「輝きたいの」(84)と「極悪女王」40年後の女性たちの共闘
1.山田太一脚本「輝きたいの」(84)と「極悪女王」(2024)
女子プロレスファンでもない私は「極悪女王」を人に勧められるまで、見たいとは思わなかった。
女子プロレスのドラマと言えば1984年山田太一脚本、今井美樹のデビュー作である「輝きたいの」で充分な気がしていた。
予告編を見る限り、40年前の「輝きたいの」とはあまりに違う世界、残虐で暴力的な内容に気が進まなかった。
今回「極悪女王」を見て「輝きたいの」のシナリオを読み返した。
あとがきの山田太一の言葉が心に残った。
若い女性がある希望を持って就職しても、会社が長く雇う事をせず、補佐的な仕事ばかり任され傷つき、投げやりになってしまう。
そこで若い女性が全力で打ち込めて、その努力が相応しく報われる世界を求め「女子プロレスの世界」を取材し「すごく面白い。絶対にいける」とシナリオを書いた。
「輝きたいの」は、「極悪女王」の一つ下の世代(ブル中野たちの世代)がオーディションで入り、その新人王の争いをするまでの話だった。
プロレスのレスリング指導にはジャガー横田が担当し、先輩役として出演していた。他にゲスト出演として、ライオネス飛鳥や長与千種、デビル雅美に(ダンプ松本以前の)松本香、ジャンボ堀、大森ゆかりもゲスト出演していた。1984年5月にオンエア。
プロレスのための長い訓練とトレーニングが必要なため、三原じゅん子以外、全て新人のオーディションで集められた。
応募総数は350人、最終審査は50人、その中から19歳で応募した良子(今井美樹)。中学で集団的ないじめにあっていた大柄で優しい祥子(畠山明子)、父がアル中で離婚し、病気の母を助けるために応募した空手が得意な由加(小栗絵里花)、不良でひったくり中にコーチのミチ(和田アキ子)につかまった里美(三原順子)だった。
コーチ役に菅原文太、社長は「男はつらいよ」の太宰久雄だった。
ドラマ「輝きたいの」は、山田太一が希望を見出した女性が活躍する世界だが、ほとんどの応募者は中卒で、25年の定年制があった。
酒タバコ異性との交際は禁止。まるでアイドルだった。今から思うと、あまり望まれた世界ではない。
高校を卒業し、恋人に結婚を申し込まれ、自分自身が輝く可能性を失う人生より「自分で輝く事」に賭ける良子(今井美樹)に魅かれた。
中学で虐められ、一旦はオーディションに落ちたのに、車いすで自分のやりたい事もできない障害を持つ美江(戸川京子)に励まされ、落ちてもトレーニングに無理やり参加し、コーチの菅原文太に気に入られた祥子(畠山明子)に感動した。落ちてダメ、才能ないからダメと言われても立ち上がり挑戦し続ける。
不良でかつあげをして、孝次(菅原文太)が切り捨てた里美(三原じゅん子)をミチ(和田アキ子)が女子プロレスに、どうしても必要だと説得するセリフ。
現実の今井美樹も歌手となり、自分の夢と希望を叶えていく。
祥子を演じた畠山明子は、山田太一の次作「ふぞろいの林檎たち」にも出演し、現在に至るまで俳優として実績を積んでいる。
ドラマは単なる絵空事ではなく、リアルな現実を描き、個人のリアルな現実を変えていく力がある。それを実感としてわからせてくれたドラマだった。このドラマと主題歌を聞き、勇気づけられたという北斗晶のような人物は、女子プロレスに限らず、多くいたのではないか?
2.なぜ今、ダンプ松本なのか?
84年5月にドラマもドラマ主題歌「輝きたいの」もヒットし、クラッシュギャルズの人気もあり「全日本女子プロレス」はゴールデンで放送される。
そこで竹刀を振り回すヒール「ダンプ松本」極悪同盟の登場。
「帰れ!帰れ!」コールの中、日本で一番嫌われた伝説のヒール・ダンプ松本。なぜ今、ダンプ松本なのか?
SNSはフォロワー数、再生回数、閲覧数、共感と思いやりの数値化が、その人の価値となる。一歩踏み外すと、匿名の誹謗中傷、罵詈雑言を浴び、その不安と恐怖の中で、言いたい事も言わず、自分を殺して生きる。
TVもスポンサーとコンプライアンスに縛られ、表現の自由を奪われる。
そのためのSNSやメディアだけでなく、あらゆる場所で仕事場での監視、管理が進み、誰もが他人の目を終始気にして言いたい事も言えず、常に他人がどう受けとるか、を気にする。
なのに「極悪女王」のダンプ松本(ゆりあんレトリィバァ)は「帰れ」コールの罵詈雑言の中、両耳に手を当て、嬉しそうに聞いて、元気をもらっている。
ダンプ松本は「ヒール役への暴言」を「がんばれ」に変換し、自信満々に勝利の雄叫びを上げ、チェーンを振りかざす。
他者や世間のどんな評価にも惑わされず、自分の価値観や考え方を貫く強さ。もちろんそこが、女子プロレスの勝負とエンターテイメントのリングの上だから成立する事だが、バッドマンのジョーカー悪の化身が、時代と社会の化身となりダークヒーローになったように、ダンプ松本は輝くヒーロに見えた。
「輝きたいの」で、新人たちが仲間が去り、寂しくなった新人王の戦いを盛り上げるためにコスプレを考えたが、菅原文太演じるコーチが、激怒した言葉が蘇る。
「輝きたいの」第3話「ロッキーのように」では、やめていく新人が増え5人だけになった時、先輩たちが新人に向かってアドバイスする。その先輩の中に「極悪女王」のラストで戦う昭和55年組の4人(大森ゆかり、ライオネス飛鳥、長与千種、松本香(ダンプ松本))がいて、シナリオの中にセリフが書かれていた。
山田太一は、取材で昭和55年組の「極悪女王」のメンバーに出会って、「これはすごく面白い。絶対にいける」と思ったのではないか?
そしてダンプ松本になる前の松本香はこの場面をどのような気持ちで演じ、このドラマをどのように見たのだろう。
たしかに「極悪女王」を見た後は映画「ロッキー」を見た後のように清々しさと元気が湧いてきた。
ライオネス飛鳥が、長与千種が、松本香が、クラッシュギャルズ(84年8月結成)とダンプ松本の極悪同盟という「ベビーフェイス(善玉)とヒール(役)」で、山田太一(現場ではコーチ役の菅原文太)のドラマの中の言葉通りに、本気でぶつかり、本気で戦い、本気で生きた証を「極悪女王」で見た気がして、心から感動した。
1984年、山田太一脚本、同じ全日本女子プロレスの新人5人を主人公にしたドラマ「輝きたいの」の主題歌のMV。
若い人への「応援歌」だと思っていた主題歌が、運命で繋がった人間同士のラブソングだった事に40年経って気づいた。
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