一枚のビスケット

この春無事に保育園に入園した娘。2歳半。
慣らし保育で昼食を終えた頃お迎えに行き、同じく慣らし保育中のおともだちと公園でたっぷり遊んだ後、ベビーカーでお昼寝したまま帰宅した。
まだ寝るかとベビーカーからリビングに運んだが、カーペットにそっとおこうとした途端に目を覚ます。時計を見ると3時半だった。
私は、1人タイムがなくなったことに少々後ろ髪をひかれつつ(読みかけの本がクライマックスだった)、これ以上寝ると夜寝るのが遅くなってしまうから逆に良かったと自分に言い聞かせ、寝起きでぐずっている娘に「おはよう」と声をかけた。

おやつにするか。私は牛乳と娘の好きなビスケットを数枚お皿に用意した。

「これはビスケット?」
「そうだよ。ミレービスケット。美味しいよね。ママも大好き。」
「ママも食べていいよ」
「ママの分はもう食べたからいいよ。これは娘ちゃんの分。」
「じゃあパパにあげよう。」
そういって娘は大好きなビスケットを一枚残した。
「いいの?娘ちゃん食べちゃっていいんだよ?」
「うん、だって美味しいからきっとパパも食べたいよ。」
「じゃあラップしておいておくね。パパきっと喜ぶよ。」

6時。仕事で遅くなりそうな夫をおいて、娘と私は夕食を食べた。相変わらず娘は少食だが、食後のデザートを何よりの楽しみにしている。食べたご飯の量によってデザートの内容や量が変わる決まりの為、ほぼ残さず食べた。

7時。デザートのゼリーを食べ終え、ふっとスマホを見ると遅くなると思っていた夫から6時15分に「帰ります」と通知がきていた。通勤時間は大体45分だから、もうまもなく帰ってくるだろう。なんて嬉しいサプライズ。ワンオペ解放!

程なくして玄関のドアが開き、一階の洗面所から水の流れる音が聞こえてくる。我が家はリビングダイニングが二階にあるから、娘はまだパパが帰宅したことに気づいていない。

「ガチャ」
階段を登ってリビングに入ってきたパパが「ただいま」と一言。私も「お疲れ様」と一言。
娘は「おかえり」を言わず(ただいまとおかえりの概念がまだ理解できていない)、真っ先に「パパー!ビスケットあるよ!ママ、さっきのお皿取って!」と一目散にキッチンへ行った。

「あぁちゃんと覚えていたんだなぁ」と感心しながらお皿を娘に渡し、娘はパパにビスケットをあげる。パパはそりゃあもう満面の笑み。デレデレです。

大好きなビスケットを前に「やっぱりちょうだい」と言うかなと思った。夫も「いいの?ほんとに?食べちゃうよ?」と娘を惑わせる。
それでと娘の意思は固く、「パパ早く食べてよ〜」。結局パパが食べた。

自分の行動で誰かが喜んでくれること、それを自分の喜びにできること。

娘にその萌芽が育っていることがとても嬉しい。

実はパパにビスケットを渡す前にほんの少しかじったことは内緒です。


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