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【小説】クお白チ 084【第一期】

ムックがやってきて、教室に入ると俺より先に口を開いた
「おにいさんこれ」
「夜食かな」
「うん」
中を見るとキノコと鶏肉の炊込み御飯のおにぎり
「ムックも料理得意なんだね」
「そんなことない」
「昨日のいなり寿司だって美味かったぞ。油揚げをあんなに上手に煮るのは難しいよ。ひじきとかニンジンとか沢山入ってたし」
「頑張った」
「そか、ムックが頑張ると俺も嬉しいよ」
「今までありがと」
「こちらこそありがとうね」
「たくさん勉強になった」
「ムックの吸収力なら俺も役に立ったかな」
「あと、助けてくれてありがと」
「俺は切っ掛けを作っただけだよ」
「ずっと悩んでて…」
「俺が部活内の人間じゃないから俺に相談したんだろ」
「なんでも分かっちゃうんだ」
「人見知りしないし、積極的だし、可愛いんだからあとは言葉だよ」
「おにいさんに引っ張り出されて少し楽に話しが出来るようになった」
「頑固じゃなかったから引っ張り出せたんだけどね」
「私の事なんでも分かるんだ」
「尊敬じゃなく、俺を好きになったのもね」
「なんで…」
「俺と二人で話した次の日に、おまえの笑顔が変わったのに気がついた」
「それだけで…」
「いなり寿司だってかなり迷って作っただろ」
「おにいさんには隠し事できないんだ」
「じゃなきゃ、八人もやんちゃ娘を使えないだろ。あははっ」
「流動的にするにはどうすればいい?」
「うーん…たくさんの自分を作る事かな」
「たくさんの自分…」
「寡黙なムック、しゃべるのに頑張ってるムック。恥ずかしがり屋もさみしがり屋もこわがりもムック。その継ぎ目がなくなると流動的に動けるかもね。でももうムックも十分流動的だよ」
「どこが?」
「俺が流動的に動いてるのを理解してるじゃないか」
「一人一人に対して優しさを変えてるのも流動的だよね」
「そうだよ。それに気がついてるんだから十分流動的だよ」
「そっか…」
「それに俺が継ぎ目を少しは消しただろ」
「あぁ、だから話せるようになったんだもんね」
「ムックの努力の方が大きいけどね」
「少しずつ頑張る」
「それがいいね。まだ隠してる事があるのも知ってるぜ」
「……………」
「来いよっ」
手をいっぱいに広げて、ムックを待つ。ムックの左目から涙が一筋流れる
「来いってば」
ゆっくり近寄ってきて、俺の肩にあごを乗せる。肩を抱いてやる
「我慢してたのに…」
「何回も言っただろ。後悔するなら言った方がいいんだよ。気がついてくれる人ばっかりじゃないのは知ってるだろ」
「もっと早く自分の気持ちに気がついて、話せばよかった」
「話せないのは損をするって事さ」
「もう会えないね…」
「会えるさ。俺も生きてるし、ムックも生きてる」
「早く会えるといいな…」
「自分の気持ちをだんだん素直に言えるようになってきたね」
「全部おにいさんのおかげ」
「最初、ムックの事がぜんぜん分らなくて苦労したけどね」
「あははっ」
この子の笑顔にはけがれを感じない
「笑顔が可愛いよ」
「ありがと」
「最後に俺に言いたい事はないかな」
「もう一回ギュッてして」
「いいよ」
さっきより力を込めて抱いてやる。今度はムックも手を回して抱きしめる。少し離れて、右手で前髪を上げおでこにキスをする
「これでいいかな」
「言わないと後悔するから言う」
「なーに?」
「私もおにいさんが大好き」
「ありがと。嬉しいよ」
「素直になれば言えるんだ」
「そうだよ。それも流動的な部分の一つだよ」
「ありがと。いろいろ教わった」
「もう隠してる事はない」
「ギュッってされて落ち着いた」
「他になにか言いたい事は」
「ムックって呼ばれるの、なんか嬉しかった」
「そっか」
「建築の場所で会えたらいいね」
「待ってるから頑張ってね」
「うん♪あと…」
「なに?」
「私の得意な事を使ってくれてありがと♪」
「こっちこそありがとうだよ」
「嬉しかった♪」
「勉強熱心でいいと思うよ」
「これからも頑張る」
「俺に挑戦できるくらい頑張ってください」
「うん♪」
「じゃ、さっきの教室に行ってて」
「分かった」
「あっ!ムックはCカップだ」
「本当に当てるんだ。あははっ」
「あははっ」

イメージカラーは心の奥底に秘めた情熱のようなオレンジ

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