『ほにゃららサラダ』 / 舞城王太郎
みなさんは舞城王太郎という名前に聞き覚えはあるでしょうか?
舞城王太郎は私の特に好きな小説家の一人です。ぜひ紹介させていただきたい。
まず、舞城王太郎という作家がどんな人物なのか。
はっきり言うとさっぱりわかりません。いえ、これには語弊しかないのですが……。
舞城王太郎はメディアへの露出をしておらず、いわゆる覆面作家として活動をしているためはっきりとした情報が全くないというのが正しいのです。
2001年に『煙か土か食い物 Smoke,Soil or Sacrifices』で第十九回メフィスト賞をデビューし、2003年に『阿修羅ガール』第十六回三島由紀夫賞を受賞し……などと舞城王太郎という作家の経歴を紹介するのが本来なのでしょうが、そんなことをしていたらいくらページがあっても足りない。というより、今後シリーズとしてこの形式の文章を書くときに舞城王太郎という作家の話をいくらでもしたいので、範囲の広い話は避けておきたい。
そんなわけで、いかにもな前振りとは関係なく、今回は舞城王太郎の傑作『ほにゃららサラダ』のおすすめを聞いていってください。
ほにゃららサラダの主人公は美大に通う松原。同じ一年生の高槻芳雄くんに遠くから恋心を寄せている松原は制作よりも恋愛や遊びに忙しい。というか、美術ってどういうものなのかよく分かっていない。
友達のビンちゃんや、学生でありながらも小説家として活躍している高橋くんの後押しもあって、食堂で高槻くんと初めて話が出来た。
本来はそこから本物の恋が始まる……ってな具合なんだろうけど、高槻くんの口からとんでもない単語が飛び出して、松原の度肝を抜く。
わかる。好きな人の発する言葉が予想以上に汚かったり幼稚だったりすると一瞬固まることはある。
高槻くんはこれまでにいろんな作品を作っていて、そんな才能を持っている高槻くんがそこまで言い切っちゃうと松原もビンちゃんも何にも言えない。きっと私がそこに居ても黙るか笑うかしか出来ないと思う。
松原は高槻くんの発した思いがけない言葉にびっくりしたけど、それよりも松原自身が高槻くんの言う『うんこサラダ』そのものだと思って衝撃を受ける。
創作も上手くいかない、作っていてもそれは課題としてやっているだけで自分の本当に作りたいものや本質を捉えたものではない。
それから松原は高槻くんと付き合ってるんだか付き合ってないんだか微妙な関係を続けながら、個展をやったり新しい作品を作ったりと忙しい高槻くんに引っ張られるように自分の作品も自然に楽しみながら形に出来るようになっていく。
この『ほにゃららサラダ』では主人公の松原の甘くて苦い青春小説なのだけれど、若者にターゲットを絞った作品かと言うと、そうでもない。きっと何かを自分で考えて作り上げることをしたことがある人にはほとんど全員に刺さるところがあるんじゃないかと思う。
『うんこサラダ』もそうだけど、小説をやっている高橋くんに対してのビンちゃんの『理に落ちる』っていう批評とか、その批評を受けた高橋くんの「批評の受け取り方」みたいな部分も私にとってはキュッと身が引き締まる思いがした。
このまま勢いに任せて書いていると、話があっちこっち行きそうなので、今回は好きなポイントだけさらっと触らせてもらって、もし今後も書いたり喋ったりすることがあればそこでもうちょっと広めな話をしたい。
「うんこサラダ」もそうなんだけど、この作品は内容としてちょっとキツい。本来は見せなかったり、敢えて表現しないものをガンガン入れてくるから、作中のキャラクターが受けるダメージと同じものが読み手にも突き刺さる。でもそれは誰にでも刺さるわけではなくて、ちょっと自覚のある、ちょっと分かってますよ感のある人ほど強く刺さるんじゃないかと思う。
逆に本質を理解して、それを実践出来ている人には刺さらないのかなあと思った。今までそういう人にこれを読んでもらったことは無いからわからないけど。
私は「あ〜うんうん、こういうのちゃんと理解した上で創作してるつもりだよ」みたいなところがあるのでたくさん刺さった。ページをめくると満身創痍。でも面白くて読み進めてしまう。
舞城王太郎は突飛な設定と、軽く受け取られがちな書き口と、ちょっと濃いめなエログロとで万人受けしない作家ではあるけれど、最後に現れるストーリーの根幹部分が人生にも通じるような「本質」持っていて、読み進めていると うわ、うわ、うわ〜!と興奮させられて、めちゃくちゃに凹まされるパワーがあって私は好き。
これは初めに書いておくべきだった気がするけど、『ほにゃららサラダ』は短編集『私はあなたの瞳の林檎』に収録されています。他の短編も面白いので是非。(そ)
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