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染まるよ

テレビドラマを見なくなって久しい。今でも月曜9時からは恋愛ドラマをやっているのだろうか。属にいう月9。

ベタではあるが王道の恋愛ドラマ。
最初は意識していなかった2人が気づいたら恋に落ちているそんなエピソードに粋な演出。人生で一度だけそんな体験をしたことがある。

大学1年生の頃、相手は同じ学部の子だった。
少人数制授業で知りあったその子とは、同じ映画が好きだったこともありすぐに仲良くなった。少しボーイッシュな見た目が、たまに見せる女の子っぽい可愛い仕草をより一層際立てた。

知り合った時はお互い別に彼氏彼女がいたため複数人で遊ぶだけだった関係が、秋ごろに私が別れ同じくらいのタイミングで彼女もフリーになった。
それからは学校終わりで二人で梅田に遊びに出掛けたり、お互いにCDや本などおすすめの一品を持ちより夜な夜なメールや電話で感想を語り合うなどして毎日のように連絡を取り合うような関係になっていた。

彼女はチャットモンチーが好きだった。
アルバムを借りた時、
「私は『染まるよ』っていう曲がすごく好きなんだよね。N橋はタバコも吸うし曲調も雰囲気にあってる感じがする。絶対好きだと思うよ!」
と言われたのを今でも覚えている。

聞いてみたら確かにすごく好きな曲だった。
感想をメールしようと文面を起こしていると電話が鳴った。彼女からだ。

「バイト帰りに一人で寂しかったからY大に電話してもーた!」

彼女はいつものようにおどけながら言った。
いつもは名字で呼ばれていたので下の名前で呼ばれたことに少しドキッとした。

動揺を隠すかのように少し冷めたトーンで
「おすすめしてくれた『染まるよ』結構好きだわ」と感想を伝えた。

「やろ!」と誇らしげに彼女は言った。
二文字だけの返事だったがこういった展開でいつもするドヤ顔を容易に想像できた。


「Y大は、年末実家帰るん?みんな帰ってもーて暇やしバイトない日は遊ぼや!」
と誘ってくれた。

「27までならこっちにいるよ」
と伝えると、

「そしたらクリスマスも一緒やな!」
と返ってきた。

こいつは何を言っているんだろう?
率直な感想はそれだった。答えに困っていると、

「半分は冗談やから!」といつもの調子で笑いながら彼女は言った。

そこから何を話したのかはあまり覚えていない。ただ、その電話が友達としてではなく異性として意識するきっかけだったと思う。

翌日授業で会った際、チャットモンチーのアルバムを借りたお返しに東京事変のアルバムを貸した。お互い忙しいタイミングが重なり、メールのやり取りはしつつも遊びに出掛けることはなくなっていた。

クリスマスが近づいてくるにつれ、あの日電話で話した言葉を思い出すようになっていた。

「“半分は”冗談やで」

じゃあ残りの“半分は”本気だったんだろうか?
真意を確かめる勇気も出ず、年内最後の授業の日だった。

私は履修の関係で一日早く休みに入っていたのだが、最終日まで授業の会った彼女から前日にメールをもらった。
貸していたCDを返したいから学校に顔を出して欲しいとの連絡だった。

少し早めについたので喫煙所でたばこを吸いながら待つことにした。iPodのランダム再生で『染まるよ』が流れた。

あ、これいくしかないやつじゃん。
iPodが背中を押してくれた。告白しよう。

ちょうど曲が終わるか終わらないかくらいのタイミングで彼女が小走りでやってくるのが見えた。

CDの受け取りをしたのち、
「じゃあまたね!」と言い返ろうとする彼女を呼び止めた。

「あのさ、」

告白の決心をしたタイミングから私はキムタクだ。「ちょ、待てよ」と言っていたかもしれない。

「どしたん?」
と聞く彼女に、

「俺と…付き合えば?」
と言った。時をかける少女の千昭と同じ台詞で告白した。完全にドラマの世界に入った。
ミリオンゴッドなら「右を押してください」と出ている。

「え、ごめん…」

?????
台本にある台詞と違うぞ。

「Y大とはそういうんじゃないやん」

?????
あれ?え?はぁ?

「またね!」
と何事もなかったかのように帰っていく彼女。

しかもここで雪が降ってきた。

待て!演出止めろ!
とんだ放送事故だよ!
最悪のラブジェネ最終回だよ!

ユダがいたとしても、そっと肩を抱いて励ましてくれるレベルの裏切りにあい、私の大学一年生の片想いは急転直下で終わりを告げた。

ひとまず帰ろう。
そう思いイヤホンを耳にはめると、
山崎まさよしの『One more time one more chance』がランダム再生されていた。


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