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B2B新規事業の「事業ステージ別戦略」ガイド


はじめに

こんにちは。木村隆志と申します。とある人材系大手企業内スタートアップで、新規事業を横断的に支援するマーケティング部門の責任者をしています。最初に、過去記事の「B2B新規事業立ち上げのためのマーケティング戦略とは?」からお読みいただけると全体感が掴めるかと思います。

この記事では、B2B新規事業の事業ステージ別の戦略のポイントや、マーケ・インサイドセールス・Sales Ops(セールスオペレーション)のポイントについて、今までの経験をもとにお話をしていきます。

この記事の想定読者

この記事は、主に以下の方を想定しています。

  • B2Bで新規事業をこれから立ち上げようとされている方

  • 新規事業をローンチしたばかりの方(0→1フェイズ)

  • 事業開始から数年経つがまだPMF(プロダクトマーケットフィット)している実感がない方
    ※2桁億・3桁億の売り上げを出している事業は対象外ですのでご了承ください。

別記事「B2B新規事業立ち上げのためのマーケティング戦略とは?」で、B2B新規事業のマーケティングは成熟事業のマーケティングと異なることと、事業ステージによってとるべき戦略が変わることを書きました。この記事ではより詳しく事業ステージ別に取るべき戦略・戦術についてみていきたいと思います。

4つの事業ステージ

スタートアップの成長ステージの呼び方はいくつかあると思いますが、この記事では、「Seedステージ」「Unitステージ」「Companyステージ」「Growthステージ」という4つの事業ステージごとに説明していきます。よく言われる「シード」「アーリー」「ミドル」「レイタ―」と類似の概念と思っていただいて構いません。一方、いわゆる「シリーズ」による整理は、事業のステータスとそれに応じた具体的な打ち手と必ずしも連動しないことが多いため今記事では「シリーズ」による整理を行っていません。

Seedステージ:「誰向けのどんなサービスか」を明確にする

このステージでは、事業目的やターゲット・プロダクトの初期仮説を明確にし、1年以内にMVP(初期プロダクト)の要件を確立することを目指しています(以下、断りがない場合は当社での定義)。

Seedステージでの事業戦略項目


Seedステージの戦略要点(クリックして拡大)
Seedステージの戦略要点(クリックして拡大)

壁打ち

当社の場合、事業の起案は大きく分けてボトムアップか、トップダウンかの2種類があります。いずれの場合も、経営との壁打ちを通じて事業構想の解像度を上げていく作業からスタートします。顧客の課題、解決策(提供価値)、ビジネスモデル、収益性、その他(大まかには「リーンキャンバス」の各項目を思い浮かべていただくと伝わるかと思います)についてチェックリスト化しており、顧客へのインタビュー等を通じて証明していきます。

事業検証

ビジネスモデル図を基にした検証項目が検証されており、ビジネスとしての成立見込みが確認できていることを目指します。

要件定義

MVP(初期プロダクト)の要件を明確化します。

Seedステージでのマーケティングの要点

Seedステージのマーケ・IS・SOPs(クリックして拡大)
Seedステージのマーケ・IS・SOPs(クリックして拡大)

Seedステージの初期は壁打ちフェイズのためまだリードを獲得しませんが、MVPの要件が定まる後期段階では、実際に初期商品を顧客に使っていただき、初期顧客を獲得します。このステージでは、営業活動を通じて「誰のどんな課題にどんな訴求をするか」を明確にしていきます。

Seedステージでのマーケ施策・IS・Sales Ops

リード獲得はリサーチを兼ねるテレマーケティングが柱

前回の記事で書いたように、「誰のどんな課題に何を訴求するか」自体を探索している段階なので、webサイトはペライチのLPからスタートします。プロダクトの認知がなくインバウンドリードがほぼ見込めない段階なので、主にテレマーケティング(コールドコール)によって直接的に顧客にアタックし商談を獲得します。商談アポを獲得するプロセスで顧客の課題・ニーズを引き出し、適切な訴求を確立していきます。

インサイドセールスは不要

この段階では大量のリードをさばく必要がない(リードがない)ためインサイドセールスの機能はまだ必要ありません。

Sales OpsはKPIの設定・可視化と営業資料作り

この段階でのSales Opsの主な作業は、「KPIの設定と可視化」と、営業資料作りです。この段階ではリード・商談獲得のチャネルが確立しておらず、リードからの商談化率や商談からの受注率などの実績が出ていない段階なのでざっくり「仮置き」します。月に獲りたい受注目標数を置き、そのために商談からの受注率を仮置きし(例えば20%)必要商談数を逆算し、さらにリードからの商談化率を仮置きして必要リード数を設定する、といった要領です。上述の通り商談獲得の中心手法がテレマーケティングであれば、テレマでの獲得リード数はほぼ商談数となるのでよりシンプルです。この段階では、KPIをこねこね作るというより結果を正しく可視化していき検証することがポイントとなります。

Unitステージ:プロダクト・サービスを最適化し、ユニットエコノミクスを成立させる

このステージでは特にプロダクト・サービスの要件設計とユニットエコノミクスの成立有無を確認し、定期的確認でピボットや投資抑制を判断していきます。

Unitステージでの事業戦略項目

Unitステージの戦略要点(クリックして拡大)
Unitステージの戦略要点(クリックして拡大)

プロダクト・サービスの最適化

Who/What/Howの価値設計(ビジネスモデル含む)が最適化されていること、機能要件やUI/UXなどが最適化されている(ロードマップも明確)ことを目指します。

ユニットエコノミクスの成立

顧客を1件受注するのにかかるCAC(Customer Acquisition Cost)と、獲得後に生み出されるLTV(Life Time Value。当社では粗利で設定することが多い)の比率。SaaS事業ではLTV/CACが3を超えると健康とされます(事業モデルによってあるべき水準は異なると思います)。

Unitステージでのマーケティング・Sales Opsの要点

Unitステージのマーケ・IS・SOPs(クリックして拡大)
Unitステージのマーケ・IS・SOPs(クリックして拡大)

Unitステージでは商談獲得手法を確立させ、営業の型を作ることを目指します。マーケとしてはまずリード数の獲得に目を向けがちですが、受注に繋がりやすい「筋の良いチャネル」を確立することが重要です。

Unitステージでのマーケ施策・IS・Sales Ops

リード・商談獲得手法を確立させる

このステージでは、事業責任者自らも営業しつつ、営業専任メンバーが2~3名いる段階です。月間の商談数の規模感ですが、単純に営業の工数から考えると、1人が1日に1件商談するとすれば1x20日x3人=60商談ですし、1日に3件商談するなら3x20日x3人=180商談となります。リードからの商談化率が20%程度であれば、リード数は60商談÷20%=300件必要、となります(目標の売上高・受注単価、商談からの受注率によって異なりますのであくまで目安です)。

リード獲得は顧客の情報収集行動やタッチポイントから考えます。当社の事業の場合、オンラインでは「webサイト(資料請求・問合せ)」「オンラインセミナー(ウェビナー)」「外部媒体(一括資料請求サイト、ニュースメディア、メルマガプラン等)、オフラインでは「展示会」「テレマーケティング」などが柱となっています(当社ではこのステージではまだweb広告・SNS広告にはそれほど投資しないことが多いです)。有効なチャネルは当然のことながらプロダクト・サービスやターゲットの特性によって異なります。

インサイドセールスを立ち上げ、型化する

上述のように獲得リード数が3桁水準になってくると、営業自らがリードに架電して商談アポを獲得するのは物理的に困難になります。そこでインサイドセールスの体制を構築し、マーケ施策別の追客フロー、基本トークを確立していきます。当社ではマーケティング部門が商談数にコミットするため、マーケ内にIS機能を置いています。

Sales Opsはリード管理とIS/営業フローの最適化

チャネル別にリード数・商談化率・商談数、CPAなど、リード単位での受注までのパイプラインの可視化ができるように整えます。IS・FSの定性的な反応も踏まえて、「〇〇チャネルは情報収集層・潜在層が多く商談に繋がりにくい」「〇〇は初回商談以降進みにくい」などを見ながら改善し、受注に繋がりやすい「筋の良いチャネル」を確立していきます。

営業がISを兼ねていたSeedステージと異なり、ISとFSが分業されるUnitステージでは「商談基準」が重要となります。企業属性やBANT条件に基づいて商談基準を定めます(研修事業での例:「従業員数〇人以上」「研修に対して課題感がある」「一定の研修予算がある」など)また、リードは申込フォームを通じて自動的に流入するチャネルと、展示会など名刺をスキャンしてSFA/CRMにインポートする必要があるチャネルなどがあるため、リードチャネル別にISのアポ獲得のフロー、営業へのトスアップの仕組みを構築します。

カンパニーステージ:成長戦略を明確化する

プロダクト・サービスの最適化とユニットエコノミクスの成立が見られたら、Companyステージに移行します。このステージでは特に組織強化、セールスチャネル確立、プロダクトの磨きこみをしつつ、売り上げの成長度合いを確認していきます。

Companyステージでの事業戦略項目

Companyステージの戦略要点(クリックして拡大)
Companyステージの戦略要点(クリックして拡大)

マーケ・セールスの拡大

Unitステージでユニットエコノミクスの成立が一定見られ、筋の良いチャネルが見つかったら、そこに対して投資を踏んでいきます。

プロダクト強化

事業ターゲットの顧客から価値を受け入れられ、「なくてはならない存在」になるべく、プロダクト・サービスの強化を行います。PMFの旅には終わりがなく、コアターゲットから周辺ターゲットまで受け入れられるようにプロダクト・サービスをアップデートしていきます。

成長戦略の明確化

安定的な事業成長、収益化を目指します。Growthに資するだけの組織拡張ができていることもポイントとなります。

Companyステージでのマーケティングの要点

Companyステージのマーケ・IS・SOPs(クリックして拡大)
Companyステージのマーケ・IS・SOPs(クリックして拡大)

Companyステージでのマーケティングのポイントは、顧客獲得コストを意識しながら商談獲得チャネルを増やし、事業成長を軌道に乗せることです。

Companyステージでのマーケ施策・IS・Sales Ops

リードチャネル拡大とブースト

前ステージである程度筋の良いリード・商談獲得のチャネルが定まっていれば、顧客属性、課題感、情報収集行動などのペルソナの解像度が上がっており、「誰のどんな課題に何を訴求するか」は定まっているはずです。このステージでは顧客のタッチポイントすなわちチャネルを拡大し、マーケティング投資によってリードをブーストします(当社の場合Web広告・SNS広告を「踏む」のは主にこのステージです)。

Webサイトもこのステージでリニューアルします。リニューアルといっても単にガワのデザインをかっこよくするということではなく、定まってきた提供価値をわかりやすく伝えるために情報を再整理しつつ、流入対策としてSEO対策を行うとか、流入したユーザーを確実に資料請求・問合せに促すCV導線を整理するなどです。

IS/ナーチャリングの型化

事業特性によりますが、月間リード数は300~1,000件の規模となると、インサイドセールスも増員しチームで対応していくことになります。ベテランと新人が混在し、ハイパフォーマーとローパフォーマーの差が顕在化するステージでもあります。ハイパフォーマーのトークを分析し標準化し、ロープレによってトーク力を平準化していきます。

既存リード数も数千から万の単位に上がってくると、ほぼ全件架電ができていたUnitステージまでと異なり、顧客の選別が必要です。顧客の検討段階や温度感を検知・可視化するために、「Coldメール」で興味関心を特定化し、プロダクト・サービスへの興味関心を高める「Warmメール」を送付するなど、戦略的なナーチャリングが必要となってきます。

Sales Opsは生産性向上のための分析・型化・育成

事業成長のために営業人員も拡大するのがこのステージです。2~3名で対応していたUnitステージと異なり、ベテランと新人が混在し、ハイパフォーマーとローパフォーマーの差が顕在化するステージともなります。ISと同様、営業全体の底上げのためのパフォーマンス分析、型化、そして育成が必要になります。

Growthステージ:事業をスケールさせる

成長を志向し、法人化してさらなる投資を行うことで事業を発展させていきます。

Growthステージでの事業戦略項目

Growthステージの戦略要点(クリックして拡大)
Growthステージの戦略要点(クリックして拡大)

単月黒字化/規模化

収益性の向上、規模拡大を目指します(さらなる戦略的投資のために赤字を掘る場合もあります)。

事業拡張

ターゲットをコアから周辺まで広げるためにプロダクト・サービスの価値・機能を拡大させていきます。事業によって、業種別・領域別のプロダクトラインナップを拡充したり、顧客の課題を総合的に解決するプラットフォーム化を目指したりしていきます。

Growthステージでのマーケティングの要点

認知から獲得までの総合的マーケティングを行います。狙う領域において「第一想起される」ブランドになることを目指し、リード・商談獲得のための「獲得系」施策ばかりでなく、認知・想起を高めるためのブランディング投資も行っていきます。

Growthステージでのマーケ施策・IS・Sales Ops

Growthステージでのマーケ・IS・SOPs(クリックして拡大)
Growthステージでのマーケ・IS・SOPs(クリックして拡大)

認知施策で第一想起向上を目指す

獲得広告に予算が集中→指名検索数が減る→リスティング・自然検索獲得シェアが減少する→さらに獲得広告に予算が集中する→ROIが悪化し、CPA効率に見合う媒体しか選択できなくなる・・・というのがB2B事業でありがちな構図です。プロダクト・サービスの認知度は高くなく、顧客から想起されないため指名検索でのリードが少ない。このような状況では、認知度が成長の限界となります。

直接的なリード獲得施策だけでなく、認知・想起を高める施策に投資することで、商談化以降のすべてのファネルの改善を目指します。TVCM、YouTube広告、タクシー広告など、ターゲットのタッチポイントをとらえた媒体選定を行います(私自身がマネジメントを兼務した「ポスタス株式会社」でも、同様の背景からCM施策を実行し、指名検索、webサイトセッション数増加、商談数増加を実現しました)。

獲得系施策は数字を見ながらPDCAを高速に回す

このステージでは月間リード数が1,000件を超えていきます。インバウンド系ではWebサイト(オーガニック)、Web広告・SNS広告、媒体広告、ウェビナー、オンラインカンファレンス等に、オフラインでは展示会、テレマーケティング等に投資をします。

リードチャネル別にリード商談化率、商談受注率やCPA、ROI/ROASなどの結果データが蓄積されていますので、そのファクトをもとに、チャネル別のリード数・商談数の目標を設定し、PDCAを回していきます(売上から逆算したマーケ目標・KPIの立て方や、商談CPAを見ながらリード獲得施策をタイムリーにチューニングしていくノウハウについては別記事で詳述します)。

IS・Sales Opsは分析・型化・育成

事業拡張のためにプロダクト・サービスが高度化・多層化していますので、IS・FSメンバーへの商材知識・関連知識の強化がより重要となります。リード獲得チャネルも多様化しているので、チャネルごとの特性をとらえてISのトークを強化する必要があります。また、Companyステージでも述べた、ISやFSのパフォーマンス分析、型化、そして育成が必要なのはGrowthステージでも変わりません。

まとめ

いかがでしたか。B2B新規事業の事業ステージ別の戦略について、当社での経験をもとにまとめてみました。同じようにB2B新規事業でされ奮闘ている同士の方、いらっしゃったらぜひコメントをいただけますと幸いです。記事内でも触れましたが、売上から逆算したマーケ目標・KPIの立て方や、商談CPAを見ながらリード獲得施策をタイムリーにチューニングしていくノウハウにつきましては別の記事で詳述します。

※この記事で紹介した内容は、私個人の経験に基づいています。これは当社の公式な手法を代表するものではなく、結果に関して保証するものでもありません。実践に際しては、自己責任でご判断ください。

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