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抽出?全房?発酵前処理を理解して白ワインへの解像度を上げる

先日こちらのYouTubeで、ドイツでワイン造りをされているNagiさんが、収穫と発酵の間に行う「発酵前処理」をいくつか説明されていました。

よくわかっていなかった「抽出」というプロセス、今回お話を聞いてかなりスッキリ。特に白ワインの観点で、理解したことをまとめておこうと思います。除梗破砕or全房という話はさらに興味深く、あ、そこで判断が分岐するんだ!という発見でした。

そもそもワインでいうところの抽出って

発酵の陰に隠れがちな抽出を理解するために、自分なりに整理してみます。

ワインは「ぶどうを搾ってつくる」わけですが、どう搾るんだっけ、ということでぶどうの4パーツ「果皮、果肉、果梗、種」を2つに分けて考えてみます。
 ・果肉(水分、糖分、酸、風味をもつ)
 ・果皮、果梗、種(風味とタンニン、色素をもつ)

果肉はギュッと搾れるけど、果皮、果梗、種、はどうやって搾るの?それが抽出です。抽出(醸し、マセレーション、マセラシオンともいう)は、果皮、果梗、種から必要成分を果肉中に溶け出させて、果肉と一緒にぎゅっと搾れるようにするためプロセスのこと。必要成分とは多くは果皮に含まれる、フェノール類や香り、風味成分のこと。フェノールには渋みのタンニンや赤い色素のアントシアニンなどが含まれます。

タンニンや色素というと、やっぱり赤ワインのほうが果皮たちも大事そうに感じる。とりあえず、「白ワインは果肉だけでも作れるけど、赤ワインは果肉と果皮、果梗、種ぜんぶを使って作る。なので、成分を取り出す抽出もギュッと絞るプレスもどっちもいる」の理解でいったん進むことにします。

白ワインにも抽出という選択肢がある

白ワインは果肉から果汁をしぼって発酵させるし、果皮たち関係ないし?という教科書的な理解のわたしを混乱させるのがいわゆる「スキンコンタクト」させたワイン。字面から「果皮に含まれるいい感じの成分と接触させた風味豊かな白ワインなのかな」的なぼんやりとした感覚はありました…

でも白ワインの発酵に果皮たちは入ってこないからいつコンタクトしたんだ?となっていたのですが、これが抽出で、除梗破砕してからプレス前にやってたんだ…理解できました。もし白ワインで果皮たち由来のフェノール(タンニンや色素)、香りや風味成分をほしいなとなったら抽出という選択肢をとることができます。フェノールを含ませることで酸化耐性をもたせて熟成能力を高めることもできるそうです。

このとき除梗破砕という処理が効いてきます。白ワインの抽出は一般的に、
 ・低温で行う
 ・長くても2日間、くらいの短時間で行う
ということで、成分抽出が積極的にされるとは言い難い状況。必ず除梗破砕で皮を少し切ってあげて、成分の抽出が促されるようにしないといけません。低温で行うのは、発酵してほしくないうえ汚染の原因になるので、酵母が活動しない温度にする必要があるからです。

ちなみに、赤ワインでの抽出では果皮たちが発酵の最後までいるからチャンスは3回もある!
 1.発酵前の抽出…酵母が動かない=アルコール発酵は起こさないタイプの抽出、なので低温で行う「コールドソーク」ともいう。
 2.発酵中の抽出…アルコール発酵させながら、必要成分を果皮たちから抽出する。ピジャージュやルモンタージュで浮いてくる果帽を沈めるのも発酵中の抽出を促すため。発酵によって温度があがるので、抽出もより活発に。
 3.発酵後の抽出…アルコール発酵が終わっても、赤ワインらしい要素が欲しければ抽出を続ける。

さらなる選択肢、全房プレス

抽出の目的と除梗破砕のメリットを理解したところで、実は、さらに前段階での選択があることが判明します。それが、そもそもぶどうを房のまま果汁をしぼる「全房プレス」か、従来どおり除梗・破砕して果汁をしぼるか、です。

ここで、スキンコンタクトさせたい白ワインでの工程を思い出します。成分の抽出を促したいから、除梗破砕して皮をちょっと切ってあげました。でも全房プレスではそれをしない。違いは欲しい果汁です。「フェノールや香り、風味成分が抽出されているもの」ではなく「より成分が含まれていないピュアなもの=抽出されていないもの」。

抽出というプロセスを踏まなくても、ただでさえ破砕したぶどうの破れた果皮の組織片や繊維質が通常の果汁にも多少入ってきます。これらが全てになる。全房プレスでは皮が破れてから果汁が出てくるまでがかなりの短時間なのでしょう、水の入った袋をピシッと切るとそこから果汁が出てくるようなイメージのきれいな果汁がとれるとのこと。

さらに破砕だけでなく除梗をしていないので、プレス時に果梗がクッションの役割を果たすそうです。より果肉を傷つけない方向にいくし、果梗を考慮した優しいプレスであればあるほど、とれる果汁は少なくなる。クリアかつ少ない果汁をとる…シャンパーニュがまさにそれ、白ワインの全房プレスとセットでシャンパーニュをイメージすればわかりやすい!

ちなみに、赤ワインで全房というと、全房発酵という選択肢になってきます。こちらも全房プレス同様、果梗がクッションになる&破れた皮からの抽出が少ないとなると、フェノール由来のタンニンが少ないフルーティでライトな仕上がりになっていくのでしょう。カルボニックマセレーションで全房を使うのはこういうことだったんだ…!

現実の白ワインにはいろんなパターンがある

単純化された教科書的な理解だけだと、白ワインは果肉からしぼった果汁だけでワイン作るよね、となっちゃいますが、実際の白ワインは多様です。どんな果汁がほしいのか?で、いろんなオプションがあるということ。できたぶどうを見て、どんな果汁にして、どんなワインにするのか、をトラブルシューティング的に考えることも出てくるのでしょう。

ここに収穫した白ぶどうがあります。
破砕してプレスして、果汁だけを発酵させるスタンダードに作るワイン。
破砕して、果皮たちと果肉を「コンタクト」させ、プレス・発酵させる、香りや風味が豊かなワイン。
きれいな房を除梗も破砕もせず、まるごと優しくプレスして、きれいな果汁だけを発酵させるワイン。
破砕したら皮ごと発酵させてからプレスすれば赤ワイン的なオレンジワイン。

みんなちがってみんないい。
ぶどを。

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