もっとも美しい一眼レフを知っていますか?
「え?コンタックスRTSでしょ?」
「いや、キヤノンT90だよ。」
「オリンパスのOM-1じゃん。」
「ミノルタXDを忘れてもらっては困ります!」
「ブラックのアルパ6bのかっこよさを知らないの?」
魅力的なカメラはたくさんあって、それぞれにそれぞれの美しさがあります。一眼レフに限定しないなら、白鏡筒のハッセルSWC、コンタックスG1、ライカIIIc、最後はディアドルフ!など、さらに多くのカメラが浮かんできます。
一眼レフは形がある程度決まっているので、突出して美しいものは生まれにくいのかもしれません。
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そんな中「見た目だけに惹かれて買ってしまった一眼レフ」があります。
ペンタックスS2とミノルタSR-1です。
2台ともはじめて見た時から気になる存在でしたが、どうしても欲しいとまでは思いませんでした。それなのに、SR-1が出会いから3年後、S2は20年後になって発作的に購入してしまいます。「シルバーしか知らなかったのに、ブラックをみたら恋に落ちてしまった」のです。(知らない一面を見せてくるってずるいですね)
同じように「ブラックを見たら恋に落ちたカメラ」にニコンFがあります。
S2とSR-1とF、この3台は(偶然にも)同じ1959年生まれのカメラです。
でも、生まれた環境は違います。S2はAP, Kと続いたペンタックスの一眼レフの流れの中で正常進化しつつコストダウンしたカメラ、SR-1も先に出ていたSR-2の廉価版です。一方、ニコン初の一眼レフであるFは、最初からスターになることを宿命づけられて生まれてきました。圧倒的な完成度で世界の頂点を取りに行ったカメラなのです(そして実際、Fによって本格的な一眼レフ時代の幕が開き、カメラ製造の中心はドイツから日本に移りました)。デザインもシンプルで強く、スターのオーラを纏わせるために作り上げられた隙のないものです。
それに比べるとS2とSR-1は容姿も平凡です。あえて言えば「その時代の日本で丁寧につくられたカメラ」。でも、それがいいのです。
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「美しさ」とは何でしょう?
誰が見ても美しいハッセル500CやライカのM3。それらを持ち歩くことは、「女優さんと歩くこと」に似ています。「写真の神様と歩くこと」と言えるかもしれません。もちろんそれは素敵な時間ですが、気を抜くことは許されません(最近はどちらも価格が高騰しているので、別の意味でも緊張感があります)。
ペンタックスS2は違います。一緒にいるとリラックスして心地よく、写真を撮ることなんてどうでもよくなってきます。それくらいがちょうどいいのです。
S2の外見的な魅力は、きっと言葉にできないところにあります。やさしさと聡明さを感じさせる凜とした佇まい。その中に隠された奥深さ。そんなふうに感じるのは、美しくあろうとしていないから、カメラ自身が自然体だからかもしれません。
飾らないからこその、滲み出てくる美しさ。
そんなところを愛してしまうのです。
あえて言わせてください。
もっとも美しい一眼レフ、それはペンタックスS2です。
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実際にはS2がその容姿を讃えられることはほとんどないでしょう。わたし自身も「デザインのいいカメラを教えて」と言われて、S2を挙げることはありません。
ペンタックスS2はみんなのアイドルではありません。
わたしだけの素敵な彼女。
だからこそ「もっとも美しい」のです。
「科学」と「写真」を中心にいろんなことを考えています。