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脈がないならAEDでも持ってこい


恋の話をしよう。

もう何年も恋人が出来ず、それでいて脳味噌で恋をして、結婚願望も年々薄くなっている私の、たった一つの恋の話。



ことの始まりは中学時代まで遡る。

当時同じクラスの男の子が好きだった私は、友達とその彼氏に協力してもらって相手の連絡先をゲットし、ほぼ毎日メールをしていた。

彼とは、学校で全く話さないわけではないけど、気軽に話せるわけではないような「友達の友達」みたいな距離感だったように思う。

(好きだからとかではなく元々そんなに仲が良くなかった。悪くもなかったけれど)

さらに、当時クラスの男子生徒からいじめられていた私はなんとなく男性に対して恐怖心があり(元は男女分け隔てなく話せるタイプだった)、うまくアピールできないでいた。

だからこそクラスの誰も知らない電子機械だけで繋ぐ関係はとても貴重で、楽しかった。



彼があのバンドを聴いているといえば、兄の部屋からCDをくすねて全曲覚えるくらい聴いたし、彼が入っていた運動部のルールを勉強したりもした。

彼が体育祭の応援団に入ると知れば、運動なんか大して出来もしないくせに私も入団した。

彼の好きなものを私も好きになりたかったし、私のことも好きになって欲しかった。

そしてバレンタインデーに手作りのチョコレートをあげて告白し、振られた。




振られたのだ。




その日は加藤ミリヤのラブソングを聴きながら夜通し泣いた。

いま思うと何の勝算もない告白だったが、その時は死ぬほど泣いたし死んでしまいたかった。

好きすぎて周りが見えていなかったのだ。




その後高校に入学してすぐに、彼を忘れようと付き合った人もいたが全く好きになれず別れてしまった。

高校時代も地元の祭りや花火大会などがある度に、連絡をしていたように思う。(自分から誘っていたわけではないので、なんで連絡していたかは不明)

それも徐々にやりたいことを見つけたり、進路で悩んだりするうちに、卒業後一度も会うことのなかった彼にわざわざ連絡することは無くなっていた。

もう一生、会わないと思っていた。




そして成人式。

中学時代失念していた成人式。

当然同じ中学の私たちは5年ぶりに再開するわけだが、彼は全く変わっていなかった。

顔は少し大人びていたし、背も伸びていた。

ただ、話し方や表情なんかはあの頃のままで古いアルバムの1ページを久しぶりに開いてみた、そんな感じだった。

懐かしくて、温かくて、まだまだ今でも全然好きだなあって言えたけど私がその言葉を口にすることはなかった。

私もやりたいことがあったし、彼は地元を離れて東京の大学に行っていた。

もう一度彼への気持ちを持つにはあまりにもお互いが別の方向を向いて居て、現実的じゃなかったのだ。

だから、私はまたアルバムを閉じた。





大学4年の卒論提出後、暇になった私は街に繰り出した。

ナンパ居酒屋にも行ったし、相席屋にも行ったし、ナンパにもついて行った。

マッチングアプリは主要なものは全部やった。

色んな人に会ったし、毎日別の人と毎日お酒を飲んで毎日遊んだ。

完全に黒歴史でありメンヘラ期であり私の人生になくてはならない大切な時期だった。この時期があったからちゃんと、大人になれた。



まあ予想はしていたがナンパ居酒屋や相席屋には私と合う人はいなかったけど、マッチングアプリには選んだ分いい感じになった人もいた。(おそらく相手も前向きな気持ちを持ってくれていた)

ただ、いつも最後の最後に違和感を感じてしまう。


「もうちょっとこうだったらなあ」

「ここが違うんだよなあ」

いつも明確な基準があって誰かと比べているようだった。




彼だった。



私の基準が全て彼になっていて、彼と似ているところを探して惹かれては、彼じゃなかったと突き放してきた。

外見だけでいえば、瓜二つな人もいた。

でも彼と重ねて見てしまって、彼じゃないことに余計イライラした。

彼がよかった。





正式にそれに気づいたのは、今年に入ってからだと思う。

色んな人に出会っても上手くいかなくて、好いてくれる人がいても好きになれない自分に腹が立って、今まで見ないようにしていた原因にそろそろ向き合わなければと決意したのだ。

そして早速彼に連絡したのが今年の夏。

成人式の日には別々の方向を向いて前に前に突き進んでいた私たちの意識は、地元へと戻ってきていた。

彼も仕事の都合で地元に帰ってきていたし、私も、離れてはいたが月に2回ほど地元に帰ってはいた。

お互いが仕事に慣れ、諦め、大人になった。

そして今日彼と4年ぶりに再開した。




少し会って昔話をしただけだったが、とても楽しい時間を過ごせたのは私の勘違いではないと思う。

会う前は緊張して心臓が口から飛び出しそうだったけど、待ち合わせ場所に現れた彼を見て、なんだかほっとした。

全く、変わっていないのだ。

いつ見ても彼はよく笑って、気さくで、斜め下から覗き込んで見える表情はいつもいつも穏やかだ。

他愛もない話をして、帰りは家まで送ってくれて(中学の同級生なので家はそんなに離れていない。そして私の家の方が手前にあったので嫌でも送ることになった)、帰りは両手で手を振っていた。とっても可愛かった。




帰り際「今日は楽しかった」とわざとらしく言った私に「俺もー」と返した。

「気をつけて帰ってね」と可愛こぶった私に「こちらこそ、またご飯でも行こう」と返した。

帰宅後に再度念押しして「今日はありがとう、久々にめっちゃ楽しかった」と連絡する私に「またご飯でも映画でも行こう」と再度返してくれた。

別に、再び恋を始めようと思ったわけではない。それだけではない。

これでとても嫌な人になっていたとしてもそれはそれで前に進めると思ったし、良い人だったとしてもあの頃のようなときめきを感じるとは思えなかった。

実際に、ときめいてはない。

あの頃のように純粋な気持ちだけで人を好きになれなくなってしまったからかもしれない。



ただ、

彼は優しいからお世辞かも知れないけれど、それでも、この恋が脈を打ち始めたと期待してもいいだろうか。




10年程前、素手で挑んで負けた相手に、化粧やファッション、ナンパ居酒屋と相席屋とマッチングアプリで覚えてしまったあざとさを駆使してもう一度リベンジしようと思う。

経過を書くかどうかはまだ決めていないけど、どちらにせよ結果が分かれば報告の文章を載せようと考えている。

長い時間が経ったのだ。

今更焦ることもない。

頻繁に会えるわけでもない。

気長に、穏やかに前に進めば良い。




けれど最後に、大学時代持ち前の美貌と愛嬌で人気者だったキュートな同期の名言を残してこの文章を締めることにする。





「脈のありなしなんて関係ない。

脈のない人間なんていないじゃん?
不安ならAEDでも搭載して挑めばよくない?

ずるでも良いじゃんね。

目の前で死ぬのただ待つくらいなら持てる武器全部持って心配蘇生しよ♡」

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