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着物とSNSがもたらした、年代も性格も異なる仲間との幸せな出会い

今回は下町の風情が漂う場所、浅草にて安達真紀子さんとお待ち合わせ。彼女が着物に興味を持ったのは20代の頃。初めての着物は、お母様の真っ赤な綸子に番傘柄の小紋だったそうです。

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ショートカットスタイルで肩の力の抜けた、粋な着こなしの安達真紀子さん。たくさんの色を自由に美しく組み合わせ、着物ならではの彩りを楽しむ装いです。

「その後、自分の着物が欲しいと思い、付け下げなどを揃えました」

お仕立てをお願いした呉服店では、購入特典として無料の着付け教室がありました。自分で着られるようになれたらと思い、通うことにした真紀子さん。

「1回目の教室が終わってすぐに図書館へ向かい、着付けの本を借りました。そして平日は仕事から帰宅後、毎晩自主練です。着られるようになることが楽しくて、夢中になった時期ですね。2回目からは着物で教室に通いました。
その後、何着か仕立ててもらい、友人などの結婚式には着物で出席するようになりました。

母の小紋もとても可愛くて、気に入っていたので、裄や身丈を自分のサイズに仕立て直してずっと着ていました」

リサイクルショップが着物を身近な存在に

その後、さらに着物の楽しさが増したのは、リサイクルショップの存在。


「銀座のアンティークモールというお店は、とても良い状態のものが揃っていて、着物ってローンを組まないで買えるんだ!と感動しました(笑)。
最近は浅草のリサイクル屋さんの店頭のワゴンから掘り出し物を見つけるのも楽しいんです」

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コーディネートはお出かけ当日に。真紀子さんのルールは「小物は3つ以上出さない」。それ以上出すともっと迷ってしまうので、最初に選んだ3つから決めるそうです。


「この大島紬は、1万円ワゴンで見つけました。ピスタチオグリーンのような色と、大好きな唐草模様が素敵だなと思って見ていたら、お店の方に「最近の大島紬は、絣がT字に見えるカタス式で織られているけれど、これは絣が風車のように見える一元(ヒトモト)式で、カタス式よりもずっと手間がかかる織り方なので、とてもいいものですよ」と教えてもらいました」

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細かな絣が風車のような一元(ヒトモト)式の大島紬。


「買ってすぐに、洗い張りに出して、サイズも仕立て直してもらいました。買った金額よりも高いお直しになりましたが、とても気に入っています。大満足のお買い物でした」

初心者がいきなりワゴンから掘り出し物を探すのは至難の業。これまで自分の好きなものを見たり着たりしている経験のある真紀子さんだからこそ、その楽しみを味わえるのでしょう。
本当に気に入ったものを選び、しつけ糸を解くお仕立てという幸せ、そして誰も手に取らないようなコーナーから掘り出し物を見つけた時の高揚感……。真紀子さんの着物を楽しむ時間はどんどん増えていきました。

桐箪笥はタイムカプセル

着物が増え、収納に悩み始めた真紀子さんは実家に相談し、祖母の桐箪笥を譲り受けることに。そこで思いがけない物語が待っていました。

「私には父が5歳のころに亡くなった祖母がいます。
数年前、私が祖母の桐箪笥を譲り受けることになったんです。整理をしようと桐箪笥から着物を全て取り出すと、引き出しの底に敷いてあった新聞の日付は昭和15年!80年も前のものでした。さらに整理を進めていくと一通の封筒が出てきました」

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普段は角出しスタイルが多いそう。この日の染め帯は桐生絞り。可愛らしさを少し控えた焦茶地にスモーキーなピンクの絞りの花柄です。

それは祖母宛に届いた、彼女のお母さんからの手紙でした。

「父を出産し、二人目の子は生まれてすぐに亡くなったそうなんです。しばらくして実家のお母さんから届いたと思われる手紙でした。

“あなたには健康な男の子がひとりいるのだから、余り気を落とさないで。元気を出しなさい”といった内容が書かれていました。当時は一度嫁いだら実家とのやり取りが憚られていた時代。手紙も郵便で届い形跡はなく、親戚に託して届けたようです。それを誰かに見つからないようにと、祖母はこの桐箪笥に隠して持っていたようです」

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普段着物は色衿派。2〜3枚の長襦袢に縫いつけた色衿をワンシーズン楽しんでいます。


現在、真紀子さんの自宅には、お祖母様の桐箪笥が。
「私にとっては会ったことのない祖母ですが、この手紙を通し、彼女が生きていた形跡を感じ、とても身近になりました。桐箪笥を見ると、私の側にいてくれているような、見守ってくれているような気がします。手紙は実家にいる父が大切に保管しています」

まるでタイムカプセルのようにーー。桐箪笥はお父様に手紙を、そして真紀子さんには昭和初期に生きていた祖母の温もりを届けてくれました。

Instagramで広がった着物の輪

週末はほぼ着物で過ごすという真紀子さん。どのような場所で楽しんでいるのでしょうか。

「ずっと着物を着る友人が周囲にいなかったのですが、友人と会う時も、とくに気にすることなく私だけ着物で行きましたし、一人で着物屋さん巡りをするときも楽しんでいました」

“ソロ活動が長かった”と真紀子さん。それでも十分楽しかったと言いますが、何気なく始めたInstagramで思わぬ出会いがありました。

「4年ほど前に、着物の記録用にと始めたのですが、着こなしが素敵な人をフォローして、コメントのやりとりをし合うようになると、次第に交流が深まっていきました。しばらくはSNS上でのお付き合いだったのですが、ふと「今度会いましょう」とお誘いしてみたんです。普段の私なら絶対にそんなこと言わないのに」

その一言がきっかけで、Instagramで知り合った方々と着物で集まることに。

「何度か会ううちに、気がついたらメンバーのうちの二人とすごく仲良くなっていました。今では月に一度会わないと「久しぶり〜!」と言い合うほど。この間も山梨県の石和温泉に1泊2日の旅行に行ってきたんですよ。本当に楽しくて、旅行中はずっと笑いっぱなし。3人でランチをしたり、川越に行ったりと、お出かけを楽しんでいます」

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石和温泉に1泊2日の旅行へ。スーツケースには皆さん翌日の着物が入っています。


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久保田一竹美術館へ。着物が好きな仲間が集まれば、行きたい場所も当然一緒です。

「仲間ができて、着物ライフはもっと楽しくなりました。年代も性格も違うから、着物とInstagramがなかったら出会えていなかったのではないでしょうか」

今の時代のコミュニケーションツールであるSNS。着物を愛する人たちの間では、かけがえのない仲間との出会いと交流の場になっていました。

まわりには着物を着る人がいないと感じていたら、Instagramをのぞいてみてはいかがでしょう。ハッシュタグで検索をすると、そこには素敵な着物姿の人たちで溢れています。

Personal data:04
安達真紀子さん(40代/会社員)
着物歴:約15年
Instagram:ma_kimono36

「着物リアルクローズ」取材時の交通費などに充てさせていただきたいと思います。もしご興味を持っていただき、サポートしていただけたらうれしいです。どうぞ宜しくお願い申し上げます。