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【実習編】非専門家のためのQGIS ~メッシュで描く人口分布~

I. メッシュデータとは

GISでよく利用されるデータの1つにメッシュデータがあります。メッシュデータとは、ある領域を格子状に区切ったデータのことです。メッシュデータのベースは単に地域を区切っただけの幾何データですが、これに各格子内で集計された統計値を格納することで強力なGISデータとなります。その統計値を用いて地域の特性を地図上に可視化することができます。
ちなみに、日本ではメッシュデータをアルファベット表記でも「Mesh data」としますが、海外では「Grid data(グリッドデータ)」と呼ばれることの方が一般的です。

メッシュは誰がどのように切っても問題ありませんが、データの再利用や比較などを考えると、メッシュの切り方に基準があった方が便利ですね。
日本では、行政管理庁(現総務省)が仕様を定めた「標準地域メッシュ」があり、日本で流通するメッシュデータのほとんどは標準地域メッシュをベースとして作成されています。1974年に日本工業規格(JIS X0410)として、国家規格に定められています。したがって、特に日本国内でメッシュデータというと、普通はこの標準地域メッシュのことを指します。

標準地域メッシュは、地理院地図で確認することができます。地理院地図の [ 機能 ] ボタンから「設定」→「グリッド表示」とクリックし、「地域メッシュ」の表示を [ ON ] にします。

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メッシュの中に書かれた数字はメッシュコードと呼ばれるコードです。メッシュコードは座標値から算出され、座標値が決まればその地域に対応するメッシュが分かります。逆に、メッシュコードが分かればそのメッシュが示す範囲が定まります。
メッシュコードの扱いは地理情報処理に欠かせない技術ですが、算出過程はなかなか複雑なので、ここでは取り上げず、別のnoteで紹介します。

メッシュデータを用いた統計情報は公的統計でも作成・公表されており、国土数値情報地図で見る統計などからダウンロードできます。今回はダウンロードすればすぐ利用できる(※1)、国土数値情報の「メッシュ別将来推計人口」を地図上に表示してみましょう。

※1 メッシュデータに統計情報が含まれており、QGISで読み込めばすぐに色分けできるという意味。地図で見る統計では国勢調査に基づいた人口メッシュデータが公開されています。これは、日本の人口動態を知るうえで重要なデータですが、メッシュデータと統計情報が別々に公開されておりGISに落とし込むまでに手間がかかります。人口メッシュデータの利用方法は別のnoteで扱いたいと思います。また、簡単に利用できるように、プラグインを作成・公開している方もいるので参考にして下さい。
[ リンク ] : karaGR's memo
標準地域メッシュCSVをQGISに直接追加するプラグインを作りました


II. データの準備

国土数値情報のウェブサイトから「メッシュ別将来推計人口」をダウンロードしましょう。推計人口データはページの一番下、「5. 各種統計」にあります。
メッシュサイズは、1km(3次メッシュ)と500m(4次メッシュ)が用意されています。500mの方がより詳細ではありますが、データサイズも跳ね上がります。県レベルの範囲を描くのであれば、1kmでも十分でしょう。

このnoteでは、北海道の1kmメッシュ将来推計人口データをダウンロードしました。北海道だけでも解凍後のファイルサイズは約46MBと、そこそこのボリュームがあります。

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III. QGISで人口分布を可視化

ダウンロードした将来推計人口データを、QGISで読み込んでみましょう。
QGISで開くと、下図のように、1つ1つのメッシュが集まって北海道の形が現れました。本来、メッシュデータは空間を埋め尽くすように割り当てられていますが、このデータでは人が住んでいない地域のメッシュが削除されているようです。

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座標系を地理座標系(EPSG:4612)からUTM座標系54系(EPSG:6691)に変更しています。

続いて、属性テーブルを開いてみましょう。第1列にメッシュコード、第2列に市町村コードがあり、以下たくさんのフィールドと対応する数値が入っています。各フィールドの説明は、国土数値情報のデータ詳細から確認できます。

まずは、現状の人口分布を確認してみましょう。国土数値情報のデータ詳細によれば(※2)、「PTN_2015」というフィールドには2015年の人口が入っているとのことなので、このフィールドの数値を使って人口数のマップを可視化します。

国土数値情報では、ダウンロードできるデータの仕様をウェブサイト上で確認できます。属性情報の仕様は、「データの詳細」ページの中段の「属性情報」にPDFファイルが公開されています。

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プロパティのシンボロジで、シンボル設定のモードを「段階に分けられた」に設定し、色分けの対象となるカラムに「PTN_2015」を指定します。分類のモードを「自然なブレイク」に変更し、カラーランプを見やすい色に設定したら [ 適用 ] をクリックして、設定を反映させましょう。

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設定を変更した地図を見ると・・・変わったようには見えません。

マップを拡大してみると、確かに色分けの設定が適用されたことが分かります。しかし、全域表示ではメッシュが黒で塗りつぶされ、色分けが分からないですね。

これは、各メッシュの縁幅が縮尺にかかわらず固定で描画されるため、小縮尺では縁ばかりが目立ってしまうことが原因です。したがって、シンボロジで各メッシュの描画設定を「縁なし」に変更し、縁を描画しないように設定を変更しましょう。

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各階級シンボルに対し1つ1つ設定を縁なしに変更することもできますが、シンボルを全て選択した状態で「シンボルの変更」をクリックし、ストロークスタイルを「ペンなし」に変更すれば、一度で全ての階級シンボルを縁なしの設定に変更できます。

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階級シンボルを縁なしに変更出来たら、再度 [ 適用 ] をクリックし、地図を確認してみましょう。

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上図は、背景に国土地理院の衛星画像を表示し、その上にメッシュデータを表示させました。人口が分布している場所は平野が多いですね。
札幌から旭川、名寄へ。また、札幌から苫小牧、室蘭へ赤系のメッシュが点々と連ねており、駅を中心に鉄道沿線に都市が形成されていることが分かります。


IV. 北海道の将来人口分布はどうなるのか?

1. 2045年の人口分布を描く

さて、北海道の将来の人口分布がどのようになるのか、QGISで可視化してみましょう。メッシュ別将来推計人口には2050年までの性別、年齢別の人口推計データが入っています。ここでは、2015年から30年後の2045年の総人口を可視化してみましょう。

まず、後で表示を切り替えて比較できるように、レイヤーを複製しておきます。レイヤーの複製は、レイヤーを右クリックして、「レイヤの複製」を選択します。続いて、プロパティのシンボロジを開いてカラムを「PTN_2045」に変更し [ 適用 ] をクリックしましょう。

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ここで、2015年と2045年の状況を可視化によって比較するためには、同じビン(階級の幅)を使用することが重要になります。2015年データと2045年データとでビンの設定が異なってしまうと、可視化したマップの濃淡を見て傾向を単純に比較することができなくなります。
上のように、2015年の設定からカラムだけ変更し [ 適用 ] をクリックすることで、ビンの設定を流用しつつ描画するフィールドを変更することができます。

一方、[ 分類 ] をクリックすると、ビンの設定は2045年のデータ分布に最適化したものに変更されます。2045年の結果だけを見るのであれば、最適化後の設定の方が人口分布の傾向をより良い表現で可視化できます。

下図では、2015年と30年後の2045年の総人口を可視化しました。2045年では薄黄色のメッシュの領域が小さくなっていることから、人の居住地域が縮退していることが分かります。

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2. 2015-2045年の増減率から人口動態を描く

2015年と2045年の人口の数値を使って、増減率も可視化してみましょう。
人口増減の式は次のようになります。

(2045年 / 2015年) - 1

プロパティのシンボロジでカラムの右端にある「ε」ボタンをクリックします。すると式ダイアログが表示されるので、立式して [ OK ] をクリックします。

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# 入力する式
"PTN_2045" /  "PTN_2015"  - 1

分類のモードをプリティブレイクに変更し(※3)、配色を微調整して [ 適用 ] をクリックしましょう。ここでは、分類数を2にして、増加(0以上)と減少(0未満)の2値で設定しました。さて、30年後の人口増減の結果は・・・

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予想の通りかもしれませんが、メッシュのほとんどが青。すなわち北海道全域にわたって人口が減少すると推計されています。人口が維持されるのは札幌中心部とニセコ町。そのほか、十勝平野で人口増減がプラスになっているメッシュがモザイク状に見られます。

十勝平野については、これまで農地だった場所が住宅地に転換されたことによる一時的な人口増加の結果を、外挿評価によって2045年推計では誤ったトレンドで見積もってしまったということでしょうか。帯広市の人口は、2000年以降は減少傾向にあります。この図が示すようなモザイク状の人口増加地域の出現が2045年まで見られるとは、ちょっと考えにくいですね。

※3 プリティブレイクは、キリの良い数値で階級を区分するモードです。


V. おわりに

メッシュデータは、地理空間上を隙間なく覆うことができる規格のため、地表面上の様々な情報がメッシュデータの形式で整備されています。例えば、今回利用した人口データだけでなく、土地利用、植生指標、河川水系域、地価、道路密度などがあります。
また、面積で標準化されていること、メッシュコードから一意に場所を特定できること、格子状であるため隣接関係を考えるのが容易であること、といった特徴からシミュレーション解析での活用も増えています。

今回使用した国土数値情報のメッシュデータにも、このnoteでは利用しなかったフィールドがたくさんあります。まだ使っていないフィールドのデータを地図にしたり、他のデータを重ね合わせたりして、地域の特徴を地図に描いてみましょう。

記事の内容でもそれ以外でも、地理やGISに関して疑問な点があれば、可能な限りお答えしたいと思います。