#3 Chien

今日も私はあの人を待ち続けている。

忘れられない人、そんな言葉で片付けられるような関係じゃない。私の傍にはいつだってあの人がいて微笑んでくれた。

私が顔を埋める大きな胸も、抱きしめる力強い腕も、吸い込まれるような栗色の目の奥も、笑い声も、吐息も、匂いも全てが私をここに縛り付ける。

私をあの窮屈な世界から連れ出してくれた日から、毎日同じベッドで眠るあの人を起こさないように、私は小さくキスをする。くすぐったいよ、と笑うあの人の腕の中だけで私は深く眠ることが出来た。


あれから一体どれだけの時間が経ったのだろう。

私は何度も夢と現実の間を漂い、そして絶望する。窓に映る自分がまるで自分じゃないような気がして怖くなる。


ガチャ


ドアの開く音が耳に届いた瞬間、私の体は弾かれたように動いていた。確信があった。絶対にあの人だと。

走ってきた私を抱きとめてあの人は笑う。


「ただいま。さあリードを着けて、散歩に行こう。」




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きなこ

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