見出し画像

2022年、フランス大統領選挙: 選挙戦最終日の状況。

 決選投票前の選挙戦最終日となる4月22日金曜日、マクロン氏はフランス南部ロット県にある古都フィジャックへ遊説を行った。ここロット県は、伝統的な南フランスらしい雰囲気が残る地域であり、高付加価値な食品産業とそれを支える農業から成り立ち、政治的にはオランド政権の頃まで社会党の牙城であった。そのオランド氏を軸とする社会党中道右派を改組して、共和党の一部と合流・拡大して生まれたのがマクロン氏が2017年に旗揚げした現在の与党La République en Marche (LREM)であり、マクロン氏はロット県で、従来のオランド氏支持層を受け継ぐ形で、前回2017年、今回2022年ともに第1回投票では第1位の得票を得ている(マクロン氏の今回の第1回投票は24.97%の得票)。また、かつてオランド氏を中心とする勢力が社会党を中道右派寄りに大きく方向転換させたときに、袂を分かつかたちで社会党を飛び出し独自に左派勢力を形成したのが、現在の急進左派政党La France insoumise(LFI)を率いるメランション氏である。ロット県の今回の第1回投票では、メランション氏はかつての社会党左派支持層を取り込むかたちで、23.71%の得票で2位に付ける躍進をとげている。マクロン氏の与党LREMに対して、同じ伝統政党社会党を起源としながらも左派に軸足を置き勢力を急拡大させるメランション氏のLFIが猛追するという、現在のフランス政治の中の覇権争いを象徴するような選挙区であるロット県を、マクロン氏が今回の選挙戦の最終日の遊説の場所として選んだのは、やはり決選投票でのメランション氏支持者の取り込みを狙ったものだといえる。

 対するル・ペン氏は、フランス北東部のパ・ド・カレー県の風光明媚な海岸の町ベルクへ遊説を行った。パ・ド・カレー県は、経済的にはグローバル化とEU拡大により製造業を中心とした産業が移転に追い込まれたラストベルトになっている。政治的にはル・ペン氏の完全な牙城であり、今回の第1回投票では38.68%で第1位につけ、2位につけたマクロン氏の24.61%を大きく引き離している。パ・ド・カレー県では、弱者救済を掲げるメランション氏も第1回投票では15.78%と一定の支持を得ているので、ル・ペン氏はこうしたメランション氏支持者層の取り込みも当然狙っているのだろう。

 4月24日日曜日に行われる決選投票に関して、22日に調査会社イプソスが出した最新予測では、マクロン氏が57%を獲得し、ル・ペン氏の43%を下し勝利するとしているが、1日前と比べるとマクロン氏のリードが1ポイント下落した。

 第1回投票の結果をみると、マクロン氏の得票は9,783,058票であったが、ル・ペン氏の得票8,133,828票に、決選投票でル・ペン氏に大部分の支持者票が流れると予想される極右ゼムール氏の2,485,226票を加えると、既にマクロン氏を83万票以上超えている。第1回投票で3位につけたメランション氏の得票は7,712,520票と非常に大きく、この層の動向が決戦投票の行方を左右する。

 同じくイプソスが21日に出した聞き取り調査の結果では、第1回投票でメランション氏に投票した有権者のうち、決選投票では33%がマクロン氏へ、19%がル・ペン氏へ投票すると回答しており、マクロン氏へ投票するとの回答が1日前の結果から1ポイント下落、逆にル・ペン氏へ投票との回答は1ポイント上昇している。メランション氏支持者の中でマクロン氏への投票を考える動きが未だ積極的に広がっているとは言い難い状況だ。ただ、未だ態度を明らかにしないとの回答が48%もあるので、20日のTV討論で反多様性、反イスラムの姿勢が浮き彫りとなったル・ペン氏を阻止しようという動きがメランション氏のコアな支持者層の若者や移民系有権者の間で広がった場合には、態度を明らかにしていない層からマクロン氏への投票へ動く可能性はまだあるとみるべきであろう。

 また、特にメランション支持者を中心とした抗議の意思表示などを中心に、今回は棄権と白票が大変に多い決選投票となることは避けられないだろう。

 フランス大統領選挙の選挙戦は、選挙法の定めにより、直前の金曜日4月22日午後11時59分で終了となり、その後は、24日日曜日の投票終了後まで投票動向に影響を与えるメディア報道も行われず静寂が保たれることになる。

(Text written by Kimihiko Adachi)

(C)_Welle_Kimihiko Adachi_all rights reserved_2021_2022(本コラムの全部または一部を無断で複写(コピー)することは著作権法にもとづき禁じられています。)

■関連記事


最後までお読みいただきありがとうございます。