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追悼:かっちゃん(コンディショングリーン)愛すべき存在感「オキナワンチルダイSP」①


はじめに

 沖縄の伝説のロックバンド・CONDITION GREENかっちゃんこと川満勝弘さんが2023年4月20日に旅立った。
 ここ数日、コンディショングリーンの伝説のロッカーとして語られている記事は多い。私はかっちゃんの役者としての顔、特に沖縄の高嶺監督の映画の中のかっちゃんについて語ってみたい。
 私は縁あって一時期、高嶺監督の過去作の作品編集や、新作の企画やシナリオに関わった。高嶺監督は何度も過去作に手を入れ次々と新しいイメージを作り出す。私はその度に高嶺映画を彩る多くの俳優たちの魅力に取りつかれた。今回はコンディション・グリーンのかっちゃんの愛すべき存在について書いてみたい。

高嶺監督「オキナワンチルダイ SP」かっちゃんの世界の奥の神秘や謎を見通す力

 かっちゃんと言えば一般的にはTV特撮ヒーロー琉神マブヤーに試練を与える森の大主(もりのうふぬし)役の方が知られているかもしれない。

琉神マブヤーの森の大主役のかっちゃん

 この写真のように俳優かっちゃんには、この世界の奥の神秘や謎を見通しユーモラスに表現する力があったと思う。
 この魅力を引き出した作品に高嶺剛監督「オキナワンチルダイ SP 琉球の聖なるけだるさ」があったように思う。この映画にはコンディショングリーンの他のメンバーも出演している。

高嶺映画の魔術的真実(リアリズム)

 高嶺監督の映画の特徴としての魔術的真実(リアリズム)があると思う。
 あくまでも私の見解にすぎないが高嶺映画は、琉球の土地と風景を注意深く感じる事、見つめる事から始まる。
 様々な生き物、昆虫から鳥、水牛や馬や犬と言った身近な動物。様々な自然現象、空気、湿度、風、木々の揺らぎ、波の音、嵐、洞窟、様々な人の暮らし、路地裏の子供、毛遊び(もーあしび)に興じる若い男女、イラブー売りのおばちゃん、路地に座って島唄を唄う男、腰が曲がり杖を突いて歩く老婆。それらを淡々と画家のように見つめる。
 見つめているうちに風景の奥にある歴史や神秘的な映像がイメージとして湧き上がってくる。
 たとえば、芭蕉の俳句で過去の出来事がイメージとして浮かぶ様を説明してみる。芭蕉「奥の細道」奥州平泉で詠んだ句。
「夏草や 兵どもが 夢の跡」
 今は何もない夏草生い茂る場所を、ただじっと眺めていると、初夏の夏の日、風が吹き、夏草がゆれる、蝉の声、様々な鳥のさえずり、気が遠くなり、静寂、汗、同じ場所で同じ季節、遠い昔に存在した聞こえるはずのない音、見えるはずのない映像、兵たちの叫び、草の上に倒れる音、死ぬ前に観た風景、様々な人の血、刀傷、奥州藤原氏の栄華と衰退…。まるで儚い夢のように風景の奥にあらわれる。再び現実の夏草に戻ると、妙に世界が違って見える。虫の声も、鳥の囀りも、草の揺れも風のそよぎも…。魔術的真実(リアリズム)

古代琉球原人の繊細で傷つきやすい愛すべきかっちゃんの存在

 では具体的に「オキナワンチルダイ SP」のかっちゃんの登場シーンを見てみる。冒頭から10分ほど過ぎた後、毛遊び(もーあしび)の三線の音に合わせて村娘が躍る映像から、森の中を走るキジムナー(森の聖霊)が現れ、場面は太古の琉球の浜辺に変化している。
 そこにを豚の足とヘビを手にした古代琉球原人(かっちゃん)が現れる。琉球原人の心の内は高嶺監督自身のモノローグで語られる。「最近、目の焦点が定まらない」事に悩んでいるらしい。遠い想像も及ばない琉球原人がすぐ隣のおじさんのように感じる。
 一方、村ではキジムナーが褌一つで、昼寝中の里主の女房のマブイ(魂)
を盗み、刀を振り回す里主に追いかけられている。ドタバタコメディのような展開がスローモーションで夢の中の出来事のように描かれる。
 浜辺では、琉球原人のかっちゃんは美女と出会い、なんとか女を喜ばせようと、豚の足やヘビを与えようとするが拒否される。二人は洞窟で時を過ごすうちに男女の関係になる。琉球原人も本能に忠実なのか。洞窟で女としあわせな時間を過ごしているとやがて眠ってしまう。目が覚めると女は消えている。儚い夢の出来事のように…。

引用画像・映画「オキナワンチルダイ SP」©高嶺プロダクション

 家に戻ると豚小屋を豚男が覗いている。琉球原人見ると豚男は逃げる。 豚の数を足の指まで使って数えると豚が一匹足りない。

引用画像・映画「オキナワンチルダイ SP」豚男と琉球原人 ©高嶺プロダクション
引用画像・映画「オキナワンチルダイ SP」足の指を使って数える琉球原人 ©高嶺プロダクション

 思慮深い琉球原人はさきほどの女がなぜか豚の化身だと見抜き、森の聖霊キジムナーに会いに行く。キジムナーは、琉球原人が豚の化身に騙された事を知り笑う。琉球原人はへこむ。
 キジムナーはさえずる鳥の言葉が分かり、琉球原人はわからない。再びへこむ。何とも野性味があるのに繊細で落ち込みやすい愛すべき琉球原人をかっちゃんが演じている。そこにいるのは弱く傷つきやすい現代人と少しも変わらない琉球原人。とたんにこの世界が私たちと地続きの世界だと理解する。

引用画像・映画「オキナワンチルダイ SP」森の聖霊 キジムナー ©高嶺プロダクション
引用画像・映画「オキナワンチルダイ SP」愛すべき琉球原人のかっちゃん ©高嶺プロダクション

 なんとも楽しくリアルな古代琉球の世界。難解でよくわからないと言われる高嶺映画だが、ただその世界を感じて、そこに出てくる一人一人に注目して見るとこんなにも楽しい。
 それを教えてくれたのは「コンディショングリーン」のかっちゃん演じる繊細で傷つきやすい琉球原人だった。かっちゃんは、昔も今もずっと琉球の森の奥で生きてきたよう気がする人だった。

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