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夢を諦めるネコ part1

「私、終わったな」

きなこは、呟いた。
適応障害の診断書を握りしめ、
ベンチで空を見上げる。

新卒1年目。
たった4ヶ月で死にたくなった。

「自分はいらない人間なんだ」
「どうして周りと同じようにできないんだ」

頭の中が、自分への悪口で埋まる。
「人間、向いてないんだな」
もう、全てがどうでも良くなった。

プシュッ。カチッ。
左手にビール。右手にタバコ。
「はは、この世の終わり」

「にゃー」
後ろから声がした。
振り向くと、灰色の猫がいた。

野良猫のわりに毛並みが整っている。
「なんだお前、お腹でも空いてるのかい」

つまみのスルメを、そっと置いた。
寄ってきて、美味しそうに食べた。

「猫はいいよなぁ。私、生まれ変わったらお金持ちのとこの猫になりたい」
「僕もヒカキンの猫になりたい」
猫と目が合い、一瞬の間が空いた。

いやいや、猫が喋るわけないし。
疲れてるな、私。

「ほら、全部あげるよ」
「私はもう終わった人だから」

袋をバサバサと逆さにして、公園を後にした。

もらってきた薬を飲んで、その日は寝た。

次の日の朝。

きなこ

「きなこ、起きて」

寝ぼけた目を開けると、そこには昨日の猫がいた。

「え!どっから入ったの?」

「あ、窓が開いていたのでそちらから」

「あら、それは不用心でしたね。失敬失敬」
「…て!!猫が喋った!」

「あ、僕、喋れる系の猫なんだ。よろしく」

猫が前足を差し出す。

「よろしく...ってちょっと理解が追いつかない…」

「昨日も喋ったじゃない」

「…あぁ!やっぱりお前だったのか」

「ねぇ、きなこ。僕を飼って。そしたらきなこを救ってあげる」

「うん、話が急だしー。うちペット禁止だしー」

(喋るところは受け入れてるんだ)
猫は思った。

「きなこは終わってなんかない!」

「あ、昨日の独り言、聞かれてたの」

「ヒカキンだって最初は家賃2万円のスタートなんだよ!」

「え?」

「僕はヒカキンのとこの猫になりたい。でもなれない。そこで出会ったきなこ。だったら、きなこがヒカキンになればいいじゃない!」

「…ああ、なるほどね!あなた天才だわ!」

「へへへ!まあよく言われるけど?」

ハハハと笑い合う1匹と1人。
きなこは笑顔のまま、そっと猫の首を持って窓の外に置いた。

「でもごめんっ!私ヒカキンは顔がタイプじゃないの!」

ピシャ!。

「…そこっ!?」

これは私とネコの物語。
人生に絶望していた私が、自分のことをちょっと好きになるまでの。

ーpat2へ続く。ー








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