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採用と、少し春には早い別れの冬

今思い返すと、採用の仕事を初めて楽しいと感じた出来事だったかもしれない。

約六年前だろうか、当時たしか私は営業支援のエンジニアチームのマネージャで、メンバーの中途採用の指令を受けた。マネージャは書類選考と一次面接官を担当し、メインミッションを抱えながら採用活動タスクもこなす形。当時の空気的には今ほど現場の協力も当たり前ではなかった記憶で、ある意味仕方なくやっていたところも正直少しあったように思う。

当時、エンジニアの採用を目指すチームは勿論他にもあり、要件スキルセットが似通った求人ポジションだと対象となりえる候補者を一斉に選考する形だった。このやり方だと書類選考は結果的に大体みんな不合格かみんな合格になりがちなのだが、あるエンジニアの書類選考結果は私だけが合格という結果だった。
評価コメントには、「これまでのご経験と求めるものがミスマッチ」だったり「サービスグロース開発の経験値が足りない」だったり、これまでの開発経験が自社で求めるものと交わるかどうかをより重視した評価が多かったように思う。
私はというと、「経験こそアンマッチだが自己PRなどから学習意欲が高そうでとりあえず会ってみたい」というような評価をした感じだったはず。

かくしてそのエンジニアの彼と1対1で一次面接を実施。面接では選考官である私の質問そっちのけで本当に楽しそうに技術のことやこれからやりたいこと伸ばしたいスキルについて機関銃のように話した。人によっては「話が長い」とマイナス評価になるぐらい。結局トントン拍子で内定、採用にいたるのだけど。
それはそれは楽しそうに技術についてひたすらしゃべる彼との面接の情景は今でもよく覚えている。

正直かっこ悪い話なのだけど、結果的に私(のチーム)だけがそのエンジニアを採用するチャンスを得てチームにジョインしてもらったことを秘かに誇らしげに思っていた。見る目あるな俺って感じで。
でもそのちょっとした優越感だけでなく、テキスト情報だけで測る事がいかに難しく、自分の目や耳や五感全部と経験で見極めことがいかに楽しいか、それを強く実感し得られた出来事だったと思う。
こんな経験は珍しいものではなく数をこなせば誰でも経験することだろう。だけどその時の私にとってはちょっとした刺激だった。

そして今、私は採用の仕事を本職になんとか頑張っているのだけれども、先日そのエンジニアの彼が退職することを知った。
基本的に人事組織に所属する私が従業員の退職を知るのは他のみんなが噂話をしはじめる少し前、社内のワークフローシステムで人事案件稟議が決裁されたタイミングで、正直それを見たときはとてもガッカリした。
とても楽しそうに仕事をしているように見えたし、彼自身、順調に成長できているじゃないかと見えた。
企業成長もしてるし、それにこの会社での仕事はやりがいがある。


その彼は入社後、期待を超えて活躍し等級(お給料)もどんどん上がってエンジニアのエース級にまで成長してくれた。
仕事の内容は厭わずどんなにハードでも単独で突破していけるスキルと胆力を持ち合わせていてビジネス感覚もあり、初めましての人でも関係なくすぐに打ち解けられるコミュニケーション力もあり。
もちろん完璧ではなく課題だってあるが有り余る魅力のある人物だ。
…少し褒めすぎかもしれない。

その彼が、退職日も決まったのでフロアが違う人事の私のところまで報告にきてくれた。その後、彼が社内用のblogに退職エントリーを綴っているのを知り、読んだ。
色々と正直に、だがディスるわけではなく思うところが綴られていた。
私が十分だろうと勝手に思っていたエンジニアとしての能力やビジネス能力が足りなくやるべきことがやれないことに悩み、より厳しいスタートアップの環境で成長すると決めたそうだ。
いつの間にか私の知らないもっと高いところを目指していた。

そして彼は私に、十分に成長できたと思ったらもう一度帰ってきたいと言ってくれた。そうすればもっとこの会社に貢献できると言っていた。
どこまで本気かどうかなんて分からないし、正直、本当に帰ってきてくれる可能性の方が低いだろう。
それでも嬉しい。
彼を採用することになり彼の人生にほんの少しでもポジティブなキッカケを与えられたのかもと思ったら何かとても自分が誇らしくなった。
そして私にとってもキッカケになった。

採用という仕事はおもしろい。
一人ひとりの新しいスタートを応援することができるだけでなく、スタートから知れることで一人ひとりの次のリスタートも違った思いで見送ることができる。
エンジニアの彼の大きな成功をただひたすらに願う。
ありがとう頑張って。


最後に。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
拙く長いポエムですみません。
もし、少しでも採用の仕事に興味を持っていただけたら嬉しいです。