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フランス大統領選挙: 決選投票に向けた選挙戦の状況(1)

 4月24日に行われるフランス大統領選決選投票は、各調査会社が出す予想では接戦が見込まれており、第1回投票で僅差に付けられたマクロン陣営の決選投票に向けた選挙活動には熱が入っている。決選投票に向けた選挙戦初日の11日月曜日、マクロン陣営は苦手としているフランス北東部で支持の底上げを目指して遊説、対するル・ペン陣営も北東部での支持固めの遊説を行った。選挙戦2日目となる12日火曜日は、マクロン陣営は東部のドイツと国境を接するストラスブールへ遊説、ここはEU議会の本拠地であり、フランスがヨーロッパのリーダーとしてEU体制を支えるメッセージを打ち出し、EU懐疑派であるル・ペン氏を暗に牽制した。対するル・ペン陣営は、マクロン陣営の支持基盤であるノルマンディー地方を遊説した。

 有権者の関心は、生活をとりまく経済問題に完全に移っており、フランスでも進行しつつあるインフレが不安を更に煽る状態にある。3月の統計では消費者物価指数は前年同月比でまだ+4.5%だが、生活に直結する光熱費はすでに+28.9%に跳ね上がっている。この環境下では、ル・ペン氏が提唱する、燃料課税低減、消費税低減、年金支給額へのインフレスライドの導入、などの具体的な経済対策提言が、経済不安を抱える層からの支持を更に獲得するであろう。

 また、人物を選ぶ性格が強い大統領選挙において重要となる候補者のキャラクターに関しても、マクロン氏にとり必ずしも有利な状況ではない。調査会社イプソスが4月に有権者に対して行った聞き取り調査では、マクロン氏の資質について、大統領らしいかについては71%がイエスと答えたが、人々の関心事項を理解しているかについてはイエスと答えたのはわずか3%と極端に低く、国民意識との間に大きな乖離があることがみてとれる。これに対し、ル・ペン氏については、大統領らしいかについてイエスとの答えは18%と低いが、人々の関心事項を理解しているかについてはイエスとの答えが42%となっている。政界入りするまでの華麗な経歴から金持ちの代表のイメージを払拭できないマクロン氏が、4月24日の決戦投票までの間に、フランス国民が抱える経済不安に十分に呼応する提言ができるか正念場を迎えることになる。

 なお、ル・ペン氏のEUに対する姿勢であるが、前回大統領選挙までの脱EUの動きから転向し、EU内部にフランスが残りながらEUの連帯を弱体化させる動きを志向している。フランスはドイツと並びEU内部で大きな影響力を持つので、ル・ペン氏が志向する内部からEUを弱体化させようとする動きは、フランスが脱EUするよりある意味で危険であろう。フランスはEU内の経済大国として利益も享受しているが、EU市場内での競争という側面からは、フランスの主要産業である農産物ではスペインなどから常に競争にさらされ、工業製品ではドイツ企業との競争にさらされている。ル・ペン氏の自国ファーストな志向は、フランス国内の産業界から一定の支持を集めるだろうが、域内市場を統一するEUの理念とは真っ向から衝突する性質のものだ。

 経済格差に根差す社会問題に焦点を当て支持基盤を拡大し、EU懐疑の姿勢を取るル・ペン氏の選挙運動は、イギリスでナイジェル・ファラージ氏が主導した2016年のブレグジットのレフェレンダムの動きに非常に似た性格のものといえるが、より手が込んでいる(ファラージ氏も、もともとEU議会議員としてEU内部からブレグジットへの活動を始めた)。いずれにしても、ポピュリズムであることには違いはない。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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