見出し画像

フィンランド、ロシアからの天然ガス供給停止について。

 フィンランド公営ガス輸入・配給オペレターGasum(本社所在地、エスポー)は5月20日午後に声明を出し、モスクワ/サンクトペテルブルク時間5月21日午前7時の時点をもって、ロシアよりパイプラインを介して輸入されている天然ガス(約1.7Bm3/年、2020年実績ベース )の供給が停止される旨、ロシア国営ガスプロムより通知を受けたことを明らかにした。

 Gasumのプレスリリースでは供給停止の理由については触れられていないが、フィンランド政府は既に4月の段階でロシアからのガス供給に対するルーブル建て決済の供給には応じないことを明確にしていたので、最終的にロシア側から提案されていたガスプロムバンクを介した代替決済方法(特別口座を開設し、ユーロ建てで送金、そのうえでガスプロムバンクに入金されたユーロをルーブルに替えたものが特別口座に同時に開設されるルーブル口座に入り、それをガスプロムが引き落とすというもの)にも応じない姿勢を貫き、その結果、ガスプロム側がガス供給を停止にすることになったということだろう。既にポーランドとブルガリアが4月にこの対応をとり、ガスプロムが供給を停止しているので、今回フィンランドが全く同じ対応を取ったということになる。

 フィンランドにおける天然ガス需要は2000年代に入りピークに達したが、2009年以降は熱源用を中心に国内産バイオ・フューエル(フィンランドに豊富に存在する森林資源を素材にしたもの)による置き換わりが急激に進み、現在では天然ガス需要は純粋な産業用用途向けに限定されているのが実情だ。フィンランド内では天然ガスは産出されず、そのうえガス供給は従来はロシアから接続されたパイプラインに依存していた。しかし、2020年1月に運開した、フィンランド湾をはさんだ対岸のエストニアのガス配給網とを接続する海底パイプライン(Balticconnector、最大容量2.6Bm3/年)により、現在のフィンランドは事実上エストニア側のガス供給網にも接続されている。したがって、今回ロシア側からのガス供給が止まっても、エストニア側からの供給増で対応をするのだろう。

 また、フィンランド国内のガス需要先は産業用に限定されており、一般家庭向け需要はないため、万一、エストニア側からの供給も不足する事態に陥った場合、フィンランドとしては、産業向けの供給調整を行えばよいだけだ。市民を巻き込む一般家庭用向けのエネルギー供給制限は政治的に難しく、そうした対応を取ることはほぼ不可能だが、産業向けの供給制限は経済損失の補填の問題を除けば、政治的には非常に容易な選択肢だからだ。

 なお、フィンランドはエストニアと共同で、自国内需要量を上回る十分な量のアメリカ産LNGを、積み下ろしターミナル設備(フローティング・タイプ)のレンタル込みで10年の供給契約を締結済であり(供給開始は今年後半予定、最大供給量はフィンランド・エストニア合計で5Bm3/年、ガス容積換算ベース)、したがって、今回ロシアからの供給停止により起きるガス受給問題は、実質的にはそれまでの間の数か月だけに限定された問題ということになる。

■参考資料: Natural gas imports from Russia under Gasum’s supply contract will be halted on Saturday 21 May at 07.00, 20.5.2022, Gasum

(Text written by Kimihiko Adachi)

(C)_Welle_Kimihiko Adachi_all rights reserved_2021_2022(本コラムの全部または一部を無断で複写(コピー)することは著作権法にもとづき禁じられています。)


最後までお読みいただきありがとうございます。