展示作品に触れてはいけない理由
あいちトリエンナーレの芸術文化センタ-を回っていた際に、こんな会話が聞こえてきた。
「向こう側に行くのにどうしたらよいのでしょう?ここを通ってよいのでしょうか?」
「大丈夫ですよ、そのまま作品の間を通ってください。」
「そうですか、すみません。美術館に来たことないので全然分からなくて。」
↑この間。
立ち入り禁止エリアにロープや線が引かれているように、進入禁止箇所に意志表示があればどんな人も気づくだろう。でも「入ってもよい場所」には表示がない場面がほとんどで、美術展に行きなれない方たちは戸惑うことがあるのかもしれない。
一方、特に表示が無くても、美術館やギャラリーの展示作品には勝手に触れてはいけないのがマナーとなっている。明らかに危険な物、壊れやすいものは大きく「お手を触れないでください」と掲示している展示もあるが、もし注意書きが無くても触らない方が無難だろう。自由に触れてよい作品には「ご自由にお手を触れてください」と表示されていることが多い。
つまり、鑑賞ルート上に何の表示もない場合、「自由に作品のそばを通ってもよいけれど、触れてはいけない」というのが”お約束”となっているのだ。
自分の展覧会で見ても、個展会場で展示していた立体作品を手に持つ人が何人もいて、ギャラリースタッフが「お手を触れないように」との注意書きを目立つ場所に置き換えるといったことがあった。美術館展示の時にも、私の平面作品の材質に興味を持ち手を触れる人がいたようだ。
確かにアクセサリーや衣料品などの販売店にいけば、そこにある商品を手に取ってみたくなる。「なぜ触るのか」と問われれば「そこに物体があるからだ」と登山家のような答えになるはずで、たぶん大きな意味はないし興味を持ったゆえの行動だろう。
だからどうしても触れられたくないのであれば透明ケースなどに入れて自衛するしかないのだが、そこは美観とのせめぎあいである。
世界最大規模のアートフェア、アートバーゼル香港では、Gagosianなどメガギャラリーは複数の警備員を自ブースに配置、逐一注意を払う場面が見受けられた。
美術展の展示作品の多くは一点物で、かなりデリケートだ。安全そうに見える壁にかかった絵画も、ギャラリー空間の展示では釘一本で掛けられていることも多い。爪や指輪が当たっただけでも傷がつく立体作品もあるし、万が一破損してしまったら鑑賞者に賠償責任が発生する可能性もある。
古美術で言えば、古い掛軸などの絵画をガラス越しでなく間近で見るときは、吐息が画面にかからないようにするため、口にハンカチを当てて鑑賞することが推奨される。
現代作品については、口にハンカチを当てて鑑賞してほしいとまでは思わないが、画面の正面で咳やくしゃみが出そうなときは口や鼻を押えて下を向いてもらえると「あ!この方、わかっていらっしゃる。」と株が上がることこの上ない。話は逸れるが、くしゃみを押さえた手で握手を求められても、私は絶対に応じたくない。
また、ほとんどの会場内で飲食は禁止されているが、意外に盲点なのがガムや飴を口に含んだまま入場するケースだ。美術館で見つかったらたいてい注意されるのでご留意いただきたい。実は私もうっかりガムを噛みながら美術館に入って注意されたことがある。
「美術作品に手を触れない」は私たちの業界ではあたりまえのルールと勝手に思い込んでいるが、アートファン以外にはまだまだ浸透していないのかもしれない。
最低限のマナーは守りつつ、ぜひ気軽に展覧会に足を運んでもらいたい。
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