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【解説編】GISとは何か? イメージ編

I. はじめに

「GISとは何か?」を一言で説明するのは難しいです。その理由は、GISが普及・発展するなかでその役割や期待が大きく膨らみ、意味する領域が広がったことにあるように思います。

そのため、GISを学問する人や教育する人、GISで商売する人やポジショントークする人によって良くも悪くも説明が付加され、コア部分が揺さぶられていることも、「GISとは何か?」を分かりにくくしている要因になっているかもしれません。

2007年に制定された「地理空間情報活用推進基本法」という法律の中では、

この法律において「地理情報システム」とは、地理空間情報の地理的な把握又は分析を可能とするため、電磁的方式により記録された地理空間情報を電子計算機を使用して電子地図(電磁的方式により記録された地図をいう。以下同じ。)上で一体的に処理する情報システムをいう。

とあり、「地理情報システム」を定義しています。法律の条文ほど強い言葉はありません。「地理情報システムとは何か?」に対する答えとしては、これを示すのが模範解答でしょう。
これで理解・納得できるかは別ですが・・・。

ところで、この記事のタイトルは「GISとは何か?」ですが、GISと地理情報システムは同じものなのでしょうか?

そもそもGISとは何の略なのでしょうか?
まずは、そこから確認しないといけないですね。


II. GISとは何の略?

GISとは、一般に「地理情報システム」の略です。英語では、

Geographic(Geographical とする表記もたまにある)
Information
System

となり、この頭文字を取ってGISと呼びます。

読み方は、地理学系の人は「ジーアイエス」と呼んでいます。国土交通省も「ジーアイエス」と呼んでおり、恐らくこの呼び方が一般的です。一方、工学・情報学系では、たまに「ギス/ジス」と呼ぶ人もいます(※1)。

※1 「GIS」を「ジーアイエス」と呼んでいても、GISソフトの「QGIS」を「キュージス」と呼ぶ人は多いです。「キュージーアイエス」と呼ぶと長いからでしょうか。しかし、ESRI社のGISソフト「ArcGIS」を「アークジス」と呼ぶ人は、見たことがありません。「アークジーアイエス」や、略して「アーク」などと呼ばれています。ファストフード店のマクドナルドがエリアマーケティングのために1996年に稼働を開始したシステム「McGIS」はマックジスと呼ぶそうです。

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GISとは、一般に「地理情報システム」の略です。つまり、「一般」でないこともあります。

GISが登場した当初は、GISはコンピュータ上で地図や地理情報を扱う「ツール」でした。しかし、GISが発展・普及するにすれ、「GIS」にいろいろな含みを持たせようという流れが出てきます。その結果、GISの「S」に、「システム」だけでなく様々な単語が割り当てられるようになります。例えば、以下のような単語です。

GIScience:
GISは単なるツールではなく、学問・科学として研究対象となる体系だとする主張から。
GIService:
地図アプリやカーナビなどを通じて、GISがサービスとして社会に広く浸透しているという主張から。
GISociety:
GISが情報化社会における社会基盤となっているという主張から。
GISimulation:
GISは過去の事象の解析だけでなく将来予測のような未来志向の解析にも有用であるという主張から。

言った者勝ちであるため、探せば他にもいろいろあると思います。これらがひとまとめに「GIS」とされているために、様々な主張を取り入れて当たり障りのないようなGISの説明しようとすればするほど、訳の分からないことになります。

とはいえ、日本でGISといえば95%くらいは「地理情報システム」のことを指すので、実際はあまり意識する必要はありません。

ちなみに、「GIScience」すなわち地理情報科学はかなり定着している言葉です。地理情報科学は、地理情報システムに関する方法論や活用事例などを体系的に整理し研究する学問で、1990年頃から言われるようになりました。GIS(地理情報システム)との区別を明確にしたいときは「GIScience」や「GISc」と表記されます。GIScienceは海外でも多く用いられており、論文や記事の検索キーワードとして機能するので、覚えておいて損はないと思います。


III. 「地理情報」システム or 地理「情報システム」

地理情報システムと言ったとき、次のどちらにアクセントがあるのでしょう?

地理情報のためのシステム
・地理も扱える情報システム

GISの歴史的経緯からすれば、地理情報システムは前者の「地理情報のためのシステム」と言われています。GISは1950年~1960年代に実用化された技術で、当時はコンピュータマッピングと呼ばれていました。コンピュータマッピングは軍事技術や地域研究に、更に行政業務やインフラ管理等に利用され、いつからかGISと呼ばれるようになって現在に至ります(※2)。また、この文脈では、GISは「空間分析ツール」の意味合いが強いです。

一方、道路や電線、上下水道などを管理するインフラ事業者にとっては、インフラを地図上で管理することが業務効率化のために重要でした。ここで「地理も扱える情報システム」が利用されます。日本では、インフラ屋のなかで地理情報の管理システムが独自に開発され、GISの起源はこっちだという人もいます。2000年以降になると、いわゆる汎用の「情報システム」でも地理情報を取り込めるようになり、管理だけでなく空間分析を行えるものも増えてきました。最近では、2018年に登場した MySQL の新バージョン 8.0 で、GIS機能が強力にサポートされたことが話題となりました。 Tableau のようなビジネスインテリジェンスツール(BI)や MS Excel にも、データを地図を用いて可視化する機能が搭載されています。

GISが十分に浸透した今日においては、両者の境目は曖昧となり、章題のような疑問は意識されなくなりつつあります。

※2 初めてGISという用語を用いた人物は、トムリンソン(Tomlinson, R. F.)と言われています。トムリンソンはカナダの農地管理・開発計画の策定を目的として、地図描画やオーバーレイ分析、面積計算といった解析が可能なシステム「CGIS(Canada GIS)」を開発し、1964年に運用を開始しました。このことから、トムリンソンは「GISの父」と呼ばれています。

IV. GISと似た言葉

1. GISとほぼ同じ意味の言葉

ここまで、「GIS」という言葉の中に様々な意味があることを紹介しました。今度は、GISと似たような名前の言葉についてです。例えば、次のようなものがあります。

・空間情報システム(SIS)
・位置情報サービス(LBS)
・ロケーションシステム
・地図情報システム
・時空間情報システム
・ジオインフォマティックス
・gコンテンツ

これらとGISとの関係について、GISと同等かGISに包含されるものという認識で良いと思います。言葉を使う側は意図があって使い分けているかもしれませんが、受け手は「GIS」と読み替えてしまっても齟齬が生じることはほぼ無いでしょう。

ということで、以下は余談的な解説です。

「地理情報」ではなく「空間情報」という言葉を使う文化は、建築学や都市工学などで見られます。「地理」には平面上の現象を扱うイメージがあります。建築学や都市工学では3次元を対象とすることを強調するために「空間情報」という言葉を用いて区別しているのかもしれません。「ジオインフォマティックス」も、空間情報を英語で表記して差別化したようなイメージです。

「位置」やその英語「ロケーション」は、地理情報の中でも特に「人やモノの場所」に焦点を当てたい時に使われる印象があります。また、駅構内の人の流れや自律移動ロボットの定位などのように、屋内の居場所に関する情報を指す場合には、地理情報よりも「位置情報」の方が一般的です。

「地図情報システム」という言い方は、意図があってそのように呼んでいるのか、「地理情報システム」を言い誤っているのかよく分かりません。国土地理院が整備するGISデータ「基盤地図情報」に見られるように、GISで扱う地図データという意味で地図情報と呼ぶことはあるので、その流れで「地図情報システム」となってしまったのでしょうか。

GISは、時系列データの扱いが得意ではありません。そのため、時間と空間の両方を取り扱えるように開発したシステムをGISと区別して「時空間情報システム」と呼ぶことがありました。2010年頃までは耳にすることもありましたが、最近はあまり聞かない言葉です。

「gコンテンツ」の「g」とは、geographic の頭文字です。マーケティングやビジネスに擦り寄ったキャッチーな言葉ですね。他にも、「G空間」のように「G」を頭文字に付けた言葉が幾つかあります。

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2. GISとは少し違うもの

このほか、「GPS」と「リモートセンシング」もGISとの違いが分かりにくい言葉だと思うので簡単に解説します。

GPSは Global Positioning System の頭文字を取った言葉で、日本語では「全地球測位システム」などと訳されます(※3)。地球の周りをまわる複数のGPS衛星から信号を受け取ることで受信場所の緯度、経度、標高が求まり、受信者の現在位置を知ることができます。GPSによって測定された情報は、GISを用いた分析やサービスなどに活用されます。したがって、GPSとGISは互いに関連の深いものですが、イコールではありません。

リモートセンシングは、遠隔操作によって計測する技術のことを表します。特に、人工衛星や航空機などを用いて地表からの電磁波を測定し、そのデータや画像を伝送させて観測することを「衛星リモートセンシング」、または、単にリモートセンシング(略してリモセン、RS)と呼んでいます。
リモートセンシングによって得られたデータは、土地利用状況の把握、環境変動の時系列変化解析、災害の被害状況把握などに活用されます。リモートセンシングも、GISと関連の深い技術ですが、イコールではありません。

※3 狭義では、GPSはアメリカが運用する人工衛星を利用した測位システムのことを指します。人工衛星を利用した測位システムは、アメリカだけでなく世界中の国々が運用しており、そのシステムは様々です。そして、これらを総称したものを GNSS(全地球航法衛星システム:Global Navigation Satellite System)と言います。したがって、これまで私たちがGPSと言ってきた場面のほとんどにおいて、本来はGNSSと呼ぶのが正しいです。国土地理院の報告書や資料を見ると、GNSS表記が徹底されていることを確認できます。

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3. GISで扱うデータに対する呼び方

GISに似たような意味の様々な呼び方があったように、GISで扱うデータにもいろいろな呼び方があります。例えば、次のようなものです。

・地理空間情報
・地理情報
・空間情報
・GISデータ
・空間データ
・位置情報
・ロケーションデータ
・ジオデータ

この中で、現在最も "公的な" 呼び方は地理空間情報でしょう。特に行政資料や出版物などの活字媒体ではよく使われています。これは、I章で触れた地理空間情報活用推進基本法に倣って使われるようになった新しい呼び方です。逆に言えば、2007年にこの法律ができるまでは、地理空間情報という言葉は無かったか、あってもマイナーでした。

過去から現在にかけて、最も "一般的な" 呼び方は地理情報や空間情報、GISデータ、空間データです。特に話し言葉では圧倒的です。地理空間情報は長いので普段の会話では使いません。
この4つはどれを使っても問題ないと思います。個人的な感覚として、地理情報と空間情報は「GISで扱うデータ」という概念として扱うときに使用し、GISデータと空間データは「GISデータをウェブサイトから入手する」のように具体的な実体を指して呼ぶ時に使うイメージがあります(※4)。

位置情報やロケーションデータは、場所の特定を目的としてGPSなどから得られたデータに対して使用されます。地理情報の中に包含されるものと言えるでしょう。

ジオデータという呼び方は、キャッチーな感じですね。スタートアップ企業が好んで使いそうな言葉です。

※4 空間情報と空間データという対応から、地理情報に対して「地理データ」という呼び方もありそうですが、GISデータを指す言葉として使われることは少ないように思います。地理データというと、『国勢図絵』や『データブック オブ・ザ・ワールド』のような国や地域の統計情報を指すイメージです。


V. おわりに

今回は「GIS」というコトバのイメージを紹介しました。

GISは薄っぺらく説明すれば「パソコン上で地図を扱うためのシステム」ですが、地理情報科学の知見を踏まえて、どうすれば地図の修正や更新が楽になるか、分析の幅を広げたり結果を分かりやすく伝えるためにはどのような情報の追加や組み合わせが必要か、といった技術の体系も含めて扱うことが一般的です。

このGISのイメージをより実感するには、GISで何ができるのかを知ることが大切だと思います。次のnoteでは、GISでできることを紹介し、「GISとは?」という説明に肉付けを行っていきます

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記事の内容でもそれ以外でも、地理やGISに関して疑問な点があれば、可能な限りお答えしたいと思います。

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ArcGISを使って空間解析を行っていた時期もありました。一方、QGISは初心者なので、勉強しながら記事を作っています。WordやExcelのように、みんなが当たり前にGISを使いこなす世界の到来を目指して、解説記事を書いていきたいと思います。

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