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美術の知識がない奴が行く美術館

 午前中に、会社のトップが電話越しに誰かのことについて文句を言っていた。自分のことではないとしても、悪口を聞くのはあまり良い気分ではない。小学生の頃などは、学級会で誰かが吊し上げられていたりすると愉悦を感じるクソガキだったが、ここ数年は吊し上げるより吊し上げられることが多くなったせいか、誰かの罵倒を聞くのも辛くなってきている。せめて部署内に聞こえるほどの声で話をするのは控えて欲しいものである。

 先日、興味があって美術館に行ってみた。時折YouTubeでみる、とあるVtuberの影響である。これまで動物園や水族館ならまだしも、美術館に行った記憶はほとんどなかった。せいぜいが、学生の頃に課題で美術館のレポートを書いて来いと言われたくらいである。それも同じ授業を受けていた知人と行ったので、自分一人で観に行くということはしたことがなかった。なので今回、自分のペースで観てみるということをやってみようと思ったのである。

 といっても、ただ興味があるというだけでは中々足が向かず、行こうと思っていた当日は昼過ぎまで寝てしまい、結局現地にたどり着いたのは閉館2時間前くらいだった。元々常設の展示を観るつもりで、別に特別展を観る訳でもなし、2時間あれば一通り観れるだろうというつもりだったのだが、結果から言うと足りなかった。

 美術館には基本行かないので、人が多いのか少ないのかいまいちわからなかったものの、体感としては少なめに感じた。一つの絵の前に一人で立つ、絵に向き合うということはできるくらいの空き具合だったので、悪くないタイミングだったのではないかと思う。

 先に述べた通り、私はVtuberの言葉に感化されただけであり、美術に関して造詣など全くない。結局のところできるのは絵の前に立って全体を俯瞰してみたり、細部に目を向けたりして「はえー」と言うことしかできない。観に行った美術館には白いキャンパスの上にシミのようなものがついただけの絵が展示されていたりして、なんじゃこりゃ、などと思ったりもした。印象派というのだろうか、聞いたことくらいはあるが、それの意味については全くわからない。そのぐらいの知識しか持ち合わせていないのである。

 しかし、それでも横に解説のついている絵もあったりして、それを読んだりしているとなんとなくどういう意味があるのかがわかったりもするのである。特に、中世くらいの絵は軒並み宗教画ばかりで、大体題材としているのは同じだったりするのだが、それも高校の頃に学んだ世界史の知識を頑張って呼び起こしながら観てみると、こんなにも宗教の絵が多くなるのもわかってくるというものなのである。

 先のVtuber曰く、美術館は一度絵だけを観てぐるっと回ってから、2周目で気になった絵をじっくり観るのが良いという。美術館に限らず、大体一周で終わらせてしまう私にとってそのまわり方は新鮮で、今回試してみようと思いやってみた。なので、最初は細かく観ることなく歩いていったのだが、思ったよりもこの美術館が広く、常設展だというのに相当数の展示があり困惑した。案内の看板に気づかず「思ったよりも少ないな、まあ常設展だしこんなものか」と思っていたら、実際はその10倍は展示されており、これはとてもではないが見切れないと思ったものである。

 そんな訳で、2周分時間をかけてじっくりと回ったのだが、案の定観きることができなかった。しかし、それよりも驚いたのは、2時間という時間を絵を観て過ごすということに費やせたということである。途中で飽きるんじゃないかと思っていたりもしたのだが、結果としてはむしろ時間が足りないくらいだった。かつてどこかの美術館に行った時は、何の知識もなかったからか、全く楽しいと思うことができなかった。今も美術の知識はないが、それでも歴史の知識があったことが、今回は楽しめた要因かもしれない。

 加えて、一人で回れたということも大きいだろう。他の人がいるなら、どうしてもその人の動きに合わせてしまうのが私の性分である。自分のペースで観たいものを観て、満足するまで観てから次へと移り、やっぱり気になるからと踵を返したところで、誰も文句は言わない。そういった、好きなように観ることができるという状況で美術館にいられたのは初めてだった。そういった意味でも、悪くない経験だったなと思う。

 私が今回行った美術館では、今度モネの睡蓮を展示する特別展を行うという。今回の美術館に行ったのとは関係なく、モネという名前も睡蓮という絵のことも知っていたので、少し興味がある。始まってすぐは混んでいるだろうから、しばらく間をおいて行ってみるのもいいかもしれない。美術館の特別展は大体数ヶ月はやっていて、このモネの睡蓮も来月から始まって来年までやっているらしい。それだけの期間があれば、行く機会はあるだろう。

 現状絵についての知識などほとんどないが、それでも行ってみて「はえー」となるだけでも悪いものではないはずだ。それに美術館に行くのが趣味と言えたらちょっと高尚な人間に見える気がする。こちらが本命だったりしなくもない。

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