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四季報の読み方


私にとって四季報は季節ごとに届く読み物です。1993年に日本生命に入社し運用部門に配属された時から常に四季報は身の回りにあるわけですが、入社時に「河北君はもう四季報は読んだ?新人は四季報が配られたら最初から全ページ読んで、これを枕にして寝るんだよ」と上司に言われた時には、冗談か本気か分かりませんでした。こんな辞書の様なものを全部読むなんて冗談だよなと思ったのを覚えています。

昔は今のようにデータ分析も充実していなかったので、証券会社の方々が、四季報が出るたびに大きく業績が修正されたものの一覧などを作ってお持ちいただいていたのを覚えています。

ただ、機関投資家や証券会社は、通常、東洋経済のデータベースを購入しているので、東洋経済の業績予想の変化をタイムリーに把握することが可能です。四季報が発売になっても、そこに出ている数字自体を読み込んでも投資としての意味はなく、どんなに早く読んだとしても、それを瞬時に加工して利用している人達の後追いになってしまうわけです。

それでもなぜ多くの人達が四季報を読むのでしょうか?

企業を見る上でベースとなる感覚が身に付く

もちろんその人の投資家としてのレベルや持っているインフラによって意味合いは異なります。ただ私の経験で言うと、若い頃は多くの銘柄の特徴を理解するのに便利という事がありました。だいたいこの産業はこれくらいの売上の伸びでこれくらいの利益率だなという様なものが掴めるようになるわけです。
これは前から読んでも後ろから読んでもランダムに読んでもいいのですが、1つ1つの銘柄を読むのではなく、少なくとも見開きのページか、その前後数ページを読むと、だいたい同じ様な事業を行っている会社が並んでいますので、その会社の特徴も理解しやすいと思います。

でも本当の使い方はその様な事だけではありません。

四季報を効果的に使うには

四季報を読まれる方は四季報オンラインも併用されると良いと思いますが、その中でスクリーニングを行ったり類似企業を同時に調べたりできます。またそこで出てきた銘柄を紙の四季報で調べその前後を読むという作業をするのはお勧めです。これによって、自分が興味のある企業を、周辺企業も含めて多角的に理解できるようになります。これは、英語の単語を覚える時に「でる単」で意味を覚えるだけでなく辞書を引いて例文や派生語、近くに書いてある重要単語などを覚えると効果的というのと似ています。

私は機関投資家なので四季報の使い方は読み物としての使い方が中心でデータは様々なものを合わせて独自に加工して使う事になるのですが、業績なども含めて四季報を使い倒すというやり方の人だと、週刊東洋経済も合わせてみることで業績予想の先取りなどをしていく事も大切かもしれません。四季報はそれ単独でなく、それを取り巻く雑誌も含めて読むことでより理解が深くなります。

あとは、四季報には達人たちがいます。例えば複眼経済塾の渡部清二塾長は25年以上にわたって四季報を最初の1ページから最後のページまで完全読破されており、そこからの気付きを解説されています。細かいワードの変化とか、その中から新しい動きをつかむ方法など、たいへん示唆に富む読み方をされており、私のように30年以上株式投資を行っている者から見ても渡部塾長の気づきにはいつも驚かされます。四季報オンラインで「四季報読破邁進中」というコラムを300本弱書いているようなので参考にしてみるのもいいでしょう。この様な達人の読み方を学ぶのも四季報を理解する上では有効です。


私は四季報をどう使っているのか

私の場合は完全に読み物です。業績のコメントをとにかく読んでいきます。特に普段は業績をアップデートする機会に乏しい銘柄。つまりセルサイドアナリストなどのカバレッジが多い500社を除いた銘柄の状況をアップデートしていきます。最近は銘柄も多いので全く見落としている銘柄が沢山あります。

面白いと感じたら、ザクッと業績、財務、株主、チャートくらいは見ます。そこで悪くなさそうだったら、印をつけておく感じです。特に株主は四季報で見るのが楽なのでしっかり見ます。

あとは、ざっくりした経済の状況が分かるので重宝しています。GDPが何%伸びたとか、物価がどうしたという話を聞いても何となくピンときませんが、四季報で4000社弱の現状を読むとだいたいの感じが分かってきます。この肌感覚は大事にしています。

また、これは凄いなと思うのは、オンラインのプレミアムプランには『会社四季報』創刊号(昭和11年)から最新発売号までの閲覧機能があることです。私は新規で投資を行う時には必ず会社の沿革を調べます。それは会社のDNA、困難に陥った時の対応、会社のターニングポイントで何が起こったのか等を知りたいからです。基本的には会社とのヒヤリングなどで疑問点を埋めていきますが、四季報のデータベースを使えば自分の力である程度その時の情報を客観的に理解する事が出来ます。

企業を理解するためには、その企業の現状を深く調べるだけでは不十分で、周辺の状況、過去からの推移と縦横を調べることで立体的に理解したいわけです。それを行うのに四季報はとても有益だと考えています。

私は投資を行う上で他人との認識の差異をはっきりさせてから投資を行います。その為には使うツールも可能な限り他と差別化できているものを使いたいと思っています。

四季報は万人が使うツールではありますが、全ての上場企業を業績予想だけでなく同じ分量のコメントを載せていて横比較が可能な事。過去に遡って検索できるデータベースがあることなどは他の資料に比べて優位性が高いと考えて大事にしています。

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