口移しサドル【毎週ショートショートnote】
「まただ…」
自転車のサドルがブロッコリーになっていた。よくもまあ飽きないよなぁ、どこからブロッコリーを持ってくるんだろうと呆れを通り越して感心してしまう。やれやれと思いながらブロッコリーを持ち上げようとした瞬間、意識が遠のいた…
気付いたときには枝に掴まっていた。何だか体が軽い。遠くもよく見える。足元を見ると前指が3本、後ろ指が1本あり、両足で枝をしっかりと握っていた。腕には掌はなく、翼が生えていた。
「ピィ、ピィ、ピィ」
横を向くと、鳥の巣の中で燕の子供が大きな口を開けて見つめていた。何だかいじめっ子の顔に見えてきた。
「モゾモゾ」
僕は気持ちが悪くなって吐き出した。下を見ると蝶々が這いつくばっている。どうやら僕は燕になってしまったようだ。軽くジャンプすると空を飛ぶことができた。僕がいたのは木ではなくブロッコリーだった。
「ピィ、ピィ、ピィ」
いじめっ子の顔をした燕の子供が鳴いている。僕は蝶々をくわえると子供に口移した。
(410文字)
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