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笑いの基本を外した「蛙亭」が面白い理由

 今更ながら芸人コンビ「蛙亭」にハマっている。YouTubeの公式チャンネルでコント動画をハシゴしている。ここまで1組の芸人に時間を割くのは陣内智則以来である。

 彼等のコントを最初に見たのは2021年の『キングオブコント』の決勝戦だったが、その時はまだ「なんかヤベエ奴(中野)が居るぞ」くらいの感想だった。

 その後、お笑い大好き声優の桑原由気がイチオシの芸人として挙げたのをきっかけに、蛙亭のコント動画を立て続けに観た。もう多くの人が気付いている通り、彼等は「芸人のネタ見せ」としては極めて珍しい手法を取っているが、それは悪く言い換えると「笑いの基本」をほとんど踏み外していることになる。

 基本を蔑ろにしているにも関わらず何故こうも面白く、実際人気を博し、YouTubeのチャンネル登録者数も15万人を超えているのか。結論から言うと、中野とイワクラの2人だからこそ成立しているのが最大の理由であり、他の2人の組み合わせではここまでブレイクしなかっただろう。どういうことなのかを順次説明していく。


1.ピン芸人と一般女性の「コント」

 蛙亭のコントは、一部の例外を除き、ほとんどにおいて中野の強烈なキャラが肝となる。ひとつの例として『タクシー』というネタを見てみよう。

 ここでの中野の役は「ウザいタクシードライバー」。小太りのおっさんという見た目に加え、口数の多さもさることながら、終始声を張り上げているので余計に印象に残る。

 しかしポイントはそこではなく、対する「女性客役」のイワクラが全くツッコミをしていないことである。ただの普通の一般女性として笑いながら相槌を打つだけ。コントのツッコミ役というよりは、演劇の登場人物の一人として中野ワールドに溶け込んでいるだけという見方も出来る。もっと言うなら、このネタはイワクラが不在でも成立している。もし中野がピン芸人で、全く同じネタを1人でやったとしても、劇団ひとりみたいな1人コントとして何十分でも見ていられるはずである。

 となると浮かび上がる疑問は、そもそもこの2人はコンビである必要があるのかということ。少なくとも私はYESと答える。そう思う理由は2つあるのだが……ええっとですね……35歳独身男性の個人の主観であることを先にお詫びしておきます。

蛙亭が芸人コンビとして成立している理由
(1)ネタ(の大枠)をイワクラが考案している
(2)イワクラが可愛い

 (1)の時点で中野のボケ能力だけでは成立できず、イワクラも必要という結論になる。ただ、イワクラが全部考えているわけでもなく、例えば事前に決まっているのがイワクラ考案の設定のみで、本番は中野のアドリブで終始乗り切ることも多いのだとか。イワクラの発想力と、中野の対応力・アドリブ力が合わさったのが「蛙亭」なのだ。他でもないこの2人でなければ成立しない。

 そして物議を醸しそうな(2)であるが、個人的にはとても重要なことである。(1)だけならイワクラが構成作家として裏方に回り、ネタは前述の通り中野1人で演じても十分に面白い。「全く突っ込まないツッコミ役」がコントの舞台に居るというのは本来なら違和感である。しかし、それが彼女の可愛さによって許されている(と思う)のだ。

 お笑いコラムニストの高橋維新氏は、イワクラを「芝居が出来ない」とバッサリ斬っている。

 前にも書きましたが、中野が芝居ができるのに対して、岩倉はできません。はっきり言いますが、ヘタです。素の彼女に近いキャラ(中野が演じる変人にマンキンでツッコミを入れるのではなく、戸惑いながら相手をする人)を演じるのであれば見ていてさほど違和感はないのですが、このネタみたいに驚き・恐怖・母性といったような様々な芝居が必要になるキャラクターをやらせると、見ていて恥ずかしい仕上がりになってしまいます。隣で奔放に跳ねまわる中野と対比することでそれが一層際立ってしまうのが哀しいところです。

 だがそれでいい。イワクラは笑っているだけでとても可愛いので、それだけで目の保養になる。そこに演技力を足す必要は無いし、むしろ素人っぽいほうが見ていられる。中野に比べるとイワクラの存在感が控えめで声も小さめでありながら、顔が可愛いことでしっかりと視聴者の記憶に刻んでいる。コンビの華として画的にも必要である。

2.イワクラがボケる「漫才」

 実は蛙亭は漫才もしており、毎年『M-1グランプリ』にエントリーしている。最新(2021年)の準々決勝のネタ動画がまだ残っているので見てみると、また新たな発見がある。

 中野が恋人に「仕事と私どっちが大事?」と聞かれて困っているという問いに、イワクラが実演で答えるというネタだが、途中からただのカップルのイチャイチャになってしまっているのだ。ツッコミも不在の「ダブルボケ」状態である。コントと異なるのは、中野が存在感を抑え、イワクラのほうがボケキャラとして目立つようになっている点にある。

 少し古いが『キャバ嬢』のネタでは完全にイワクラがボケ役、中野がツッコミ役として棲み分けられている。

 公式動画が無いので貼らないでおくが、『包丁通ります』『コールセンター』のネタでも同様にイワクラがボケキャラとして機能している。

3.まとめ

 まとめると、コントでは中野が、漫才ではイワクラがボケるという、これまた芸人コンビとして珍しいパターンになっているのだ。ツッコミ力は置いておくにしても、男女どちらもボケが出来るというのは、演じられるネタの幅が広がるのでいくらでも化ける可能性を持っている。事実、コントでは『マッチングアプリ』や『合コン』など、男女を活かしたネタも多く見受けられ、他のコンビとの差別化も図られている。何度も言うが中野とイワクラの2人でないと成立しない稀有なコンビが「蛙亭」なのだ。賞レースではあと一歩のところで落選するが、近いうちに優勝カップを掲げる2人の姿も見ることが出来るのではないだろうか。

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