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着物専門店のこだわり-③「加工法」

着物の反物(たんもの)をお求めいただいたら、そのまま仕立てをする訳ではない。着物を着やすく長持ちさせる状態にするために、一度京都に送り、何かの加工をして、また和の國に戻ってくる。

その加工方法には「湯のし」・「湯通(ゆとお)し」・「ガード加工」などがある。たとえ同じ工程でも、何処の職先に出すのか、つまり、加工先の工場や技術者の経験によって違った質感になってくる。この選択によって、着心地の元となる「風合い」も変わってくるので、経験と先を読むチカラが必要となってくるのである。

染めの着物は、「湯のし」の後、水をはじくガード加工等をほどこすのが私たちの一般的な工程だ。一方、紬や木綿の反物が織り上るまでの工程に必要な「のり」を落とす作業を「湯通し」と言うが、これも大切な作業の一つだ。

そもそも、我が家は「いばらき京染店」と言い、悉皆(しっかい)という着物のお手入れを取り扱う店だった。物心ついた頃から、家の土間には両手を広げた位の大きな浴槽が3つ程あった。解(と)いた着物を水洗いして天日で乾かす「洗張(あらいは)り」や、大きな機械で着物に蒸気アイロンをあてる「湯のし」などをする両親を見て育った。上記の画像は、20年程前のモノだが、父母のコンビにより我が家で「湯のし」をやっている姿である。

僕は、子どもの頃「手伝い」と称し仕事の邪魔をしていたようだが、そのおかげで水をくぐった風合いや、糊が抜けてふっくらと仕上がった着物の良さなどを、直に触れることが出来ていたようだ。

加工の職先は、京都が主になるが工程も価格も様々だ。熟練の技を誇る京都の加工場は、仕上がりが違う。糊の落とし加減が絶妙で、やわらかくとても良い風合いに仕上げてくれるのだ。少し専門的になるが、着物によって糊を落とす時間やお湯の温度、そして湯のしの圧力のかけ方も違うのである。時間もお金もかかるが、私たちが求め続けてきた温もりのある自然な風合いを生み出してくれる、その道一筋の職人技に脱帽だ。

また、水をはじく防水加工だが、天然素材が呼吸できないような気がするので草木染めの紬にはあまりオススメしていないが、訪問着などの染の着物には加工をしていた方が安心だ。紬の着物は地色にもよるが、お客様が「風合い重視」なのか、「汚れ防止重視」なのかをお尋ねしながら、加工をするかしないか最終決断をするようにしている。

もう一例あげよう。結婚式や葬式などの節目に着る大切な着物に、留袖(とめそで)・黒紋付(くろもんつき)などがある。その着物には、先祖代々の家紋(かもん)を入れるという風習がある。家紋を入れることを「上絵(うわえ)」というように、家紋を細い筆で書くのが本来の仕事で、一反一反に心を込めた手仕事を通して、着物に愛情を注いでいるのである。

現在では、スタンプやシール調の紋入れが半数を占め、手仕事加工が少なくなってきている。一見スタンプの方が綺麗に見えるかもしれない。綺麗なモノと手仕事の美しいモノとは違う。
私たちは、日本の伝統文化を継承するためにも手加工にこだわり、家系を守り育んだご先祖に感謝し、その思いを今に伝えていきたいと考えている。

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