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【エッセイ】孤独な母と避けられない訪問者

自分でも分からないが、心が閉じている日がある。

そんな日は決まって朝からイライラスイッチが入りやすく、後で考えればくだらないことにも、子ども達のわがままや悪さにも寛容になれない。

周りの大人に対しても、ぎこちない挨拶と誰がどう見ても分かる作り笑顔でしか対応できず、心底自分が嫌になる。

もういい加減大人なんだから、表情に出さないよう気を付けないと……


極力、人と関わるのを避けて、家に引きこもっていたある日の昼下がり、避けられない人物が我が家を訪ねてきた。

警察官だ。

えっ……なんかしたっけ……
(警察官とかパトカーとか見ると、何も悪いことしてないのに、何か悪いことしたかと焦ってしまうのはなんなんだろう)

おそるおそるドアを開けてみると、地域の担当お巡りさんで、家庭訪問をしに来たそうだ。

ほっ……
(いや、だから何も悪いことはしていない)

体格が良く、眼光も鋭いが、話してみると優しいおじさんだった。

玄関先まで私と一緒に出てきた3歳の息子を見て、微笑みながら、ご自身の子育てを振り返り、私に労いの言葉をかけてくださった。

「子育ては大変だよね。でも、あっという間だから」

20年前の息子さんを思い出しながら笑顔で語っている、お父さん。

きっと色んなことがあったけど、今でも良い親子関係なんだろうと思わせる表情だった。

子育ては時に孤独を感じる。

孤独は不安を増長させ、はじめから僅かにしかない自信をも喪失させてしまう。

心が閉じていたのは、自信のない自分を誰かに見られたくなかったからかもしれない。

人との関わりを自ら遮断していることにも気付かずに、
孤独を作り出しているのは己だとも気付かずに、
目に映る全ての人が敵のように見えてしまうのだ。

孤独感が作り上げる世界は、この目に冷酷だ。


そんな中、突如現れたお巡りさん。

「子育ては大変だよね」

何気ない一言は孤独を感じる一人の母を救ってくれた。

共感してくれる人がそこにいる。
孤独ではない。
張り詰めていた私の緊張がほぐれた瞬間だった。


明日は笑顔でみんなに挨拶しよう。
口角を上げていくことにしよう。
子ども達をいっぱい抱きしめよう。

優しく、前向きな気持ちが湧いてきた。

20年後、こんなこともあったなと笑顔で語れるお母さんになれるよう、一日を大切に過ごそうと思う。

ここまで読んでいただきありがとうございます。執筆の励みになります。これからも日々精進してまいります。