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当方128の『ちょっとだけ喧嘩した話』

 おはようございます、当方128です。
 みょー様の第五回『 #ちょっとだけコンテスト 』に参加させていただきます。

 最低3本はエントリーしようと考えています。1本目となる今回は、またしてもコンビニ勤務時代に起きた話です。前回『コンビニTHE FINAL』と題して完結させる予定でしたが、ご要望があった為『コンビニTHE FOREVER』として真の完結編を書かせていただきます(終わるとは言っていない)。


『不倫女と不倫男、それぞれの戦い』

 私が店長を務めた職場では、アルバイトスタッフ同士が不倫をしていた。
 女性は当時アラサーの主婦で3人の子どもが居る。
 男性は当時アラフィフ、こちらも既婚で息子はもう大学生。
 この二人は職場内で仲が良いのはもちろんだが、プライベートでも一夜を共にすることが何度もあったという。あんな喧嘩が起きてしまうのは必然だったのかもしれない。


BATTLE1: 不倫女vs不倫男の妻

 その日はとても忙しかった。近くの区役所で何らかのイベントをしていたらしく、12時にもなると数多の職員が弁当を買いに押し寄せた。
 こちらもレジ3台体制で臨んだが、ホットケースの揚げ物も飛ぶように売れるので、事務作業をしていた私もバックヤードから出てきて調理を手伝う。

「ちょっとアンタ、どういうつもりよ!」

 12時40分、2番レジから女性の怒号が響いた。

「何のことですか?」

 すぐに不倫女の声も聞こえてくる。やれやれ、この忙しい時にクレームかよと嘆きながら私は2番レジを見る。

「うちの主人に何しているのよ!」

 クレーム主はお客様ではなく、不倫男の妻だった。どうやら不倫がバレてしまったようだ。周囲のお客様たちが目を丸くしており、目立つと悟ったのか二人は自発的に店の外に出て喧嘩の続きをするのだった。

 場外乱闘をするのは勝手だが、まだ客足が引いていない現状でレジが1台減るのはとても困る。私が代わりにレジに入ることで事なきを得たが、結局その後も不倫女と不倫男は辞めることなく引き続き職場で仲良くしているのだった。メンタルがウルツァイト窒化ホウ素よりも硬いのだろうか。

 しかし、それすらも笑い話に思えるほど、とても笑えない喧嘩はしばらくして起きるのだった。


BATTLE2: 不倫男vs当方128

「不倫男さんが違う店舗でも働いていましたよ」

 本部職員からのリーク。不倫男が同じコンビニチェーンの別店舗に掛け持ちで勤務しているという寝耳にウォーターな情報だった。

 コンビニチェーンは「本部直営店」と、別会社の経営する「フランチャイズ店舗」の2種類があり、同じ店名を名乗っているだけで会社は全くの別物である。私の居た店は後者だが、不倫男は当店の他に本部直営店にも勤務していたのである。そんな話は全く聞いていない。確かにWワークはOKだが、それを店長の私に報告するのが筋ではないのか。

 兼ねてより私は不倫男のことを良く思っていなかった。素直にハイと言わず必ず何か反論する、言うことを守らないことが多い、他のスタッフの粗探しばかりする……それに加え不倫までしているのに、今度はWワークの隠蔽である。私の怒りは限界に達していた。というのもここ最近、彼は何度も遅刻や欠勤をし、その度に私が代役を務めていたのである。もしそれがWワークに伴う疲れから来ているのだとしたら、隠していた罪は重い。

「不倫男さん、S店でも勤務しているんですか?」

 数日後、私は一切躊躇うことなく不倫男に聞いた。

「どうして分かったのですか?」

「本部の人から聞いて、念の為○○さん(部下の社員)にこっそり見に行ってもらったら、そこに居るということだったので」

「○○さん来ていたのか。気付かなかったよ」

 不倫男は(バレてしまった)という表情を見せていた。

「僕としては、遅刻や欠勤など、当店に迷惑をかけるようなことが無ければ何も言うつもりはありません」

 今後遅刻や欠勤で迷惑をかけないという条件付きで、私はこの件を許すことにした。ただ、本部職員の指示でこれだけは言わないといけなかった。

「当店の情報を他店には絶対に漏らさないで下さい」

「それはしていないよ」

「では遅刻欠勤だけ気をつけて下さい」

「……はい」

 その返事に抑揚は無く、不満そうだった。情報漏えいは最初からするつもりが無かったようで、それを言われたことに対する苛立ちだろうか。だがこれは本人の意思に関係なく伝えねばならないことだ。万が一何か起きた際に、事前伝達の有無で私の責任の度合いが大きく変わってくる。当たり前のことではないか。

「ちなみに、このことは他のスタッフには伝えないほうが良いですか?」

「いや、わざわざ伝える意味が分からない

 今度は噛み合っていない。私は『伝える』とは一言も言っていない。むしろ他のスタッフには内緒にしたほうが良いのではという配慮の気持ちから確認したのに、なぜこんな言われ方をしなければならないのか。

 色々と腑に落ちないが、この時点でこの話をやめておけば何も起きなかった。しかし、最後にどうしても言っておきたいことがあった。

「もし今後、S店の勤務の関係でシフトを減らしたいということがあれば、事前に僕に相談して下さい」

 この一言で不倫男に火が点いた。

「ていうかね、他のアルバイトをしているとか関係ないでしょ! 俺はシフトを減らさずにちゃんとやっているんですから。もしかして俺に辞めろと言っているのですか!?」

「違います。過去に何人かのスタッフが相談もなしに他のアルバイトを始めて、勝手にシフトを減らして……」

「他の人は関係ないでしょ! 最初から減らそうともしない人に対してそれを忠告するのは失礼ですよ!!」

 ちょ待てよ。何か起きてからでは遅いから事前伝達をしているのに、まさかそれ自体を否定されるとは。例えば絶対的な信頼を寄せられるスタッフなら伝えなくても大丈夫だと思えるだろう。しかし不倫男は遅刻や欠勤をしている時点で信頼するのは難しかった。

「もっと言うとね、アルバイトは自由なんですよ。いつでも辞められるんですよ!」

 突然話が飛躍した。他のアルバイトをしようが自由、シフトを減らすのも自由、辞めるのも自由だから社員にどうこう言われる筋合いは無いとでも言いたいのだろうか。

 そして、このバトルは思わぬ方向へと向かうのだった。

「あなたね、人の気持ちを考えたことありますか?」

 まさかの綺麗事である。それを不倫している人の口からは聞きたくなかった。

「今の言い方にしても、過去の言い方やLINEでの書き方にしても、人の気持ちを考えているとはとても思えない」

「いや、僕より厳しい社員もたくさん居ますよ」

「厳しいっていうのは、ちゃんとコミュニケーションを取った上で厳しくするものでしょ! あなたはコミュニケーションも取らずに厳しく言うから駄目なんですよ」

 とうとうコミュ力にまで突っ込んできた。コミュ障なのは認めるが、「言い方が厳しい」と言われたのはショックだった。新人時代の鬼の如き上司たちに比べれば私の言い方は断然甘いほうだと自負していた。

「まあこれはもう、当方さんの性格の問題だから、治らないのかもしれないけどね」

 ついには性格まで……どこまで私の心を抉るつもりだ。

「みんな同じように思っていますからね、言わないだけで」

 挙句の果てには個人の意見をスタッフの総意に置き換えた。我慢の限界をとうの昔に突破していた私は、少なくとも途中からの綺麗事のオンパレードはお前にも当てはまるだろと言いたかった。それでも最後に残った微かな理性だけで何とか耐え忍び、喧嘩は無事収まった。

 ***

 もう5年も前の話だが、今になって振り返ると、私の言い方も悪かったし、余計なことを言い過ぎたと思う。ただ不倫男も私のみならずS店の店長までもを困らせているとのことだったので、彼は彼でそういう厄介人間なのだということも付け加えておく。

結論

 遅刻(特に寝坊)は信頼を失うと良く言いますが、不倫も同じようなものです。現にこうやって綺麗事を言っても説得力を感じられなくなります。全国の不倫している皆様は、今一度考え直すことをお勧めします。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

#ちょっとだけコンテスト


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