夏の終わりに
「時間があると、そんなこともできるんだね」
電話越しに、母がしみじみと言った。
上京して6年。
ようやく、時間にも余裕ができて、
食べるには困らないくらいのお金の余裕も持てるようになった。
ほんと30代前半は、
「なんの修行だったんだろうか……」
と思うくらい、いろんなことがあった。
おそらく、肩にずいぶん力が入っていたんだろう。
何か結果を出さなきゃ。
何かできるようにならなきゃ。
何か人に喜んでもらえることをしなきゃ。
何か、、
わからないけど、このままじゃ、だめだ。
ふりかえってみると、そんな風に力が入っていたように思う。
だけど、それはそれで、終わってみれば大事な思い出だ。
そして、これからやってくる毎日も、
1日1日経つうちに、過去に変わっていく。
それがすべて、と譲れなかったことが、
ただ時間が経つだけで、色も熱も、抜けていく。
ただそこには、においも温度もかんじない、
静止画として、残っていくだけだ。
今年の夏も、すでにいい思い出に変わり始めている。
6年前に東京に出てきてから、はじめて、お盆休みに帰省ができた。
休みじゃなかったり、飛行機が高かったりで、帰れたとしても時期をずらしていた。
お盆休みの函館。
住んでたころの記憶をが、ざわざわと動き出した。
そうだ、このときは、人も車も増えるんだ。
なんだか活気を帯びた故郷に触れられるのは、照れくさいようで嬉しかった。
東京に戻ってすぐ、
メットライフドームでGLAY ライブ2days。
「悪いGLAY 」は、ほんとに楽しくて最高だった。
同時に、勉強にもなった。
「悪いシリーズ」は、ファンとの関係をグッと深める良い手段になる。
きっと、マーケティングとしてもうまく使えるんだろう。
良き夏の思い出であり、これからの研究テーマだ。
そしてこの週末。
鎌倉の海で、SUPをしてきた。
サーフィンの大きいバージョンの板の上に立って、パドルでこいで進んでいくやつ。
ひきこもりと運動不足でずいぶんなまってしまった体。
海遊びはなかなかにハードだったけど、最高に楽しかった。
やっぱり、自然の力はすごい。
数時間海の上に浮いていたら、気持ちがすごく元気になった。
悩みなんてちっぽけなことになるし、波と一緒に消えてしまうし、
それよりも、自分の命は自分で守る、ここにいるだけでそれだけで素晴らしい、そんな感覚に包まれていった。
人の見えない感情や、自分ではどうにもできないことを、怖がっていたって仕方がない。
海が荒れたら、人間なんて、誰でもどうにも立ち向かうことができない。
だけど、穏やかな日には、その恩恵にあずかることができる。
ただ、目の前のことに真摯に、誠実に。
そうやって日々を重ねていけるだけで、十分だ。
「時間があると、そんなこともできるんだね」
夏の思い出を電話の向こうの母に伝えると、そんな嬉しそうな声が返ってきた。
夏の終わりに、ひとつ年を重ねる。
今年も夏を終えられることに感謝して、
次の季節を大切に、またくる夏を楽しみに、生きていこう。