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「ソ連兵へ差し出された娘たち」読書感想文

敗戦を迎え、引き揚げまでの難民生活を送る満州開拓団。
暴徒化した現地民の襲撃に困り果てた開拓団幹部は、団の未婚の女性をソ連兵に、性的接待のために差し出すことを決めた。
ソ連兵に、暴徒から守ってもらうためであったり、食料を分けてもらうためだった。
団員みんなの無事のため、肉体を差し出さざるを得なかった女性たち。
次々に性病や伝染病に罹り、多くの女性が満州で命を落とした。

全く知らなかったことだったので、とても驚き、悲しくなったし憤った。
長い長い間、この事実は隠蔽され続けた。
そして、このことが公にされてからは、乙女たちの尊い犠牲のもと、みたいな言い方をされて、まるで自分から望んで「接待」に行ったように扱われた。

私がとても腹が立ったのは、
「満州帰りの女は汚れている」
「いいじゃないか、減るものじゃないし」
などの、引き揚げ後の開拓団の男性たちの言葉や、大変な苦労の末に帰りついた日本の村での言われようだ。
よくそんなことが言えたものだ。

男が始めた戦争で、男が決めたことで、犠牲になるのは女だ。
敗戦国の女は、性的暴力を受けても仕方がないと、誰もが思うともなしに思っている。
日本人だって、支那事変のときなど、現地の女性に散々酷いことをしたそうだ。
しかもそれを、武勇伝のように語ったり。

こんなエピソードがあった。
満州から引き揚げてきた女性のことを好きになったある男性が、その女性とお付き合いを始めた。
結婚も考え始めた頃、その女性が満州でソ連兵への接待に出ていたことを知り、いっぺんにその女性のことを嫌いになる。
「騙された。俺は酷くショックを受けた」
というようなことを、作者に語った。
歳の大きなおじいさんが、である。
まるで、自分こそが被害者だと言うように。

今も世界では戦争が起こっている。
当然、性暴力も行われているだろうと思う。
どうしたらそういうことがなくなるだろうか、と思うけれど、きっとなくならないだろう。
やるせない、悲しい。

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