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フランス大統領選挙第1回投票結果について(1)

 4月10日に行われ現地時間20時に投票が締め切らたフランス大統領選挙第1回投票は、開票途中なので最終値ではないが、24時段階の速報で主要候補の得票状況をみると、マクロン候補27.4%、ル・ペン候補24.6%、急進左派メランション候補20.9%、ゼムール候補6.9%、共和党ペクレス候補4.8%、社会党イダルゴ候補1.7%等となっている。決戦投票は4月24日に上位2名によって行われる。

 今回の第1回目の投票結果をみると、かつてのフランス政治の伝統勢力である共和党と社会党は、中央政界での影響力を完全に失ったといえる(ただし、依然として地方の政治では勢力を維持している)。2000年のフランス憲法改正で、大統領任期と議会任期を同じ5年に揃えた(それ以前は、大統領任期は7年と議会より長かった)。それにより、議会勢力でマジョリティーを支配しないと大統領権力が実質的に担保できない事態が生じることになった。この状況を最大限利用したマクロン氏と氏が率いる共和国前進(LREM)が2017年の大統領選挙での勝利と議会(下院)選挙でのマジョリティー支配を達成することに成功し、共和党と社会党の勢力は大幅に削がれた。

 今回、3位となり決戦投票には進めないが、メランション氏の22.2%は大健闘といえるだろう。メランション氏の支持基盤は、経済格差が広がるフランスで不安を抱える中低所得層(いわゆるイエローベスト運動勢力も含む)に加えて、移民層も含め非常に幅広い。従来の社会党の支持層のほとんどをメランション氏が吸収したと考えてよい。

 また、選挙戦に過激極右候補ゼムール氏が加わった影響を受けて、本来の極右イメージが相対的に軟化したル・ペン氏は、燃料課税低減、消費税低減、年金支給額へのインフレスライドの導入、などの具体的な経済対策提言を次々に打ち出し、経済不安を抱える層からの支持を広く獲得することに成功した。政界入りするまでの華麗な経歴から金持ちの代表のイメージを払拭できないマクロン氏が、4月24日の決戦投票までの間に、フランス国民が抱える経済不安に十分に呼応する提言ができるか正念場を迎えることになる。メランション氏は、選挙結果が出た後、支援者を前にしたスピーチにおいて、決戦投票ではル・ペン氏に投票しないよう呼びかけたが、支持層の大部分はマクロン氏との親和性は無いであろうから、多くはマクロン氏へは投票せず棄権か、あるいは呼びかけに反しル・ペン氏へ投票するのではないかと思われる。共和党ペクレス氏と社会党イダルゴ氏は、選挙結果が出た後のスピーチで、支援者に対して、決戦投票ではマクロン氏に投票するよう呼びかけた。

 極右候補ゼムール氏は、選挙戦を通じて反移民などの従来路線を貫き通し、得票は7%近辺に終わったが、選挙費用払い戻しを受けられる5%法定ラインはクリアしたので、まんざらではないと考えているのではないか。選挙結果が出た後の支援者を前にしたスピーチでは、決戦投票でル・ペン氏に投票するように呼びかけた。

 今回の第1回投票結果をうけ、調査会社イプソスが速報で出した予想では、4月24日の決戦投票ではマクロン氏が54%の得票でル・ペン氏を下し勝利するとしているが、予断を許さない。また、大統領選決戦投票と、その後の6月に迎えるフランス議会選挙に向けて、マクロン氏とLREMが、フランス国民のためにどれだけ効果的な経済対策を打ち出せるか、よく見ていく必要がある。マクロン氏と氏が率いるLREMが選挙戦を制したとしても、有効な経済対策を打ち出せない場合には、フランス全土に再度イエローベスト運動の大きな波が広がる可能性がある。

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(Text written by Kimihiko Adachi)

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