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「警察の持ち時間は48時間」と書いている法律系ライターさんたちにお伝えしたい、逮捕後の実務

最近は「弁護士サイトに間違いがある」とか「ウソ書いちゃダメよ」みたいな批判的な言い回しが多かったように感じる私。

実は、少し反省しています。

だって、自分も専門外のことを書いてウソついちゃってる場面が「絶対にない!」とは断言できませんからね。

そこで、今回はすべての法律系ライターさんたちへ、私からの還元という意味で「逮捕後の警察の流れ」を超絶リアルにお届けします。

今回は、ちょっとフランクに書きたいので文章の体裁が思い切り崩れたままでお送りします。

お見苦しいかもしれませんがしばしお付き合いください。


「逮捕から48時間以内に送致する」は本当か?

刑事事件に関するライティングをしていると99%の確率で登場するのが「警察は逮捕から48時間以内に送致する」という表現です。

このほか、同じ意味の言い回しを挙げてみます。

・警察の持ち時間は48時間です
・逮捕から48時間以内に送致の必要性を検討します
・警察は48時間を限度に捜査をおこないます

はい、すべて同じ意味ですね。

刑事事件のコンテンツを執筆している方なら「送検します」という言い回しが正しくないことはご存知かと思いますが、正確に「検察官送致します」といってもキーワードがひっかからないのでバランスよく「送検」という表現を織り交ぜるといいでしょう。

たとえばこんな感じで。

・ニュースなどでは「送検する」といいますが、正しくは「送致」です

なお、私はカッコ書きが嫌いなので「送検(正しくは送致)」や「送致(送検ともいう)」といった書き方はしません。

なぜなら、言い訳臭いから。

楽して注釈するくらいなら、ちゃんと丁寧に説明したほうが良いと信じています。

さて、この「逮捕後48時間以内に送致」とは本当なのか?

これは刑事訴訟法に定められている厳格な規定なので、絶対に守るべきお約束です。

第203条(司法警察員の逮捕手続、検察官送致の時間の制限)司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取ったときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

48時間以内の送致が間に合わなかったとかいうミラクル事件は聞いたことがありません。

どんな手段を用いてでも間に合わせます。

だから、まずは「48時間以内に送致します」は正解です。


実際は36時間程度で送致している!

48時間の持ち時間をいただいている警察。

でも、逮捕後の48時間ギリギリで送致することなんてまずありません。

ちょっと仮題をもとに考えてみましょう。

ある事件が発生して、被疑者Aを逮捕しました。逮捕時間は8月1日の午後10時ちょうどでした。さて、送致はいつ?

すでにライティングを通して刑事手続の流れを勉強しているライターさんたちや、大学で法学部に所属していた方なら、こう答えるでしょう。

答えは48時間後の「8月3日午後10時」だ!

まあ、間違いではないのですよ、これでも。

でも、ちょっと肝心なことを無視しています。

それは「午後10時には検察庁が開いていない!」ということ。

検察庁の執務時間は午前9時から午後6時までで、それ以降は検視の指揮などのために当直検事が常駐していますが、基本的に検察庁は閉庁しています。

送致後は、そのまま検察官による取調べ、通称「検事調べ」がおこなわれるので、午後10時なんかに取調べをすることになります。

これは被疑者の人権を配慮する意味では避けるべき行為となります。

よって、そんな時間に送致を受け付けてはくれません。

この仮題をみて、送致業務の流れを理解している警察官ならこう答えるでしょう。

答えは「8月3日の午前10時」だな

いやいや、待ってくれ!

それじゃあ「逮捕後36時間」じゃないか!

でも、これが真実です。

警察はほとんどの事件を36時間程度で送致しています。


検察庁は「午前送致」と「午後送致」の2パターンしか受け付けていない!

検察庁は、親切に「逮捕時間が午後10時だから、48時間後にどうぞ」なんて言ってくれません。

実は、検察庁の送致の受付は「午前送致」と「午後送致」の2パターンしかありません。

午前送致は午前10時あたりを目安に、午後送致は午後2~3時までを目安に受け付けられます。

しかも、警察が「明後日の午前送致で」といって勝手に決められるわけではありません。

警察は、被疑者を逮捕すると必ず検察庁に「逮捕しました」という連絡をいれます。

すると、検察庁から「じゃあ送致は明後日の午前ね」というふうに指定されます

なんと、送致の時間は検察庁が指定した日時が締め切りなのです!

だから、先ほどの仮題の時間を「午前10時」に置き換えた場合は「8月2日の午後送致」となるため、実質的には28時間程度で送致することになります。

こんなスケジュールだから、午前中の逮捕ってホントに大変なんです。

「あ~もう!なんでこんな時間に逮捕しちゃうかなぁ」なんて嫌味を言われることもしばしば。


逮捕後の取調べは何時間くらい?

いくつかほかのライターさんの記事を校正する中で目についたのがこんな書き回しです。

・警察は48時間の取調べの後に送致します

どうやら、時間いっぱいの取調べが可能だと勘違いしているようですが、48時間いっぱいまで取調べをしていたら間に合いません。

取調べを終えたら供述調書に警察署長以下の幹部が目を通し、書類を決裁し、留置場から被疑者を出場させて護送車に乗せ、警察署から検察庁まで護送するわけですから、取調べばかりに時間を割くわけにはいきません。

では、被疑者を逮捕した警察には、実際にはどのくらいの取調べ時間があるのでしょうか?

実は、逮捕後の取調べは8時間程度が限界です。

逮捕後の手続きは超過密スケジュールのなかでおこなわれます。

取調べだけでなく、留置場の新規入場の手続き、健康診断、指紋や写真など鑑識資料の採取も必要です。

しかも、留置場は捜査部門と分離されているので、刑事が「もっと取調べが必要!」といっても、留置係員は「いやいや、夕食の時間だから帰らせて」とか「就寝時間になるから取調べはやめて」と言って譲ってくれません。

昔は刑事部門が留置場を管理していたので夜中だろうが取調べをしていたそうですが、現在は「捜留分離」といって、いくら捜査の必要があっても留置部門が被疑者の人権を尊重し、食事や休憩、就寝を管理してきます。

しかも、被疑者の取調べは、原則「1日に8時間を超えられない」という規則があります。

これはあまり知られていないようですが、被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則という国家公安委員会規則によって定められています。

(3)みなし監督対象行為(第2項)ア 内容次に掲げる場合において、警視総監、道府県警察本部長若しくは方面本部長(以下「警察本部長」という。)又は警察署長の事前の承認を受けないときは、これを監督対象行為とみなすこととした。(ア)午後10時から翌日の午前5時までの間に被疑者取調べを行うとき。(イ)一日につき8時間を超えて被疑者取調べを行うとき。

これは「(ア)と(イ)に該当する取調べをおこなう場合は警察署長以上の許可を得なさい」という規則ですが、いくら「許可をくれ!」といってもホイホイ許可してもらえるものでもありません。

この規則を守ると、パターンとしては次のような取調べになります。

・夜間に逮捕した場合は、その夜の取調べは諦めて、翌日8時間の取調べで翌々日の午前送致

・日中に逮捕した場合はその日のうちに8時間の取調べをして翌日の午後送致

なんということでしょう…

ということは、実務に対してリアルな記事を書こうとすると「警察に逮捕されると、8時間程度の取調べを受けて、28~36時間後に送致されます」となるわけです。


逮捕後に作成される供述調書は2通

被疑者を逮捕した警察は、逮捕後に供述調書を作成して送致書類に綴ります。

逮捕後には、まず弁解録取書という供述調書のようなものが作成されます。

通称「弁録」と呼ばれ、巡査部長以上の階級でないと録取できないという規定があります。

これは「あなたは◯◯という罪で逮捕されたけど、弁護士さんを選任する権利はあるからね」と伝えて理解した、という手続きの担保です。

通常は用紙1~2枚以内で収まる内容になります。

たとえば、窃盗事件の場合は「今、スーパーで万引きして逮捕されたと改めて聞かされましたが、たしかに万引きをしたことに間違いはありません。理由はお腹が減っていたからです。弁護士さんを選任できるという説明を受けましたが、ちゃんと理解しました。弁護士さんは◯◯法律事務所の◯◯先生を呼んでください。」という程度です。

なお、新聞やニュースで「容疑者は理由について~~と語っています」とか「容疑者は全面的に否認しています」といった内容が報道されますが、その内容はここで紹介した弁解録取書がベースとなります。

自分が弁録を巻いた事件では、翌日の報道で「容疑者は◯◯と供述しています」と聞くだけで「うほぅ、オレが取った弁録のまんまじゃん!」と興奮してしまいます。

さて、弁解録取書を取り終えたら次に供述調書(甲)が作成されます。

(甲)とは被疑者の調書で、これが(乙)だと被害者や参考人のものになります。

供述調書は、次の2通が作成されます。

・犯行の動機や経緯などをカンタンに説明する「事実」の調書

・被疑者本人の経歴などを説明する「身上」の調書

感覚として2通で10枚程度ですが、これらの内容を聞き取って調書を作成し、完成品を読み聞かせて確認してもらい、最後に署名・指印をもらうので、8時間でギリギリです。

被疑者には都合が悪いことは無理にいわなくてもいいという供述拒否権があります。

いわゆる黙秘権というヤツですね。

この存在があるからといって「逮捕後の取調べには黙秘権を行使しても良い」なんて書いちゃうと100点満点の50点です。

供述拒否権は、容疑がかかっている犯罪について、詳しく説明すれば自分の生命に危害が及ぶとか、実は他人の身代わりになっていてその人に捜査の手が伸びてしまうといった不都合がある場合に供述を強いないという考え方です。

単に「逮捕されて腹が立つし、言いたくないから言わない」のは供述拒否権ではなくただのダダこねです。

さらに、事実の調書には供述拒否権が通用しますが、身上の調書には通用しません。

身上の調書は、被疑者の生い立ち、家族、仕事、学歴・職歴、犯罪経歴、資格、健康状態、趣味嗜好、性格、長所・短所などを録取するものです。

検察官や裁判官に「この人はこんな人ですよ」と説明するプロフィールのようなもので、犯罪事実とは関係がないので、供述拒否権が使えません。

まあ、ムリに行使してもそれはそれで通用しますが、たとえば「これまで真面目に仕事をしてきた!」という人の場合は、身上の調書でその状況を説明しないと弁明する機会がありません。

これまでの行状が良い人にとっては、身上の調書で供述拒否権を行使することで情状酌量の材料を失ってしまいます。

だから、むやみに「黙秘しても良い」なんて説明するのは間違いです。

本人に不利益を引き起こすので、慎重な書き回しが必要となるでしょう。


「逮捕後の送致、実際は28~36時間です」なんて書かなくても結構です

この記事を書いた目的は、法律系ライターのみなさん、とくに刑事事件のコンテンツを執筆している方に、リアルな裏事情を知っていただくためです。

今回の内容を理解できれば、きっと刑事手続きの流れを説明する際の執筆がラクになります

かといって、リアルに基づいて「逮捕後の送致は、いろいろあって実際のところ28~36時間でおこなわれています」と書くべきだ!なんてことを言っているわけではありません。

これからも引き続き「警察=48時間」の説明でいいと思いますが、間違っても「48時間の取調べ」なんて無茶苦茶は書かないようにしましょう。

なお、今回の記事の内容は、Wikipediaでも軽く触れられています。

警察官は原則として逮捕後48時間以内に検察官に送致手続をとらねばならないが(刑事訴訟法203条)、実際問題として、被疑者の仮眠・食事等の時間や捜査員の労働時間等を考慮し、送致すべき時間を伸ばすべきであるという主張もなされている[1]。

読み飛ばしてしまいそうな説明ですが、捜査員の労働時間にまで言及してくれているあたりに優しさを感じてやみませんね。


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