がさらに上がっても、もっと上がる株を見つけて買えばいいだけと思えば、売りに対する過度なプレッシャーはなくなります。投資は常に自然体で臨むことが成功のポイントだと私は考えています。
 
では、買いと売りを一体化させるやり方を解説します。
ここでファンダメンタルズに着目した買入には大きく3つ、あまりお勧めしませんがあえて1つ加えると4つのパターンがあります。

1.企業の成長性に着目しての買入
2.企業の割安さに着目しての買入
3.企業の業績循環に着目した買入
4.なんらかのコーポレートイベントに着目した買入

 
1はいわゆる成長株投資です。この場合は企業の成長性が失われた場合に売却しますが、成長ストーリーが崩れない限りは保有します。多くの場合、株が2倍3倍に上がってくると売りたくなってしまいます。PERなどのバリュエーションで見ると元々割高だったわけですが、ますます割高になる場合もあります。ただ、多くの場合こういう銘柄は早く見つけた人が早売りしてしまい、その後の上昇が大きく後悔する事が多いものです。通常、業績予想を上回る業績が出続けるために、業績予想が後追いになり、その時は割高と思っても後から見ると、割高ではなかったという事になるわけです。

逆に業績は拡大しているのに株価が下がりだすと、元々のストーリーが崩れていないので保有し続けてしまい、これまで獲得した利益の大半を失ってしまうという事もあるでしょう。

成長株に関しては、たとえ成長が続いていても、複数回期待を下回るようになると警戒する必要があります。大きなストーリーは変わっていないのですが、想定をミスする。先延ばしになるようなケースです。
次に、売上のモメンタムが明らかに落ちてくるケースも成長限界が近づいている場合が多いはずです。これらは、業績は拡大してもバリュエーションが切り下がることによって、株価が上がらなくなります。多くの人が株価は上がっていないがバリュエーションが安くなっていると思って保有を続けてしまいますが、その場合は成長株としての魅力は低下している事が多いはずです(多くの場合、過去のPERなどと比較すると割安に見えますが、絶対値としては高い水準にあり決して安いとは言えない場合も多いのです)。

つまり当初の買い理由であった、成長株としての魅力は低下しているので、売りを考えることになります。成長ストーリーが崩れた時はもちろん、株が下がっていても叩き売ります。ここでは躊躇しない事が大切で、株価が安くなっているという事は気にしてはいけません。
 
2はいわゆるバリュー投資です。これは単純に株価が上昇し割安度が失われれば売却します。割安な株はいくらでもあるので、売却して他の割安な株を買えばよい訳です。もちろん株価はまだ上がるかもしれませんが、その株が上がる以上に買い直した株が上がればよいだけです。この様な投資では、投資した時点でしっかりと目標株価を設定して、そこに到達した場合、躊躇なく売却します。これも一番良い所で売ろうとしないで、機械的に判断していきます。買いの時点で売りの判断も行っているわけです。

3はシクリカルな銘柄に対してよくある手法で、半導体製造装置や工作機械などはこの様な分野に属します。これは少し経験が必要な銘柄群で、シクリカル銘柄に関するニュースの出方や市場関係者の反応の仕方を十分理解する必要があります。基本的にはバリュエーションなどは気にしません(逆張り的に使ったりはします)し、成熟産業が多いのでビジネスモデルなども詳しくチェックする必要もありません。ただ、市場が最も悲観している時に買い、まだまだいけるぞと思っている時に売ることが必要なので、最も勇気のいる投資かもしれません。初心者がこの分野で投資する時には、過去のサイクルで何が起こっていたかをチェックしてみるとよいでしょう。その際のポイントは、その会社自体のニュースだけでなく、その時市場でどの様な事が言われていたか、経済の状況はどうであったかなど周辺状況をチェックして先行的に現れる事象を見つけることが出来ればよいでしょう。

4のような何からかのコーポレートアクションに期待した買い、M&Aやアクティビストによる株主提案などを期待して買う場合などですが、これは期待しているイベントが終われば基本的には手仕舞うべきです。そして何よりも、自分が買いの主体でない場合、コーポレートアクションを主導している買いの主体の目指している価格が分からないわけですから、そもそもあまりお勧めできる買いのやり方ではない訳です。余程のことがない場合、自分が期待している事を市場が織り込んでいない事は稀なのです。

このように、売りが難しいと思うのであれば、出来るだけ芸術性を無くし、機械的に対応する事が解決策につながります。

投資というのは得意なところで勝負し、苦手な部分は投資信託を利用するなど、人に任せたり、機械的に対応するのが一番なのです。


 

掲載されている記事は、個人の見解であり、執筆者が所属する企業の見解などを示すものではなく、証券投資や商品申込み等の勧誘目的で作成したものではありません。

記事の情報は信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その確実性を保証したものではありません。最終的な投資決定は、読者ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。

当コラムの閲覧は、読者の自己責任でなされるものであり、本情報に基づいて被ったいかなる損害についても一切責任を負いません。

なお、記事の内容は、予告なしに変更することがあります。


いただいたサポートは主に資産運用や経済統計などの情報収集費用に使わせていただきます。