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#講義録・指圧応用実技 2024.5.21 〜ヘルニアやギックリ腰と診断された人に施術してもよいのかを考える〜

鍼灸、マッサージの専門学校での授業に「臨床医学各論」という科目がある。病気の原因と症状を理解するための座学になる。
2年生のこの時期に腰椎椎間板ヘルニア、すべり症、ギックリ腰についての授業があったらしく、指圧実技の授業の始めに質問があった。

「ヘルニアになった人は施術していいんですか?」

今日はこの疑問に答えつつ、授業を進めたので記録として綴っておきます。

【患部はさわらない】は鉄則!

ヘルニアなど腰部の症状を訴えるものをひとまとめに脊椎疾患として、臨床医学各論の授業では教えている。すべり症、分離症、ギックリ腰などいわゆる(腰が痛い)という括りで座学は行われる。

そこで知る内容は、痛み、とくに痺れが下肢に出ている場合は患部(腰)を施術してはいけない…というものだ。
マッサージや指圧など、物理的な外力を与える施術は急性期を過ぎるまではしないほうがよい、というのが教科書での鉄則になる。

腰痛に限らず、目の前の患者さんに施術をしていいものか、それとも医療機関の受診を勧めるべきなのか?その区別ができるために、鍼灸マッサージの専門学校では臨床医学の授業がある。

西洋医学がファーストチョイス。
鍼灸、マッサージなどの代替療法はセカンドチョイスになる。

これがいわゆる模範的な回答…なんだと思う。
私自身も過去に専門学校で同じ科目を教えてきた経験があるので、学生に向けて座学で言及できるのはそこまでになる。

腰が痛い人の立場で考えてみる

一方で、もしこれが患者の立場だったらどうだろうか。主客逆転。

身近で振り返ると、妻はギックリ腰を繰り返していた時期がある。
腰が痛いのをガマンして整形外科に行く。
診察ののちに「安静にしてください」と言われて湿布をもらって帰ってくる。いわゆる保存療法を行っている状況になる。

「病院に行っても湿布しかもらえないの」

…医療機関は悪者ではない。
保存療法も立派な医療のひとつだと思う。しかし、西洋医学の得意分野は何かと考えると、それは命を取り留めるための医療にほかならない。

冬場に脱衣場で倒れて救急車で運ばれたり、肺炎が流行して高熱が出たり。夏場だったら熱中症で倒れて意識を失っている人の命を救う。
ヒトの生き死にに関わる場合に強制的な力をもってその人の命を助けることが西洋医学の使命といえる。

一方で、慢性的な肩こりや腰痛、睡眠不足や糖尿病など生活習慣に関わるものになると歯切れが悪い。

…というか、そもそも自分の健康は自分で管理する。
睡眠と食事、運動の3つをきちんと心掛ければ、40数兆円を超える国民医療費も削減できるに違いないと筆者は考える。

話が逸れたので元に戻す。
ギックリ腰で動きづらい人の気持ちとして(この痛みを楽にして、なんとか動けるようになりたい)と思うに違いない。

そして、鍼灸、マッサージの看板を見て「ここならなとかしてくれるかもしれない」という期待を抱いて訪れる人がいるかもしれない。
さて、あなたが現場に出たら、その患者にどうやって声を掛けるだろうか。

患者の気持ちになって考えてみる

目の前にギックリ腰になってやって来た患者さんがいます。
あなたが施術者なら、どうしますか?

例1)「昨日から腰が痛くなったんですね。しばらく安静にしてください」
教科書の通りで行けば、このような対応になる。
24~48時間は安静にして様子を見ることが最善と書いてある。さて、この治療院に患者はつくだろうか。

例2)「昨日から腰が痛くなったんですね。ちょっと見てみましょう」
患者の気持ちを汲んで、思い切って患部に触れてみる。
恐るおそる施術を始める。ムリな施術はできないので、痛みは変わらないまま帰ってもらうことになる。さて、この治療院に患者はつくだろうか。

「ここなら何とかしてくれるかもしれない」

そう思った時点で、その人のファーストチョイスは医療機関ではなく鍼灸院、マッサージ院かもしれない。

事実、病院が嫌いとか、病院に行く時間がないので見てもらいに来たという人もいる。一見、厄介に見える患者こそ、長い目で見ると鍼灸やマッサージに信頼を置いてくれる可能性がある。

そういう人を目の前にして、できることはあるだろうか。

ミッション:腰にふれずに痛みを緩和せよ!

肝心なことなので先に断っておく。
それがヘルニアであれ、ぎっくり腰であれ、脊柱管狭窄症であれ。
痛みのある患部にふれるのは、上策ではない。物理的な外力で押したり揉んだりは危険極まりないことは大前提だと考える。そこは教科書の通り。

それなら、腰にふれずに腰の痛みを緩和する手法はあるのだろうか。
施術が終わったあとに痛みが半分くらいにまで落ち着いていればいいと思う。

可能性として方法はある。
もちろん、一人ひとりの体の使い方や発症からの経過は違うので、ひとまとめにはしづらい。

…それでもいくつかの可能性を示しておきたい。なぜならそれは、徒手療法の可能性を示すことに他ならないからだ。

可能性1)腰より下の部位で筋緊張や関節のねじれを見つける

腰(腰椎)は上半身の重さを骨盤に伝える支柱の役割をしている。
腰=大黒柱、ここは共通して理解できる事柄だ。

その大黒柱がまっすぐにバランスを保ち、しなやかに動くのであれば痛みは伴わない。つまり、痛みがあるということは腰椎が傾いていたり柔軟性を失っていることを示唆している。

腰椎を受け止める土台は仙骨、そして骨盤。

普段から足を組むクセがある人は、上半身の土台となる骨盤が傾いている=腰椎も傾いていると考えていい。…でも腰椎はさわれない。

そこで考えるのは骨盤、股関節になる。
骨盤は股関節という左右2つの球体のうえでバランスを取っている。

骨盤と股関節

方法のひとつとして、股関節を超える筋肉にアプローチすることが思い浮かぶ。
イラストでは中殿筋が示されているが、実際には中殿筋だけでなくそのほかに走行している骨盤周囲の筋群のなかから、ココ!というポイントが見つかることがある。

補足すると寛骨臼ー大腿骨頭の動きが不十分なのは、それよりも下位の膝関節、足関節に原因があることが多いので、ここも見ておきたい。

可能性2)腰のバランスを補正している箇所を見つけ出せ!

骨盤が傾くと腰椎も傾く。そして、背骨全体の傾きを補正する動きがほかの個所にみられることがある。

骨盤-脊柱・ゆがみの一例

明らかにわかりやすいイラストを引用させていただく。
そしてこれは一つの例であってすべてがこのパターンでないのだが、理解するにはちょうどいいと思う。

骨盤が傾けば背骨もゆがみ、バランスを取るように首が傾く。
このイラストからわかるように、バランスを失ったところがあると多くの場合、それを補正するところが出てくる。

会社に当てはめれば、営業のAさんがさぼっているので同じチームのBさんがシャカリキに働いて穴埋めをしている景色に似ている。
そしてがんばった結果、疲弊しているのはBさんということになる。

…ここまで書いて、感のよい人は気づくだろうか。

疲弊しているのはBさん。
サボっているのはAさん。
痛がっているのは、腰…

これは、痛いのは腰だったとしても本当の原因はほかの部位だった、というケースになる。サボっているAさんを見つけなければならない。

イラストを見ると、首がバランスを崩しているように見える。首の影響から腰が痛みを訴えていると考えられる。
しかし、これはあくまでも一例。
ヒトであれば、それが肩甲骨だったり肋骨だったりする。

かように体は面白い。
筋骨格系の概念を理解するうえで【テンセグリティ】という考え方がわかりやすい。

イェッセンの二十面体

棒=骨、ゴム=筋肉として、両者がバランスを取り合って構造を維持しているという理論だ。

指圧やマッサージという徒手療法はそれだけでは成り立たない。
解剖学、生理学というヒトの構造と機能をしっかりと理解しておきたい。

そして、筋肉を押したり揉んだりするだけでなく、骨格や筋膜なども扱えるようになることで対応できる症状の範囲が広がると考えている。

physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。