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ファンドマネージャーに聞く②

経営者の世代交代に期待

今回は元アムンディのファンドマネージャーで、現在は協働対話フォーラムで企業に対するエンゲージメントなどで活躍されている鎌田博光さんに、低PBR問題や、日本企業の課題と期待などについてお話を伺いました。

鎌田さんは、1983年に山一證券に入社。その後、山一投資顧問、ソシエテジェネラルアセットマネジメント、アムンディ・ジャパン(いずれも社名変更)で日本株式のファンドマネージャーとして2020年末まで28年間、日本株運用の第一線で活躍されました。

鎌田さんは2000年代前半や2010年代前半には全世界の日本株ファンドの中で最高のパフォーマンスをあげたと言われています。




協働対話フォーラムへの活動


河北:鎌田さんが協働対話フォーラムで行っている活動を教えてください。

鎌田: 機関投資家の適切なスチュワードシップ活動に資するよう、機関投資家が協働で行う企業との建設的な「目的を持った対話」(協働エンゲージメント)を支援する目的で設立された法人で、複数の機関投資家による企業との協働対話(協働エンゲージメント)を行うための場である「機関投資家協働対話プログラム」を運営しています。現在、参加している大手運用機関7社と定期的にミーティングを行い、議決権行使方針についての議論を行ったり、課題があると考えられる企業とのミーティングを設定し、事務局としてミーティングに参加したりしています。

河北:昨年10月に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた投資家との対話のお願い」というレターを参加投資家が選定した企業の社長宛に送付されました。

資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた投資家との対話のお願い
https://www.iicef.jp/pdf/jp/pdf_jp_20231003.pdf?20231003

協働対話フォーラムHPより

鎌田:昨年3 月 31 日に、東京証券取引所から、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を求める通知が出されたことを受け、参加投資家が企業価値評価をどのように行い、企業にどのような情報開示を求めているのかをまとめたものです。

低PBR改善要請の見方


河北:低PBR企業への改善要請についてどの様なお考えをお持ちですか?

鎌田:基本的に一律にPBRを測るのは間違いだと考えています。単純に増配や自社株買いを行えばよいと企業に捉えられないか心配です。

河北: PBR1倍割れは解散価値を下回っているという日本でしか聞かない理論が独り歩きしています。この辺りについてもレターでは丁寧に説明されていますね。

鎌田:たしかにPBR1倍割れは解散価格割れという部分に関して、理論的にはおかしな部分もあると思いますが、私が問題にしているのはそのことではありません。

1つには議論の出だしが強引で、日本と欧米では業種構成も違うし、時価総額上位銘柄の企業規模自体も異なります。アップルツーアップルで比較出来ていない。本来比較をするときには業種や企業規模の差を補正して見ることが必要で、ROEの時もそうだが議論がやや荒っぽいと思います。

また、低成長で低PBRを許容すべき産業もあるので、その様な産業にある企業が無理をして資本政策だけでPBRを上げようとするのは危険です。

ただ、ROE8%の時もそうでしたが、PBR1倍割れというのは話としては分かりやすかったとは思います。

河北:たしかにPBRは業種や事業特性で決まってくる部分もあるので「低PBR=悪」のような考え方はおかしいですね。PBRの話はPBR1倍がゴールというわけではないですし、市場での捉え方に様々な誤解があるとは思います。それでも企業が株価に対する意識を高め、資本効率の改善に取り組んでいる事は前向きに評価できると思います。

小型株の見通しは

河北:ところで、鎌田さんと言えば小型バリュー株ですが、今の相場をどう見ていますか?

鎌田:私がアムンディを退職し、自分でも運用を行うようになったのは2020年の秋です。それまで小型バリュー一筋でやって来たため、小型グロース株投資をうらやましく思っていました。なので、そこでいくつか小型グロースを買ってみました。

河北:それは最悪のタイミングですね、、、

鎌田:そう小型グロース株はその後全く上がらない

河北:2021年ごろは本当に業績が急速に悪化する小型グロース企業があり、それらの株が急落したことに、周りが引っ張られて傾向にありました。業績が堅調な銘柄も一緒に引っ張られてしまいました。でもその後も業績は良くても、バリュエーションが安くなる一方で本格反転しないですね。
過去からの比較ではもちろんですが、とくにストレッチさせなくても十分に割安だと考えられる企業は散見されます。何がきっかけで上昇するのかと聞かれると、難しいのですが、長期で見た魅力は高まっていますね。

鎌田:先物とかも結構うまいと思っていたけど、個人になってからやってみると、システムがつながらないと思って問い合わせている間に、大損したりした。

河北:やはりインフラが変わると上手くいかない時はありますよね。これまで当たり前にあると思っていたものがなかったりする。

ファンドマネージャーで成功している人は好奇心旺盛な人が多く、いろいろやってみたくなる。でも単に儲けるためだったら自分の得意技をひたすらやり続けるのがいいんでしょうね。

あと、儲かっている人は、どうしても失敗例ばかりを話したがりますよね(笑)。

バリュー株投資はもちろん大きな成果が出ていると思うのですが、バリュー指数と比べるとなかなか勝つのは難しいですね。質のいいバリュー株よりも質の悪いバリュー株が上がるという相場が続いていますから、、、

日本企業の課題

河北:最近東南アジアに出張されてたそうですね。

鎌田:はい。今大学院で勉強していて、東南アジアの大学院生と現地の企業を視察してきました。

工場見学や学生との交流を通じて感じるのは彼らのハングリー精神ですね。東南アジアの職員は工場に寝泊まりして日々改善の努力をしている。おそらく日本も戦後復興や高度経済成長期には同じような事をしていたのだと思います。でも今はそんな社員はいないし、長時間労働をしたらすぐに問題になる。

あと、工場設備の違いがあります。日本の工場は古くなりすぎている。一方アジア企業の工場には最新の設備が入っている。最新の設備とハングリーな社員が集まって、日々努力しているアジアにある工場の様子を見ると、日本企業が彼らに勝つのは大変困難に思える

河北:小林製薬の紅麹やPASCOのパンにねずみなど、日本の食品などではいろいろな問題が起こっていますが、これらは製造管理の問題もあるかもしれませんが、基本的には工場が古すぎるのかもしれませんね。

鎌田:食品もそうだが、日本の製造業の設備も古くなりすぎているものが多い。工場に行くとビックリするほど設備が古く、また複雑になっているものが多い。

河北:新しい設備に置き換えると言っても、需要が増えないものであれば、投資するだけROICは下がってしまう場合もあるから難しいですよね。古い設備を活かしながら設備を入れ替えていこうとするとどうしても複雑になる。

鎌田:企業としては新たに工場を新設したいと思っても、財務的に判断すると難しく、古い設備を活かしながら投資せざるをえない。

河北:そうなるとどうしても複雑な投資になり、更地に作るのに比べて何倍も難しく、かつ効率も悪い。
渋谷に行くといつも工事中で複雑な導線になっている。あのように建物がたくさんある中で、工事をするというのは大変な技術だとは思うが、まっさらな土地に建物を建てるのに比べたらお金もかかるし、それによる経済効果も小さい。既にインフラがあることがマイナスになってしまう事もありますね。そういった意味では古く償却が終わった設備を持っている会社が、それを入れ替えていくときは注意が必要ですね。

日本企業に未来はあるか

河北:日本企業全体についてはどうみていますか?

鎌田:アジアとの比較でネガティブな事も話しましたが、大きな意味では日本企業には期待しています。これは80年代の欧州を見て来たからです。当時、日本企業はピカピカで欧州の町には古い車が走り、どんよりした雰囲気だった。でも今オランダの町に行くと、ピカピカの車が走り、新しい産業も生まれている。30年40年前とは対照的です。日本もこれから変わっていくと期待しています。

河北:経済は循環するという事ですね。どの様な企業に期待していますか?

鎌田:古いレガシーがない新しい企業に期待している。日本は経営者の世代交代で新陳代謝が起こる可能性はあるのではないかと考えています。若い人の中にもアグレッシブで独立心旺盛な人たちはいる。大企業逃げ切り型でない人の中から、新しい企業が出て来る。古い企業は既存の陳腐化したシステムや設備をアップデートして行かなければならないので、その労力が大きく成長するのが難しい。

河北:私も企業とミーティングをしていると、若い経営者の中に非常に優秀な人が数多くいる事に気付きます。

彼らは昭和の経営者とも平成の経営者ともタイプが違い、ハングリーではないのですが前向きで、とても自然体です。企業価値に対する考え方も資本市場とあっていることに加えて、今の新しい働き方への理解も高いですね。彼らの能力が認識されてくると小型成長株の評価も変わってくるかもしれません。

鎌田さん、本日はどうもありがとうございました。これからも定期的にお話を聞かせてください。

掲載されている記事は、個人の見解であり、執筆者が所属する企業の見解などを示すものではなく、証券投資や商品申込み等の勧誘目的で作成したものではありません。

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