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『マザー・スノー』覚醒スレバ、発令セヨ①
帰宅後に夕飯を済ませた優希は、自室のベッドに仰向きで横たわっていた。
『食ったあとすぐに横になれば牛になる』という、古くからの言い伝えを忘れ1時間近く虚ろな目で天井を見つめている彼女。
やがてのっそり起き上がったかと思いきや、
「そうだ、明日、休みだ。」と呟き、床に転がしてあった買い物袋を拾い上げた。
中から取り出したのは、チョコレートのかかったダイジェスティブビスケットと、コンソメ味のポテトチップス、そして当時のギャルなら誰もが飲んでいた青春飲料『リ●トンのミルクティ(紙パック500ml)』。
それらを勉強机の上に並べだした。
明日がお休みの日は、早く寝るのが勿体無い。
彼女はいそいそと、夜更かしの準備に取り掛かる。
片膝を立ててだらしなく椅子に腰掛け、パカパカケータイのワンセグを起動させた。
ちょうどその時間に放送されていたのが、不幸な生い立ちのメガネ少年が魔法学校に通う物語りである。
小さな小さなガラケー画面で見るその画は、臨場感の欠片もなかった。
ホウキで飛び回る主人公たちが羽虫にしか見えなかったので、優希はケータイを顎で閉め、ため息をついた。
「そもそも、、魔法で視力は治らないんかなぁ。」
女友だちにメガネを直して貰っていた映画の主人公について、ふと、どうでも良い疑念が優希の頭をよぎる。
しかし次の瞬間には忘れ、彼女はミルクティーに付いている応募シールを剥がし、それをビニール製の机カバーの左端に貼りだした。
既に8枚ほど貯まっている。しかし結局いつも応募はしない。
「応募…。あ、そうだ…。」
勉強机の右端下段、一番大きな引き出しを開けて、中からF4サイズのスケッチブックを取り出した。
そこには彼女が今まで創り上げてきた、ポップ広告の原案たちが描かれている。
紙パックのミルクティを開けて、長めのストローを挿し、そして勢いよく吸い上げた。
するとミルクティの糖分とカフェインで、優希の頭はみるみる内に覚醒していく。
カッ!!と目を見開いた彼女は、何者かに取り憑かれたかのようになり、そして一心不乱になって、ラフなタッチで何やら色々と一所懸命に鉛筆で描き始めた。
1時間が経過した頃、吸い上げるストロー音がミルクティの終わりを告げた。
水分補給なしでいただくダイジェスティブビスケットは、非常にモソモソして口の中の水分を一斉に奪う。
その不快感に耐えかねた優希は立ち上り、忍び足で階段を降り、真夜中で真っ暗なリビングに潜入する。
大きめのグラスに冷たい牛乳を波々注ぐと、すぐさま自室に戻ろうと、階段に目線を移した、その時。
『Don't use your talent now』
『Don't apply for the competition』
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