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ある未亡人とその亡き夫のためのパヴァーヌ

土管ワープで栄転した夫は定年目前にして突然退職、その退職金をすべてつぎこんでたいそう不思議な豆を買ったんです。「するするとつるが伸びて、それをするすると昇っていくんだ。当然最初はすこし怖かったけれど、慣れてしまえばなんてことはない。わたしたちはその楽園のような場所でよく走り回って遊んだものだ。尻尾を振って揚々と、地上の花や星や、煉瓦造りの城や、遠く見下ろすとすべてがとても小さく見えるんだ…いつもあの死んだ弟と、まるで無敵になったような気分で走ったものだ。わたしたちがいちばん輝いたのはあの頃さ。まさに文字通りに」なんて晩年は夜毎瞬きも忘れて少年のようなキラキラした目でいうもんですから呆れたものですが、あのひとは若いころから本当に頑固でロマンチックな人でしたから。

雲の上でコインを集めるような人生でしたから。

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