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【小説】クお白チ 093【第一期】

独りで裏庭に座っているのが寂しくてしょうがない。胸の穴は大きく広がり、虚無感と罪悪感が襲ってくる。立ち上がり、鞄まで行ってピンクのハチマキと首に水色のタオルをかける。暑くないのでタオルの意味はない。どうにかして仕事頭にしようともがいているだけだ
校舎のどこにいても彼女達を思い出し切なくなってくる。中庭に出てみよう
裏庭よりはかなり広い中庭。裏庭と同じ樹が植樹されている。校舎の壁沿いに花壇があるが、花はしおれて雑草が生えてる。一段低くなったところは五色石が敷かれているので、それほど雑草は生い茂ってない
一生懸命探して、九個の石を拾ったそれぞれ違う色の石。この学校の想い出…
中庭にも木のテーブルとベンチが二組置いてある。そこに座ってタバコに火を付けた。上っていく煙は空の灰色に溶け込んで見えない。考えるのは彼女達の事、そしてチビの事、ラブの事…

タバコを吸い終わって時計を見たら、9時を回っていたので廃材置き場に行く。入り口で見た事のない男に出くわした
「電気屋さん?」
「はい」
「○○産廃です」
「あぁ、よろしくお願いします」
「台風が来てるからちょっと早く来たんだけど、電気屋さんが見つからなくてさ」
「あぁ、ごめんなさい。点検してたもんで」
「じゃ、始めちゃいますね」
「台風が来てるんですか?」
「夕方からは荒れるんじゃないかな」
「そうなんですか…」
台風が来てるなんて全然知らなかった…
「じゃ、やっちゃいます」
「お願いします」
廃材置き場に行くと、全部で七人。恰幅の良いのが四人いる。腕回りが俺の3倍はある
最初に2トン車が入り、バケツリレーの要領でゴミ袋を積んでいくんだけど、片手でひょいっと上げたと思ったら投げる。2トン車の荷台に投げると、そのたびに2トン車が揺れる。ゴミ袋一つ20~30kgあるんだぜ…40個位あったゴミ袋があっという間に積まれてしまった。力業…そのあとに段ボールを積み込んでロープで縛る
4トン車に入れ替わって次は蛍光管およそ1450本。荷台に対して縦に積むのかと思ってたら、横に積んでいく。さすがにこれは投げないで、担いで運んでるほとんどが束になってるから簡単そう。それに彼らには軽いだろう。驚いたのが、蛍光管の上を地下足袋で歩いている人がいる
「なんで蛍光管の上を歩けるんですかー」
「コツかあるんですよー」
そのコツが知りたかったんだけど、俺には必要ないか…七人もいると、ものすごく早い。荷台は蛍光管で山盛りになっていく。崩れないように本当に綺麗に積んでいく。軽いからあっという間に積み終わっちゃった。幌をかけるのにまた一人が蛍光管の上を歩く。信じられない。ここまでで40分くらい。これじゃ11時には終わっちゃうんじゃないか?
車が入れ替わって、今度は灯具。恰幅の良いのが四人で運んでる。20~25灯を簡単に持ち上げる。これも横に積んでいく。こりゃまずい。足が痛いし、早く終わりそうだから
「○○産廃さーん。サインする書類ありませんかー」
「ありますよー」
「用務員にサインもらって来ちゃうから先に書類くださーい」
「分かりましたー」
責任者と思われる男が手板に付けた書類を持ってきて俺にわたす
「用務員のところに行ってきますね」
「お願いします」
用務員室に行ってドアをたたく。この前の人が出てきて、サインをもらう。ついでに何時までここにいるか聞くと、7時半だと言われた
戻ってみると、灯具を伏せて井桁の形に積んであった。これの意味は分かる。グローを割らないためだろう。灯具がどんどん高くなるから速度が遅くなる。作戦が変わり、脚立を出して一人がそれの中間に乗り、一人は荷台、担いで来たのを脚立の人の肩に乗せて、その人が荷台の人の肩に乗せる。それを灯具の上を歩いてる三人が受け取って並べていく。へーって感心する
満載になったトラックを見て、俺もよくこんなに外したもんだなぁって感心する。写真を撮りたくなった。ロープを丁寧にかけて、車が入れ替わる。ここまでで40分。やっぱり2時間で終わる。終わったら暇すぎて死んでしまうかも知れない
最後の車の運転席の上のシートキャリアと呼ばれる荷物置き場から竹ぼうきとチリトリを下ろしている。最後に掃除か…積み終わって、掃除を始める。先に書類にサインをしてしまう。掃除がほどなく終り
「見てもらえるかな」
「はい」
「電気屋さんが綺麗に積んでおいてくれたから助かったよ」
「あぁ、そうなんですか」
「水道屋やガス屋は積み方ダメだし汚れるんだよねぇ」
「あぁ、なるほど」
廃材処理の監督なんかやった事がないので分かんないんだけど、別に廃材は残ってないしゴミも落ちてないから問題ないだろう
「じゃ、これサインした書類です。ごくろうさまでした」
「またお願いしますね」
「はい。おつかれさまでした」
正門を全開にして最初に2トン車が出て行ってから、4トン車が出て行くんだけど、なん回も切り返しをしないと出られない。3台出るのに10分くらいかかった。責任者と思われる人が俺に手を挙げて、正門を全部閉めて帰って行った。俺が出るんだからちょっとだけ開けとけよって思った

中庭のテーブルに戻って、これからラブが来るまでなにしてようかな…何時に来るか分からないところが辛いな…独りでいるのが強烈に寂しい。タバコに火を付けて、ポケットから9個の石を取り出す。いつも座る席順に石を並べていく
赤の右に水色、水色の右上に桃色、その上にベージュ、白、白の左上に黄色、その隣にブルー、ブルーの左下にオレンジ、その下に緑色…もうこの順番で座る事もないんだよな…他の色はポケットに戻して

赤と緑色と水色の石だけテーブルに置いて下を向いた…

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