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#講義録・指圧基礎実技 2024.10.21 〜よそではあまり見ない胸部と腹部の指圧の大切さを伝える〜

1年生の授業の様子をしばらく綴っていませんでした。
うつ伏せでの指圧を伝えたあとは、仰向けになって下肢、上肢の実技を授業で進めています。
そして、頭と顔の指圧。巷では頭の施術はヘッドスパ…というイメージが強いと思います。顔の施術はフェイシャルエステに分がありますが、指圧することでも肌の新陳代謝を促す効果を期待できます。

さて、今回は胸部と腹部の指圧について綴ります。

なぜ、胸部を指圧するのか?その理由

胸部の指圧を行う前には十分な説明をすることと、その必要性がある場合に限って施術をします。
当然のことですが、女性はブラをつけていて乳房があるため直接、そこに触れることはありません。
指圧できるのは鎖骨の下とその下(第2肋骨と第3肋骨の間)くらいまでになります。

肋骨の間(肋間筋)を指圧します

指圧をするのは骨と骨の間。その上を覆うように大胸筋もある場所です。
骨と骨の間には肋間筋があります。
肋間筋は息を吸うときに補助的に動く筋肉です。そして、肋間筋の筋膜はそのさらに奥で肺胸膜と接しています。
ここを指圧することで、ひとつは息を吸いやすくなるという効果を期待できます。風邪を引いて咳込んでいるときに行ってほしい場所です。
また長年、タバコを吸ってきた人では非喫煙者に比べて胸郭の動きに硬さを感じることがあります。そのようなときにも肋間部の指圧を行います。

二つ目の理由は、腕を動かしやすくすることです。
直接的には大胸筋を指圧することで、巻き肩の人は肩まわりの緊張が取れて肩を楽に回せるようになります。また、鎖骨下筋にも刺激が入るため鎖骨の動きが広がることも腕が挙げやすくなる理由のひとつです。

腹部指圧はほかとの差別化を図るだけではない

いわゆるマッサージや揉みほぐしなどを受けに行くと、ほとんどは首、肩、腰の施術が中心になると思います。時々、膝や足首、手首など気になるところに触ってもらう程度でしょう。
そういった視点では腹部指圧をすることは、ほかの施術との差別化につながります。

【首とお腹は欠かせない】

…これは浪越式指圧をきちんと身につけた施術者であれば当然の認識と思っています。さて、その理由を記して参ります。

ある場所を施術する、例えば肩が辛いときに肩にふれるのは通常の流れです。おなかが痛い、胃がつかえるとか便秘しているときにおなかの指圧をする。これも理解に難しくはありません。
辛いところに自然と手をあてるのは、ヒトの自然な流れと言えます。

その先に、腰が辛いときにもおなかの指圧をします。
ヒトの筋肉と骨格の構造をよく見ると、納得できます。

腹部の筋肉はコルセットのように腰を覆っています

腰が痛いときに腰を押します。
そのときに対象としているのは多裂筋や腸肋筋、最長筋、腰方形筋などの背中側にある筋肉です。
そしてそれらと対をなすように体の前面には、腹横筋、腹斜筋、腹直筋や大腰筋といった多くの筋肉があり、座位や立位で前後のバランスを維持する働きをしています。

背中側とお腹側の両面を施術することで、筋緊張や捻れの偏りをなくすことを目的に施術をします。
長年の腰痛で辛い思いをしていた方がお腹の指圧を受けたら快方に向かうのはよくある症例です。

骨格筋のその奥にあるものを調整するには

これまでに述べたのは、すべて骨格筋と呼ばれる筋肉です。
そして、お腹では腹壁を構成する筋肉が内臓を守っています。指圧をするということは、この内臓の働きを調整することにも視野に入れて行います。

腹部にある内臓は、肝臓、小腸、大腸、膀胱などのことです。
もちろん直接、触れることはできません。また、深いところに圧刺激を入れようとすると手指の力で圧をかけてしまいますが、それも違います。

試しにわざと手指に力を入れて押すと、グッとおなかに力が入って筋肉は固くなります。これはヒトが内臓を守ろうとする防御的な反射で起こる現象です。そのため、腹部を指圧するときは、いかにしてこの防御反射を起こさないで圧刺激を入れていくのか…ということが肝になります。
もちろん、肩や背中といったほかの場所でも同じ理屈なのですが、とくにお腹は触られることに慣れていないぶん、繊細な手指の操作と施術者が脱力していることが求められる場所です。

腹部指圧はまず、掌圧から

安全におなかの指圧を行う手順を紹介します。

1.受け手は仰向けに寝る
このときに腰が辛いようでしたら、受ける人は膝を曲げて足を立てるようにします。

お腹の指圧では膝を立てます

つぎに施術者は、受け手のお腹のうえに手のひらを置きます。
最終的に目指したいのは、このようなかたち(掌圧)です。

両手による腹部の掌圧

受け手のお腹のうえに手のひらを置いたら、押さずにそのまま待ちます。
しばらく待っていると相手の呼吸とともにお腹がへこんだり膨らんだりするのを感じます。
相手の呼吸に合わせて、お腹から手が離れないように表面に触れ続けます。手のひらは呼吸に合わせて上下します。

そして、相手が息を吐いていくタイミングで施術者はほんの少しだけ、手のひらを沈めるようにします。
目安としては2~3cm。
ふっと無理なくお腹が沈む感じで十分な圧刺激が入っています。

このときに気を付けたいのが手の使い方です。
理想的な手のひらの当たり方は、まんべんなく手のひらがお腹に触れていること。手は水をすくうような形になっています。

片手で行う掌圧、手のひらがまんべんなく当たっています

このような手の使い方に慣れていくと、触れている手の下がどのような状態になっているのか、硬いのか柔らかいのか、力なく沈んでしまうのか…などお腹の状態を感じられるようになります。

反対に、よく見られる例として手根部だけで押していることがあります。
これでは斜めに圧刺激が入る(垂直圧ではない)ため、最初に掌圧を身につける段階では相応しくありません。

片手での手根圧迫、指先が浮いています

もちろん、このような操作をすることもありますが、お腹の状態をふれて確かめるうえでは用いないほうがよいと考えています。

まとめ

お腹を施術しようとする人はまず、自分自身にお腹の指圧を行ってみてください。難しく考えないで、呼吸に合わせて手のひらを当ててみる。
しばらく待っていると意外と呼吸が浅いなとか、ここは冷えていて硬さがあるな…などの情報を得られるようになります。
お腹が整って指圧の効果を感じられますので、試してみてください。お勧めですよ、腹部の自己指圧!!

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かんだひろし@てあてと競技ダンスの人
physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。