なぜスタートアップは失敗するのか
スタートアップの大半は失敗で終わる。様々な調査結果を見ると失敗する確率はおおよそ70%程度のようだ。なぜこれだけ失敗する確率が高いのか。VCはよくその原因を馬(マーケット)とジョッキー(創業者)から見つけ出そうとする。特に創業者の根性、センス、リーダシップから見つけ出そうとするケースが多いそうだ。
しかし、創業者に全ての責任を転嫁することは行き過ぎた単純化である。スタートアップが失敗する理由を把握するためには、以下の質問を自問してみることだ。
最適のチームなのか? (Right team?)
市場における良い機会なのか? (Right opportunity?)
最適のチーム構成ができなかったことが原因となった失敗事例がある。Quincy Apparel (クインシーアパレル、以下クインシー)は多忙な若い社会人女性向けにサイズを4種類に標準化したコストパフォーマンスの良い仕事用洋服を提供するビジネスモデルだった。リーンスタートアップ方式を導入し、MVP (Minimum Viable Product、実用最小限の製品)を制作し、サービス公開前に開催された6回の非公開イベントでは、試着した200名の顧客のうち25%の顧客が製品を購入した成果も挙げるなど、成功の前兆も見えていた。
クインシーが軌道に乗りそうなところで2名の創業者はコンサルティング会社を退職し、VCから95万ドルの投資を誘致した。チームを構成し、サービスを正式ローンチしたことで初期オーダーも爆発的に増えた。39%の顧客が再購買したことで今後の安定的な成長も約束されたように見えていた。しかし、規模の成長と共に在庫量も増え、品質問題で返品される在庫がさらに加わり、資金が枯渇され、追加資金調達にも失敗した。結局クインシーはサービス開始から1年も経っていないうちに潰れてしまった。
( メモ:HBRあるあるではあるが、日本のみなさまにはピンと来ない事例が多い。日本ではいつの間にか消えていったZOZO SUITSがちょうどいい事例ではないだろうか)
創業者たちのビジネスアイデアはとても優れており、彼らの経営者としてのスキルセットにも申し分はなかったはずだ。しかし、大きな問題は、彼ら二人とも洋服を作った経験がなかったことである。(もちろん洋服作りの専門家を雇ったはずではあるが…) 彼らの経営のプロとしての経験がスタートアップでは発揮できることはなかった。
工場の方では増えるオーダーに対応できず、納品が間に合わなくなっていた一方、投資家(VC)はスピーディーな拡大を要求しながらさらに在庫を増やすように創業者を圧迫した。
クインシーがやるべきだったことは、ファッション業界に経験のある人を共同創業者に招き入れること、そして生産に関わる投資はクインシーではなく、工場がリードを取って設備投資するようにすることだった。工場の方で設備投資をしたのであれば、工場はより責任感を持って製品の生産に関わってきたはずだ。
(メモ:実際のビジネスにおいて、創業から何ヶ月くらいの聞いたことのないアパレル会社がそこまでのことを工場にやらせることができるだろうか。HBRあるある第2弾)
もう一つの失敗例を見てみよう。リーンスタートアップ方法論では、「早く、何度もローンチ」し、「早く失敗する」ことを勧めている。しかし、失敗の前に「顧客ニーズを正確に把握」することに時間をかけることを強調している。スタートアップ企業、Triangulate (トライアンギュレート)は、Wings (ウィングス)と言ったデート仲介サービスをローンチした。ユーザー (Wingman)が自分の友人を紹介するという独特なWingmanシステムを取り入れたが、このビジネスは1年も続かなかった。デート相手を選ぶことにおいて重要なことは、知人の紹介ではなく、本人の身体的な魅力(外見が良いか)、アクセス(すぐ会えるか)、メッセージの回答タイム (すぐコミュニケーション取れるか)だったからだ。これに気づいたトライアンギュレートは、写真のない基本プロフィールだけで投票するシステムを取り入れたdate Buzz (デートバズ)をローンチすることで方向性を修正しようとしたが、既に使ってしまった巨大なマーケティング費用がネックとなり、潰れてしまったのだ。
トライアンギュレートは、良いチームを持っており、有名な投資家にも恵まれていた。彼らの失敗は、クインシーの「良い市場機会と悪いチームの組み合わせ」とは毛色の違う失敗であり、タイトルをつけるのであれば、「検証できていない市場機会で戦った良いチーム」であろう。(メモ:写真のない基本プロフィールだけでやる投票って、本当にワークするのか?) 創業者は顧客のニーズ把握において最も重要である顧客インタビューを行わなかった。Wingmanシステムが本当に有効なのか確認するのではなく、プロダクトを作ることだけにフォーカスしたのだ。 (メモ:それでも良いチームだったと言えるのか?HBRさんよ!)
スタートアップ業界では失敗を名誉ある勲章とされる。しかし、名誉ある勲章の割にはそのプロセスで個人が経験する怒り、罪意識、悲しさ、挫折があまりにも大きい。(メモ:創業者にはまだ勲章が残るが、従業員に残るのは破滅だけではないか) 失敗は個人の人間関係だけではなく、社会と経済にも悪影響を及ぼす。多くの失敗は避けられるものであり、パターン化もできることに気づけば失敗の確率を減らすことができる。成功する方法を学ぶために努力するが、失敗しない方法を学ぶことはもっと大事である。
(メモ:HBRあるある第3弾、結果を知っているから言える丸く収めるコメント)
メモ(総論):私個人的な意見ですが、スタートアップは失敗を恐れず創業者のアイデア・信念を貫くことで「大」成功できるものあり、「失敗しないアプローチ」のようなサラリーマン的な考え方から革新的なサービスは出てこない。失敗する可能性は低くなるが(それでも寿命が伸びるだけで、大半は失敗するだろう) 失敗しない=成功することではない。
「失敗しないアプローチ」ではもう少し早い自転車・車は作れても飛行機を作り出すことはできないだろう。個人的にこういうアプローチはあまり好きではない。一方、世の中のスタートアップが追っていることは上記の「飛行機」的なビジネスではなく、「より早い自転車・車」のビジネスだろう。といった観点ではHBRが言っていることは正しいかもしれない。
<Tom Eisenmann, ”Why Start-ups Fail”, Harvard Business Review (May–June 2021)>
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