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『ギターと孤独と蒼い惑星』に込められた“ぼっちギター女子”の叫び【ぼっち・ざ・ろっく!5話】

 2022年11月10日現在、iTunesの総合ランキング5位に謎のアニソンが浮上している(書くのが遅くなり11/12になってしまったが、現在もまだ6位である)。

 結束バンドの『ギターと孤独と蒼い惑星ほし』。今期アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』5話の劇中歌である。

 作詞をしたのはリードギター担当、高校1年の主人公・後藤ひとり。愛称ぼっちちゃん。名の通り“ぼっち人生”を歩んできた彼女はどんな想いでこの歌詞を書き上げたのか。この作品をご存じない方にも魅力を伝えるべく、ひとりの成長という視点から5話までを振り返ってみる。

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 ぼっち女子がひょんなことからバンドに加入し、ぼっちなりの苦労を重ねながらもメンバーと少しずつ打ち解け、人間として成長していく物語……と書けば薄っぺらさを感じるかもしれないし、何なら同じきららアニメの『けいおん!』の二番煎じと思うかもしれない。しかし実際はけいおんとも全く異なるテイストで、深みを増した作品となっている。

 まず特筆すべきは、ひとりのギターは一人で弾く分には超上手いということ。ずっとぼっちだったからこそ毎日6時間の練習を3年間も続けてきた。演奏動画をUPしている動画配信サイトでは登録者数3万人を超える人気者でもある。しかし、バンドとなると話は別で、メンバーとの呼吸が合わず突っ走る演奏になり、早い話が“ド下手”になってしまう。

 ひとりの成長する過程も順序良く丁寧に描けている。まず2話ではドラム・伊地知虹夏(いじち にじか)の姉が店長を務めるライブハウスで人生初のアルバイトを経験する。最初はバーカウンターから顔すら出せなかったひとりだが、カウンター越しに見えるライブで演者と観客が一体となり楽しそうな様子から

ひとり(少しずつでも変わる努力をして、一緒に楽しくしたい)

2話より

 と思うようになり、その後は「笑顔でお客さんの目を見て接客」を精一杯実行した。

 続く3話では一度は逃げたギターボーカル・喜多郁代(きた いくよ)の指先の皮が硬くなっていることに気付き、バンドに戻ってきて欲しい旨をひとりなりの言葉で懸命に伝えた。

 そして4話は“作詞”という重大任務に挑む。ここで、自分が好まない「応援ソング」「無責任に現状を肯定する歌詞」を、それでも“メンバーの顔を思い浮かべ”ながら“バンドのため”に書いたことがコミュ障からの成長であり、メンバー3人を想っての行動とも言える。それでも書いた歌詞を見て「薄っぺらい」と思ったひとりは、ベースであり作曲担当の山田リョウに歌詞ノートを見せ、相談する。

リョウ「“ぼっち”的にはこの歌詞で満足?」

ひとり「それは、ヒットしたバンドらしいのが良いのかなって……」

リョウ「……言ったっけ。私昔は別のバンドに居たんだ。そのバンドの青臭いけど真っ直ぐな歌詞が好きだったんだ。でも売れる為に必死になって、どんどん歌詞を売れ線にして、それが嫌になったから辞めたんだ。辞める時もちょっと揉めたりして……(中略)個性捨てたら死んでいるのと一緒だよ。だから、色々考えてつまんない歌詞書かないで良いから、ぼっちの好きなように書いてよ」

4話より

 リョウの言葉が後押しとなり、完成させた『ギターと孤独と蒼い惑星』の歌詞がこちら。

 今度はリョウのみならず、虹夏と喜多も含め全メンバーに見せる。

リョウ「確かに暗いね。でも、ぼっちらしい。少ないかもしれないけど、誰かに深く刺さるんじゃないかな」

虹夏「でもさ、この歌詞ホントに良いよ、ぼっちちゃん!」

喜多「あ、私、ここのフレーズ、好きです!」

4話より

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 自分の好きなように書いた歌詞が、それでもみんなに受け入れられた。歌詞に込めた想いを観客にまっすぐ伝えるためにも、次の課題は“演奏”。5話はバンドのギタリストとしての“成長”についてひたすら考える回となった。

ひとり(成長って、正直なところ良く分からない。努力とはまた違う気もする。ここ最近、本当に激動だった。バイトを始めた。人の目がたまに見られるようになった。でも、それはバンドとしての成長ではない気がする。ただ、ミジンコやミドリムシから人間としてのスタートラインにやっと立っただけ。せっかく夢だったバンドをやれているのに、成長した気になっていただけで、私は……)

5話より

 思い悩むひとりを見兼ねた虹夏は、こんな言葉をかける。

虹夏「ずっとバンドやりたかったって言っていたけど、そういえば私、ぼっちちゃんがどんなバンドしたい? とか、何のためにバンドしている? とか聞いたこと無かったなあって」

ひとり(え……チヤホヤされたくて始めたって正直に言うべきだろうか……)

5話より

 そもそも3年前、ひとりがギターを始めた理由。

ひとり(バンド組んだら、私みたいな人間でも、もしかしたら輝ける?)

1話より

 輝きたい。チヤホヤされたい。いわゆる“承認欲求”。軽い、ふわふわ、表面的。確かに動機としては安直かもしれない。しかし、“ぼっち”という枕詞を付けるだけで意味合いが重くなる。

「ぼっちだけど輝きたい」「ぼっちだけどチヤホヤされたい」

 このように、ほぼ不可能なことを願っているのである。輝きたいけど輝けない。輝き方を知らない。そもそも輝くって何? そんなやり場のない気持ちを抱きながら、学校では誰にも話しかけられない日々。

一瞬でもいいから…ああ
聞いて

聴けよ

『ギターと孤独と蒼い惑星』Cメロ後半の歌詞より

 私の叫びを“聞いて”、否“聴けよ”。次のライブに出る為のオーディションで、ひとりは16年間ぼっちだった苦悩と、そこから脱却したい願いを“ギターで”叫んだ。その様子がこちら。

 サビ前の右足ドンから覚醒するひとり。振り向いて驚く虹夏とリョウ。その後2人は頷き合い、改めて決意を固め、各々の楽器と向き合い演奏に集中する。一方でギターボーカルの喜多だけは前を向き、ひとりの歌詞をまっすぐ伝えようとする。CloverWorksの丁寧な描写も相まって、ひとりの成長物語の最初の帰結としては屈指の名シーンとなったのではないだろうか(何だよ最初の帰結って)。

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 そして、深夜アニメの一度限りの劇中歌が配信5位という事実。少なくともぼっち経験者の私には後藤ひとりの気持ちは痛いほど分かるし、多くの“生きづらい人”の心に深く刺さった故の結果なのではないか。きらら原作のギャグアニメを観たところで現実は何も変わらないかもしれない。それでも、ほんの少しだけでも希望をもらえるかもしれない。ほのかな期待を胸に、私は6話以降も観続ける。

(※書くの遅すぎて、このあと24時からもう6話です)


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