はじめてのキスの味
「では、初デートでキスをしたんですね」
マイクをもっている背広の女性やカメラをもった男性たちに囲まれているドレスを身にまとう有名人が笑顔で答えた。
「はい。彼とは初デートで宇宙の全てが見えるレストランで食事を一緒にして、そのあと強引に唇を」
有名人の女性が顔を赤らめている。
「ファーストキスは甘酸っぱい思い出ということでレモンやイチゴの味がすると言いますがキミさんの場合は?」
「ミカンですかね。甘味が強かったと思います」
「旦那さまの愛情たっぷりなんですね」
「そうですね。へへっ」
「さて、ここでキミさんの旦那さまのアナタさんに登場していただきましょう」
「え?」
キミは目を丸くしながらマイクをもつ女性が視線を向けているほうを見た。
「あっ……アナタ」
「ごめんよ。これも仕事だからさ」
キミの旦那は照れくさそうに笑って、近づいた。
「ううん。別にいいわ」
少しうれしそうにキミが首を横に振っている。
「それではアナタさんにも、キミさんと同じ質問に答えてもらいましょうか」
「え?」
マイクをもつ女性の言葉にキミは不安そうな表情をした。呼吸音も大きくなっている気がする。
「質問……さっきと同じやつってこと?」
「はい。キミさんとは初デートでキスしたそうですが、ズバリなに味でしたか?」
「ああ。なるほど」
キミの旦那はそういうパターンかと察したらしく自分の顎を親指と人差し指で挟むようになでた。
「味覚って人それぞれなんですよね。しかも性別が違うと全く」
「大丈夫だよ、キミ。ぼくは空気を読めるタイプの男だよ」
がっしりとキミの両肩をつかんで、彼女の旦那であるアナタが安心させるように抱き寄せている。
「自信満々ですね! それではさっそく答えていただきましょうか」
「リンゴ味!」
「はい? 今、なんと言いましたか」
マイクをもつ女性がアナタに聞き返す。
「リンゴ味だよ、あの日キミはデザートにアップルパイを食べてね。それでキスの時も」
アナタはなぜか空気がひんやりとしていることに気づいたようで。
「あれ? 間違えちゃった?」
苦笑いをつくりながら、そうつぶやいていた。
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