下北沢愛
ああ、語り尽くせないだろう。
これは今後、
何度も書き連ねることに
なる気しかしない題目である。
下北沢との出会いは、
人生の中の「出会い系TOP3」に入る
重要案件だ。
これがなかったら、いまのわたしは無い。
もちろん過言ではない。
初めて下北沢に降り立ったのは、
21歳の時だ。
西新宿の不動産系デザイン事務所に
就職したものの、
Macがひとりに一台与えられない時代の、
なんとも過渡期な印象の職場だった。
専門学校を卒業したての、
右左どころか足元も覚束ない人間に、
できることは雑用ばかり。
それでも真面目に、
それなりに楽しく通い、友達もできて、
一緒にご飯や買い物に行くようになった。
その友人がまた、
人生の出会い系上位に食い込む刺激的な女性で、
彼女から得たものは計り知れない。
とにかく何も知らないウブなわたしに、
アンダーグラウンドな世界を見せてくれた人だ。
シモキタにいこーよ、きっと気に入る、
と言って仕事終わりに連れられていき、
わたしは知ってしまった。
ここだ、と思った。
初めて来たというのに、なぜか馴染む。
空気がおいしい。
駅から歩き始めてまだ数分しか経っていないが、
確信していた。
この街が大好きだ。
それまでに、東京のいろいろな街に
足を運んだことはあった。
池袋、新宿、渋谷、原宿。
背伸びして表参道や青山、代官山。
浅草や上野、十条や赤羽も。
だけど、下北沢には、
何だか説明不可能な運命を感じた。
生まれ育った埼玉の地元よりも、
親しみのある街並み、雰囲気。
前世があるならば、ここにいたのではないか、
と自分でも不思議な感覚だった。
しっくり、きすぎている。
友人に連れられるまま、
古着屋や路地裏、喫茶店や古本屋に入る。
楽しすぎる。
というか、ここに住みたい。
それを感謝の気持ちとともに友人に伝えると、
ニヤリと笑って満足げだった。
その日は終電近くまで下北沢を堪能した。
翌日からは、
もう下北沢を知ってしまったわたしとして、
新しい人生が始まった気分だった。
そして、その後に続く人生の真ん中に、
実際に鎮座することになる。
夢にも思わなかった、ことはない。
ギンギンに意識していた。
そうなることがわかっていたかのように。
だからわたしは、
下北沢を愛している。
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