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着物専門店のこだわり-②「素材」


日本には、美しい四季がある。
それぞれの季節を着物で快適に過ごすためには、素材選びがとても大切だ。僕たちは、木綿(もめん)や麻(あさ)・絹(きぬ)などの天然素材が大好きだ。初めて着物に袖を通す方には、日本の風土に合った「木綿の着物」がオススメ、四季を通して大活躍する。少々シワになりやすいのが欠点だが、着崩れしにくく吸水性も良く、その肌触りは誠に心地良いものである。

最近は安価なポリエステルが出回っているが、まとわりつきズルズルして着にくいので、初心者には不向きだ。仕事着としての着用で雨や汚れが気になる方でしたら致し方ないが、「着物は心地良い」という本来の喜びは味わえない。 

僕は「きもの宣言」してから10年近く、京都の仕入先の言われるままに着物を買いまくった。振り返れば、新築の家が一軒建つほどでしたが、お金で買えない貴重な体験を積んだ。
そのひとつに、ある地方のブランド紬があり、昔は好んでよく着ていた。その当時は、正座することが多かったからだろう。縦(たて)糸が切れてお値段に見合う着物ではなかった。年に数回着る位では分からないが、数十回着ていると素材の善し悪しが自然に分かってくるようになる。

また、半年も経たずに膝(ひざ)の部分が浮いてきて、白く色あせたようになり、着られなくなった着物もあった。特に紬(つむぎ)の着物は、加工前の反物(たんもの)の時には糊(のり)が付いてパリッとしているのだが、糊を取ると思いもよらずコシがなくなったり薄くなったりする着物がある。このような経験を積んでいくうちに、着物をまとっただけで素材が優れものかどうかが分かるようになった。いや、今では手で触れなくとも、見ただけで素材の良し悪しが分かるようになってきた。手前味噌だが、経験を積むとはまさにこのことだろう。

生地には強い・弱い、硬い・柔らかい、厚い・薄いなど特性がある。日々着物を着るという体験を重ねて、軽くて柔らかいもの、夏は涼しく冬は温かいもの、着やすくて着心地の良いもの、肌触りが良いもの、長持ちするものに加え、着付けやコーディネートがしやすいものを厳選して取り扱うようになっていった。だからこそ、着るほどに愛着が増すような着物を、心からお勧め出来るようになったのである。

そういった着物をお召しいただいた時、男性はより凛々しくなり、女性はより笑みがこぼれるのではないだろうか。良い素材であり、誠によい着心地だからであろう。そのような表情に出会うたびに、とことん素材・品質にこだわり続けて良かったと思うことが多々ある。
次回は、「加工法」についてお話したい。

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