タクシー運転手を怒らせてしまった話

駅の階段から降りてタクシーへと歩いていく。ドアが開き、俺は荷物を座席に入れてから乗り込む。
毎度、行先の会社名を言っても誰も知らない。今回も当然そうだろうと、予めスマホでGoogleMapを開いていた。
スマホを運転手に見せながら説明をしようとすると、運転手は多少イラついた様子でこちらの言葉を待たずに話しかけてきた。
「行先どこ 名前は」
「〇〇 わからんよねぇ えーっと」
「なんなのその言い方は!」
俺はとても驚いた。「行先の名前を聞くから答えてやるが、わからんだろうしやっぱり説明するぞ」という思いが瞬時に巡り、待ちきれない様子で投げやりに話しかけてきた相手に同じように返しはしたが、別に運転手に対する苛立ちや嫌な印象はなかったつもりだった。
「なんでそんな風に言われないといけないの!友達じゃないんだから!」
こうして思い返しているからこそ文章をかけているが、当時の俺は本当に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。眉間にしわを寄せるでもなく、眉を上げポカンと相手を見つめていた。何を怒ってるんだ。友達?何を言ってるんだ。
「もう向こうのタクシー乗って!」
タクシーの運転手が客を選ぶのは自由だろうし、俺を乗せなければならない理由もない。そう考え俺は素直に荷物を手にしてタクシーを降りた。

俺以外にもタクシーを利用しようとしている女性がいて、確認しなかったが恐らくその人が今のタクシーに乗りこんだ。俺は待機所に停車していたタクシーへと歩きながら、運転手に目配せとジェスチャーで乗車の意思を伝えたつもりだったし、運転手も俺を認識していた。
しかしタクシーは動き出して、車のいなくなった乗降場へと向かった。少し呆れながら歩いて追いかけるとドアが開いたので乗り込む。
運転手の無愛想なジジイはGoogleMapを見て番地を聞いてきた。ナビ入力を間違えていたので途中指示を出した。お釣りをもらうときにジジイの手が俺の顔にふんわり当たった。
丁寧な接客だとは微塵も思わなかったが、所詮この場限りの対面だし、高いサービス料を払っているわけでもない。
怒るような要素はなかった。

怒っていた運転手は何かプライベートか仕事で嫌な事があったのか。童顔と言われることがあるが、そんな若造にため口をきかれたのが嫌だったのか。話し方がよっぽど癪に障ったのか。
飲食にしろ小売りにしろ、客も店も、安かろう悪かろうだと思っていたし、期待はせず、それなりの接客にはそれなりに応じてきた。態度に出せど文句を言った事はない。スーパーで商品を投げ入れるレジのババアに文句を言いそびれた事はあったが。
そんな風に振舞ってきたがどうにもよくないらしい。
どのような接客にも丁寧に対応すべきなのだろう。
自身の身と精神衛生を守る意味で。


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