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ウラジオストク、モナムール

昨秋行ったパリも今来ているウラジオストクも、何故だかまったく同じタイミングで、プーチンが会談目的でわたしを追いかけるようにやってくる。ひょっとしてわたしは実は元KGBなのだがCIAに記憶を消され日本の会社に囮として勤務させられつつ泳がされて10年、そろそろCIAがわたしを利用しようとしているのをロシア側が感づいていて開かれた北朝鮮との会談はあくまで隠れ蓑であって、あと30分後に向かう出国審査ゲートでパスポートをチェックした審査官がブザーを鳴らすと、制服の巨大な男たちに手足を掴まれ別部屋に連れて行かれ、KGB側の捜査官(クリストフ・ヴァルツ)に取り調べを受け冷たい汗で全身の毛穴の水分が抜けきる頃合いで、CIAが日本のある印刷会社に別の囮として囲っている事業本部長(渡辺謙)がKGBの捜査官として現れ、脳味噌を糠味噌のようにかき混ぜながら混乱するわたし、一方北朝鮮側にとってもこの会談は隠れ蓑で、いまごろウラジオストクの北朝鮮国営料理店の貴賓室で妖艶な女たちの舞を眺めながら謎の任務をうける男(ジョン・チョウ)と、マリンスキー劇場でかつてプリマドンナを務めながら脚の怪我をきっかけにスカウトされ転身した元日本人バレリーナのスパイ(菊地凛子)、米露朝それぞれの極秘作戦がいま、このウラジオストクで、日本の貧相な平社員をめぐり三つ巴、リュック・ベッソン製作総指揮、はじめからおわりまで目が離せない珠玉のスパイアクション、とか余計なこと考えながら、間抜けな感じのロシアンポップスが流れる空港のキャッフェテリアで、自分の日本国パスポートを疑わしげにじっと見つめながら、真顔で無言でひとりでラズベリーとミントのヴァレーニキを食べている。搭乗まであと60分。

(今ではなく昨年のメモから構成しております。今は東京です)

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