おばあちゃん

お正月、見慣れた祖父の遺影、分厚すぎる封筒、いつも通り穏やかな顔で笑う祖母、多分2度と忘れない祖母との最後のお正月。

高校3年生になってすぐの頃祖母が入院した。肺に水が溜まってるとしか教えてもらえなかった。すぐに良くなるだろうと思っていたら夏を迎えて秋になり冬になった。祖母の看病で忙しい私の家族。まだ高校生の幼いわたしにできる事はなんだろうと必死に考えた。私は祖母に沢山喜んで欲しくて勉強に課外活動に力を入れて生きた。その成果もあり沢山の賞状や成績表が私の元に届いた。それらを見せる度に祖母は誰よりも喜んでくれた。本当に嬉しそうにわたしの手を握って笑って泣いていた。

結局その年は受験期の忙しい日々の合間を縫って祖母の病院へ行きそのまま塾へ行くという生活を送った。土日は一緒話に病室でご飯を食べた。入試がある来年の2月まで塾に行く時間を祖母と過ごす時間に変えたかった。そして大学の合格書を早く見せたあと思った私は推薦入試を受けた。結果は見事合格。こんなにすごい大学に入学するの?と目を丸くした祖母、おもちちゃんならやると思ってたわと悪戯な顔をして私とハイタッチをした。合格書を見せたあの時の嬉しそうな祖母の顔は一生忘れない。

入退院を繰り返していた祖母もお正月は許可をもらい皆で家で過ごした。毎年恒例のお年玉を渡す時間になって祖母は例年とは違う太い封筒を持ってきた。中を開けてみると見たことのない札束が入っていた。大学の入学金くらい出させてと祖母は笑っていた。見た事のないお札に固まる私、聞いてない多すぎると言いながら祖母にお金を返そうとする両親。お金を返されるなんて恥をかかさないでちょうだいと笑う祖母に勝てる人はおらず結局もらった。最後のお年玉だった。

それから1ヶ月がに祖母は亡くなった。前日まで、数時間前まで元気に喋っていたご飯も食べていた祖母は急に亡くなった。今まで危ない事は何度もあったけどその度に元気になったから大丈夫だろうと思っていた。そんな事はなかった。祖母の左手をずっと握らせてもらった。だんだん冷たくなる事を認めたくなくてずっと握っていた。小さい頃に祖母が言っていた言葉を思い出した。

おもちちゃんの子供は見れないかもしれないけど結婚式には出るからね。素敵な相手と結婚式をあげてちょうだいね。

結婚式どころか成人式すら見せられなかった。振袖姿でと共に写真を撮りたかった。センスのいい祖母にウエディングドレスを見て欲しかった。約束と違うじゃないか。わたしの結婚式に出るって言ったじゃないか。祖母がもういない事を未だ信じられない私は未だに会いたくて夜泣いている。実家に帰ったら会える気がする。こんなに寂しくて泣いてるのに祖母はもう駆けつけてくれない。

闘病していた事を秘密にしていたため亡くなった後は大騒動だった。親戚に連絡し、病室に集まってもらった。こんな姿になっちゃって、あんなに綺麗な人も死んだらこんな風になるのね、骨になると誰か分からないわね、こんな姿になって可哀想、葬式までの間心ない親戚の言葉に何度も傷ついた。なんでこんな人より先に祖母が死ぬのか、と思いたくもないことを何度も思った。一週間固形物を食べれなかった。体重は4キロ落ちてベルト無しではズボンが履かなくなった。そんな時家に訪れた祖母の親友の方。私を見るなり

あなたがおもちちゃんねと微笑まれた。     おばあちゃんはいつもあなたの自慢ばかりだったわ、写真も沢山見せてもらったのよ、よく食べる美人な孫だと言って美味しいものを食べるたびにおもちちゃんに食べさせたいと言っていたのよ。一眼見てわかったわ、おばあちゃんの言う通り美人さんね。と言ってくださった。           食べなくちゃいけないと思った。祖母が沢山食べさせてくれた美味しいもの、祖母が食べずにおわった物を沢山食べて天国に土産話として持っていこうなんて思った。一週間ぶりに食べたおにぎりは味がしなかった。祖母の混ぜご飯が食べたかった。祖母の角煮が食べたかった。祖母が作るエビフライが食べたかった。祖母の作るスープが飲みたかった。祖母が入れる紅茶が飲みたかった。当たり前に食べていたものが最大の贅沢品だったことに気づいた。

幼い頃共働きで2〜3日家をあけることが当たり前だった私の家。面倒を見てくれるのはいつも祖母だった。祖母は綺麗な人だった。見た目はもちろん字も料理も歌も上手でウィーンでのコンサートに招待された事さえあった人だった。頭も良くて几帳面、他人にも自分にも厳しく優しい人、何より言葉が綺麗な人だった。そんな祖母が大好きな私。私の知ってる女性で1番美しくて聡明な人、誰よりも尊敬している人。祖母の遺影は早くに亡くなった祖父の隣に並んでも全く違和感がなかった。おじいちゃんも早くおばあちゃんに会いたかったんだろうねなんていう母。確かにわかる気がする。こんなに素敵な女性を置いて天国で暮らすなんて無理だろう。まぁ、もうちょっと我慢して欲しかったところだけど。

わたしの記憶力にも限界があるからこそ今思う気持ちをノートに書き残しておきたかった。次には祖母の死にまつわる不思議な話でも書こうかな。優しい祖母らしい不思議な話。

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