『My homies』第二話 週刊少年マガジン 原作大賞応募作品

○ コンビニ・店内(夕)

   神原、喪服姿、コンビニ入口のマットで、靴底を拭う。
   そのままタバコを買おうとすると、人とぶつかりそうになる。
神原「あっ。すいません」
   神原、ぶつかりそうになった人を見ると、喪服姿の八谷智之(30)が驚いた顔で神原を見ている。
神原「え?はーちゃんやん」
八谷「善次やん!何してんの?」
神原「いや、タバコ買っとこう思ってさ」
八谷「あぁーそうなん」
神原「はーちゃんは?」
八谷「俺もタバコ買っとこうと思ってさ」
神原「そうなん。アレ?結婚してタバコ辞めてなかったっけ?」
八谷「ん?あぁせやな。でも……なんか落ち着かんくてさ」
神原「……そっか。奥さんに怒られるな(笑いながら)」
八谷「今日で吸い切れば大丈夫!(笑いながら)」
   2人、笑い合う。

タイトル『閉館』

○ お通夜に向かう道(夕)

   神原・八谷、横並びに歩道を歩く。
八谷「あの時ごめんな」
神原「あの時?」
八谷「いや、『一緒に花火やらん?』って誘ってくれたやん?」
神原「あぁー」
八谷「行っといたらよかったなってな……」
神原「気にする事ないよ」
八谷「……。ほんで花火はしたん?」
神原「……。結局せんかってん。またみんな集まったらやろって」
八谷「……。そっか」
神原「(笑いながら)おっさん2人でやんのもな」
八谷「……。確かにな。おっさんなってもうたもんな」

○ 葬儀場・外(夕)

   葬儀場の外に地元の同級生が何人か。
   その中に、喪服姿の嘉川勝(30)が。
嘉川「おう」
神原「おう!」
八谷「マサやん!なんか久しぶりな気する」
嘉川「はーちゃんの結婚式の前の飲み会以来ちゃうかな?」
八谷「そやっけ?」
   *   *   *   *
   神原・八谷、外でタバコを吸う。
   嘉川、喫煙者ではないが、共に過ごす。
八谷「連絡もらってさ、もうなんか頭真っ白なったもん」
神原「俺もやん。ビックリしたわ」
嘉川「そうなんや」
神原「マサは誰から連絡もうたん?」
嘉川「大輝」
神原「そうなんや。ほいで大輝は?」
嘉川「ちょっと遅れてくるって」

○ 葬儀場・中(夕)

   中に入り、野々村を待つ一同。
   そこに慌てながら喪服姿で、ネクタイを片手に持った野々村が入ってくる。
野々村「悪い。仕事がさ」
神原「アレ?ネクタイは?」
   野々村、ネクタイを一同に見せ。
野々村「ちょ、誰かネクタイ結んでくれん?」
神原「(笑いながら)マジか」
八谷「(笑いながら)やったるわ」
嘉川「俺はクリップタイプやわ」
八谷「ちょ、動くなや」
   一同、笑い合う。
神原M「久しぶりに揃ったら、会ってなかった時間が嘘みたいに、いつも通りに戻る。でも、ここには雄輔がおらんねんやって。いつも通りではないんやって。それが悲しいというか、虚しいというか」

○ 葬儀場・棺桶の前(夜)

   神原、蒲生の眠る棺桶の側に立ち、顔を見る。
神原M「不謹慎かもしれへんけど、鼻の中に綿が詰まってんのを見て、ちょっとだけ笑いそうになった。ただ寝てるみたいで、今にも起きて来そうな。何してんねん。早く起きろよ」

○ 回想・神原・自宅(深夜)

   神原、深夜2時頃、自室で寝ていると、携帯のバイブで目を覚ます。
神原「……。はい?」
蒲生「寝てた?今から家行っていい?」
神原「え?今何時よ?」
蒲生「えー……2時過ぎ」
神原「お前マジか」
蒲生「今コンビニやねん。すぐ行くから鍵開けといて」
   蒲生、一方的に電話を切る。
神原「はぁ……」
   *   *   *   *
   蒲生、ドカドカと上がり込む。
   布団で寝ている神原を上から見て。
蒲生「寝てるやん」
   神原、薄目を開けながら、蒲生が持ってる袋が気になる。
神原「何買って来たん?ごっつ臭いねんけど」
蒲生「え?おでんやんか。臭ないやろ」
神原「寝起きで嗅ぐおでんは臭いわ」
   *   *   *   *
   蒲生、黙々とおでんを食べる。
   神原、寝ていた体を起こし、タバコに火をつける。
神原「何かちょうだいや」
蒲生「え?……もうしらたきとつゆしか残ってへん」
神原「普通家主に何か残しとかへん?」
   蒲生、おでんのつゆをぐびぐびと飲む。
神原「言うてるそばから飲んどるやないか」
蒲生「ごっつ美味いねん」
   *   *   *   *
   蒲生、食後の一服をしている。
   吸い終わり、神原に向かって。
蒲生「ほなお休み」
   蒲生、目を瞑り、寝転がる。
神原「……。お前何しに来てん」
   蒲生、直ぐに寝息を立て始める。
神原「のび太か!」
   蒲生、無反応。
神原「……。ちょっ!何してんねん!早よ起きろよ!」
   神原、蒲生の脇をこそばせる。
   蒲生、勢い良く起き上がる。
蒲生「ちょえぇー!!」
神原「(笑いながら)何やねんそのリアクション」
蒲生「(笑いながら)脇はアカンて」
   神原・蒲生、笑い合う。

○ 回想終わり・葬儀場・外(夜)

   4人で外で話をしていると、蒲生の恋人の山上ちか(27)がやって来る。
神原「あっ。ちかちゃん」
ちか「善次君さ、何か聞いてないの?」
神原「え?何かって?」
ちか「善次君やん。最後に会ったん」
神原「えっ……。あぁ。せやな」
ちか「何か聞いてないん?」
神原「別に。あいつは普通やったけどな。いつもと変わらんかったけど」
ちか「おかしいやん!自殺する素振りとか見せてなかったやん!」
神原「そらそうやけど……」
   ちか、唇を噛み締めながら。
ちか「善次君が何か酷い事したんちゃん?何か言うたんちゃん?」
神原「いや、そんなんする訳ない……」
   ちか、神原の話を遮り。
ちか「じゃあ何でなん?意味分からへん!何も聞いてへんねんけど!」
神原「それは……。俺だって分からんよ」
   ちか、その場にしゃがみ込み、泣きながら。
ちか「だって雄輔……。『2人の記念日に、籍入れよ』って言ってたもん。何で死ぬん?意味分からんねんけど。善次君が酷い事したしか思い浮かばんねんけど!なぁ!」
   ちかの背後から、騒ぎを聞きつけた蒲生の母親がやって来て、ちかの肩に手を置き。
母親「落ち着きなさい。誰かのせいにしたいかも知れんけど、誰も悪くないんやから。みんな悲しいんやから……」
   ちか、母親にうなだれ、泣きじゃくる。
   神原、その様子を見て。
神原M「俺って性格悪いな。お前なんかより俺の方が泣きたいわって、言うてまいそうやった。お前なんかより、こっちの方が付き合い長いねんって、言うてまいそうやった。てか、結婚する予定やったんかよ。初耳やねんけど。何で俺にも秘密にしとんねん。俺って性格悪いな。死んでもうたお前に腹立ってきた」
   *   *   *   *
   (フラッシュ)
   棺桶の中の蒲生の顔。
   *   *   *   *
神原M「早よ起きて来いやボケ」

○ 居酒屋(夜)

   4人で居酒屋へ。
   八谷、運ばれて来たビールを手に取り。
八谷「じゃあ、雄輔に」
野々村・嘉川も手に取り。
野々村「雄輔に」
嘉川「雄輔に」
   神原、少し間を開けて。
神原「雄輔に」
   4つのジョッキがぶつかる。
   *   *   *   *
神原「はーちゃん。家大丈夫なん?」
八谷「あぁ、今日は実家帰るから」
神原「ふーん」
野々村「みんなで酒飲むの久しぶりやな」
八谷「確かに」
神原「あいつは下戸やったからあんま来やんかったけどな」
八谷「来ても元取る為に、飯しこたま食うてたもんな」
   一同、笑う。
   *   *   *   *
   4人、懐かしい話を肴に酒を飲み、ベロベロになる。
神原「普通小学生の時ってさ、嫌やん?学校でうんこすんの。けどあいつ、トイレ掃除の時間に合わせてうんこしに来よんねん」
   3人、笑う。
神原「ほんでメッチャ臭いねんな」
八谷「(笑いながら)そうそう」
神原「大輝と俺と他何人かでトイレ掃除してたら来てさ、ブリブリィッ!ってな。ほんだら大輝が『臭ッ!うんこ焦がしたみたいな臭いする!』って言い出して、掃除してた俺らも、当の本人も笑ってもうてな。腹千切れるかと思ったわ」
野々村「あったなぁー!ホンマに臭かったもんな。鼻取れそうやったもん」
   嘉川、笑いながら少し目に涙を浮かべる。
   八谷、それを見て。
八谷「(笑いながら)こんなエピソードで泣くなよマサ!」
嘉川「(俯きながら)いや、だって……」
   八谷、つられて泣き出す。
   野々村、つられて泣き出す。
   神原、ビールをグイッと飲み干し。
神原「こらこら!泣くのは禁止!あいつもそんなん望んでへんで!」
   八谷、鼻をすすりながら。
八谷「せやな。……せやな」
神原「(笑いながら)笑える話は笑ろとけ笑ろとけ!」

○ 野々村・自宅(深夜)

   野々村の自宅に泊まる事になった4人。
   八谷「あかん。眠いわ。寝る」
野々村「せやな。飲み過ぎた」
   嘉川、既に寝ている。
   *   *   *   *
   神原、外に出てタバコを吸う。

○ 回想・最後に会った日・車内(夜)

神原「映画館の最終日行ってんやんか」
   *   *   *   *
   (フラッシュ)
   葬儀場。棺桶の中の蒲生。
   *   *   *   *
神原「普段ガラガラのくせにメッチャ混んでて」
   *   *   *   *
   (フラッシュ)
   居酒屋で笑い合う4人。
   *   *   *   *
   神原、タバコが根元まで燃えて、灰が地面に落ちる。
神原「お前らが普段から来てたら、閉館なんかせんで済んだやんけって」
   *   *   *   *
   (フラッシュ)
   最後に会った時の蒲生の笑顔。
蒲生「まぁ……。そんなもんやろな」
蒲生「お前だけは変わらんでいてくれよ!」
   *   *   *   *

○ 回想終わり・野々村・自宅前(深夜)

   神原、頭を抱える。


続く。

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